この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. form PWV/ABIの利用(私のやり方)④ 透析医療 小野久米夫 関越中央病院腎・透析科 野島 美久 群馬大学医学部生体統御内科 末期腎不全においては心血管系死亡率が著しく 高く、透析医療の最大の課題となっている。また われわれは末梢血管障害 (閉塞性動脈硬化症と同義、 るまでの時間)の延長。基準値170msec以上→ PADの可能性が高い。 ②%MAP(平均脈波高)の上昇(波形の尖鋭度が低下 peripehral arterial disease;PAD)は透析医療におけ する)。基準値44%以上→PADの可能性が高い。 る生命予後を規定する最も重大な合併症であるこ 個人差が大きく、上肢の%MAPで除した値の方 とを報告してきた。form PWV/ABIは心血管系死亡 が感受性、特異性が向上する。基準値0.88以上→ のリスク評価およびPADの診断にきわめて有用で PADの可能性が高い。 ある。 PAD診断 ③脈波の後半の成分であるdicrotic waveが消失し、 下降脚が直線化する。定量的ではないが診断的 価値が高い。 ABI(ankle brachial pressure index) PAD診断のゴールデンスタンダードとなってい るが、透析患者の場合でも診断的意義は大きい。 健常者においてABIは年齢および動脈壁硬化度と正 の相関を認めるが、透析患者においても下肢動脈 足踵上腕動脈拡張期血圧比(diastolic ankle brachial pressure index;dABI) dABIはsystolic ABIに比し偽正常化が少ない利点 がある。dABPI 0.85未満→PADの可能性が高い。 壁硬化の高度進展に伴いABIの正常値が上昇してい る。われわれは血液透析患者約1,000名のABI、拍 オプションで足趾上肢血圧比 (toe brachial pressure 動触診所見、Fontaine分類、生命予後等を観察し、 index;TBI) も測定可能であるが、TBI 0.6未満はABI 以下の診断基準を採用している。 0.9未満の約2倍の診断感受性があり、特異性も良好 0.9未満(頻度:全体の16.5%)→PAD確実。 である。さらに足の視触診、Fontaine症状について 0.9以上1.0未満(8.6%)→PADの可能性が高い。 の問診も併せて総合的に診断する。PADと診断した 1.1以上1.3未満→正常。 場合はできれば血管造影を行いステント留置、血管 1.3以上→PADではないが有意に死亡率が高く、 外科的処置の適応の有無も検討する。異常を認めた 要注意である。 ABIが1.1以上の場合でもPAD症例は存在するが、 頻度は低く比較的軽症である。ABI 0.9未満の場合 は即刻強力に治療を開始する必要がある。ABI 0.9 場合3ヵ月ごとの経過観察を行う。 生命予後分析 PADを正確に診断することにより、心血管系死 以上1.1未満の場合でも次に述べる容積脈波、 亡ハイリスク群を同定することができる。われわ diastolic ABIの異常を認めれば、早期の治療的介入 れはPAD診断パラメータはすべて強力な生命予後 が必要である。 予測因子であることを明らかにしている。 form ABI/PWVでは上腕動脈−足首動脈間脈波伝播 足踵容積脈波形 (pulse volume record) 速度(brachal ankle pulse wave velocity;baPWV)が 上流の血管狭窄に伴い容積脈波形が変化する。 測定可能である。baPWVは強力な独立した生命予 ①upstroke time(脈波の立ち上がりから頂点に達す 後予測因子であり診断的価値が高い。注意点とし Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.7 2005 1346-8375/05/¥400/論文/JCLS この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 図1 透析患者におけるABIの程度別生存率 図2 透析患者におけるbaPWVの程度別生存率 100 100 a a(n=250) b c 80 80 N=1,010 e b(n=250) 生存率(%) 生存率(%) d N=750 a:ABI≧1.1, <1.3 ハザード比=1.0 60 50 c(n=250) 60 b:ABI≧1.3 ハザード比=2.2 c:ABI≧1.0, <1.1 ハザード比=2.4 a:baPWV<1,785 ハザード比=1.0 d:ABI≧0.9, <1.0 ハザード比=4.8 b:baPWV≧1,785, <2,221 ハザード比=3.3 e:ABI<0.9 ハザード比=7.1 c:baPWV≧2,222 ハザード比=6.5 0 0 0 200 600 400 観察期間(日) 800 0 200 600 1,000 観察期間(日) 1,400 て、足踵より上流に狭窄があった場合に見かけ上 有効である。このように、PWV改善を目指した多 baPWVは改善することがあり、ABI 0.9未満の足側 くの治療法が開発されつつあり、今後期待される。 のbaPWVは評価対象とできない。 baPWV 2,200以上の場合は、3ヵ月ごとに経過観察 約3年間の維持血液透析患者の観察期間中、 を行っている。ABI(図1)とbaPWV(図2)を同時測 baPWV上位1/3高値群(baPWV値は約2,220cm/sec以 定することにより、きわめて効率的に心血管系死 上)は下位1/3低値群の約9倍の心血管系死亡率の上 亡ハイリスク群を同定可能である。ハイリスク群 昇 を 示 し た( 全 死 亡 率 で 6 . 5 倍 )。 し た が っ て 、 では心エコー、頸動脈エコー、脳MRI( MRA)等の baPWV 2,200以上の場合にはbaPWVを低下させるこ 心血管系のスクリーニング検査、CRP定量、BNP、 とを目標に治療的介入を行う。PWV改善効果が期 トロポロニンTおよびリポプロテイン(a)等の生命 待される治療としてACE阻害剤、ARBを用いた血 予後に関係する血液検査も定期的に行う。また冠 圧コントロール、スタチンによる高コレステロー 動脈カテーテル検査も適応であれば積極的に行っ ル血症の治療および一部の抗血小板剤の使用等が ている。 form PWV/ABIの利用(私のやり方)④ 透析医療
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