この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 第 15 回 臨床血圧脈波研究会 CVT セッション③ 脈管専門医からみた ABI の位置づけ 濱口浩敏(北播磨総合医療センター神経内科部長) 閉 塞 性 動 脈 硬 化 症 の ス ク リ ー ニ ン グ に お い て、ABI の血流波形を取得、鎖骨下動脈起始部を観察した結果、 (ankle brachial index)は最も普及している検査法といえ 左の鎖骨下動脈起始部に 3 m/sec の病変があった。波形か る。TASC Ⅱにおいて ABI が 0 .90 以下ならびに 1 .40 を超 らは右上肢にも異常が疑われたため腕頭動脈を確認した える場合は、潜在性心血管イベントの存在を疑うべきと ところ、可動性の血栓をみつけたため、急遽、手術に踏 されていること、ACC/AHA 末梢動脈疾患診療ガイドライ み切った。 ン 2011 においても、0 .90 以下ならびに 1 .40 以上を異常 値としていることなどからしても、ABI は非常に有益な検 症例 3 査法で、施設によっては血管内治療の前後で数値を確認 頭痛と複視で来院した 77 歳、女性。神経内科では一般 し、改善の有無を判断することがルーチン化されている 的な受診であり、まずは頭蓋内病変を評価した。その結 ところもある。 果脳梗塞がみつかり、原因精査を行った。頸動脈エコー上、 このようななか今回は、脈管専門医として「ABI/baPWV 両側総頸動脈に多層性の壁肥厚があり、側頭動脈エコー で見つかる血管病変」 「ABI を地域医療に活かす」という で halo サインを認めたため、側頭動脈生検を行い側頭動 2 点について述べる。 脈炎の確定診断となった。通常ならこれで終了となるが、 筆 者 は baPWV/ABI に 注 目 し た。 血 圧 は 右 127 /63、 左 ABI/baPWVでみつかる血管病変 127 /65 で左右差がなく、baPWV は右 2 ,129、左 2 ,115 症例 1 で高値、ABI は右 1 .18、左 1 .19 で左右差がなかった。し 62 歳、男性。依頼内容は「間欠性跛行のため、下肢動脈 かし波形の異常がみられたため鎖骨下動脈と上腕動脈の エコーの実施」で、カルテには ABI 右 0 .76、左 1 .15 との エコーを実施すると、両側鎖骨下動脈に炎症像、両側 記載があった(図 1) 。下肢動脈エコーでは右前脛骨動脈に IMC 肥厚あり、上腕動脈は post-stenotic pattern だった。 閉塞、右総腸骨動脈に狭窄が確認された。依頼内容には 血管造影検査を実施すると両側鎖骨下動脈から上腕動脈 なかったが、血圧が右 120 /70、左 97 /66 で左右差があり、 にかけて狭窄があった。側頭動脈炎は全身の動脈に炎症 波形にも異常があったため、頸動脈エコーを実施したと を波及させる。狭窄病変に対して、血管内治療で血流を ころ、右の椎骨動脈には順行性血流、左椎骨動脈には逆 改善させた。 流性血流があり、subclavian steal phenomenon がみつ ABI を地域医療に活かす かった。MRA を撮ると逆行性の血流が疑われた。また、 鎖骨下動脈の信号強度に左右差があり、近位部の狭窄・ 日本心・血管病予防会では「TAKE! ABI & Echo」という 閉塞が疑われるような画像で、血管造影でも起始部が描 啓発活動を実施しており、当院も地域の住民を対象に血 出されなかったため、 「左鎖骨下動脈閉塞」と診断された。 管年齢を調べるイベントを主催している。対象は 40 歳以 患者の主訴は間欠性跛行で下肢動脈エコーの依頼だった 上の男女で、各回 50 名募集している。イベントでは血管 が、最終的に左鎖骨下動脈閉塞をみつけられた。 年齢について筆者からの説明があり、その後に血管年齢 測定として血圧脈波検査、頸動脈エコー検査、腹部大動 症例 2 脈エコー検査(希望者のみ)を実施する。筆者のいる地域 間欠性跛行で来院した 75 歳の男性で、ABI は右 0 .84、 のように公共交通網の整備が不十分な地方都市では自動 左 0 .87 で左右差が小さい。大動脈狭窄を疑って脈波を 車が主な交通手段であり、住民の歩行機会が少ないこと 確 認した。下肢の脈波はなだらかで、%mean a r t e r y が推測される。そのため動脈硬化が存在しても間欠性跛 pressure(% MAP)が 45% 以上、upstroke time(UT)も 行などを呈していない潜伏性 PAD 患者が隠れている可能 180 msec 以上。上肢の波形が少しなだらかな感じを受け 性がある。 た。エコーではまず腹部大動脈を観察し、次に左右上腕 当院がある北播磨は神戸市の北側に位置し、人口 28 .6 25 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. CVT セッション③ 図 1 ● 症例 1 の所見 間欠性跛行で来院 ABI 依頼内容 「間欠性跛行があるので、 下肢動脈エコーをお願いします」 カルテには ABI 右 0.76/ 左 1.15 と記載あり 血圧左右差 右 120/70、左 97/66 波形異常あり 表 1 ● 血管年齢調査による ABI の結果 ABI 値 (右)平均 1.12 (左)平均 1.10 0.90 以下 0例 1例 0.91 以上 1.00 未満 3例 10 例 97 例 89 例 1.00 以上 上肢血圧の左右差例 1例→後日再検で左右差なし 万人の医療圏である。広報で依頼を出して血管年齢調査 なかった(表 1)。地方都市の高齢者における下肢病変の進 企画参加者第 1 回,第 2 回合計 100 名(男 32 名、女 68 名、 展状況は予想に反して有病者が少なかった。ただこれは、 平均年齢 66 .3 歳)を募った。参加者は総頸動脈 IMT、ABI 先着順で第 1 回は募集開始後 2 時間、第 2 回は 30 分で満 を測り、基本情報項目として跛行症状の有無を確認した。 席となったため,健康志向の強い方が応募したこと、平 実施方法は、最初に脈管専門医によるレクチャーを行い、 均年齢が 66 .3 歳と想定よりも若い市民が応募したことが 血管疾患を早期に発見する意義を伝えた。検査担当は 要因と考えられた。 CVT、超音波検査士などを有する検査技師・放射線技師 まとめ を中心に据え、相談窓口には脈管専門医を配置し,参加 者全員に結果説明を行った。異常がみつかった市民には ABIは簡便に動脈硬化の評価ができる有用な検査法であ 後日外来受診してもらい、精密検査を実施した。基本情 る。単に依頼された数値結果を確認して下肢動脈の狭窄・ 報では跛行症状を呈する人は 2 例、頸動脈エコーでは内頸 閉塞を判断するのみではなく、さまざまなデータから疾 動脈狭窄が 2 例みつかった。ABI の結果は、右の平均が 患を読み解くのが脈管専門医の腕の見せ所である。さら 1 .12、左の平均が 1 .10 で、0 .9 以下の症例が 1 例、上肢 には CVT と密に連携し、ABI の啓発活動を行うことも脈 血圧の左右差例が 1 例あったが、後日再検で左右差は認め 管専門医の重要な役割であると考えている。 26
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