動脈硬化検査(血圧脈波)実施報告 報告 H26 年 10 月 医療技術部臨床検査科 【はじめに】 動脈硬化症とは、文字のとおり「動脈が硬くなる」 ことです。動脈が硬くなると、その特性であるしな 各年代別受診状況を示します。(Fig2、3) Fig2 年齢 やかさが失われ、血液をうまく送り出せず、心臓に 性別実施状況 人数 40歳以下 8 41~50歳 27 血管の内側がもろくなって粥種(かゆしゅ)ができ、 51~60歳 62 血管が狭くなったり、詰まったり、粥種がはがれて 61~70歳 153 71~80歳 133 81歳以上 13 負担をかけてしまいます。また、動脈が硬くなると 血液中を移動し血管を詰まらせ、命にかかわる重篤 男 160 女 236 な疾患を発病させます。これがいわゆる心筋梗塞、 脳梗塞、閉塞性動脈硬化症(ASO)と言われる疾 Fig3 年齢別実施状況 患です。 そこで、(公財)豊田地域医療センターでは、心筋 梗塞などの重篤な疾患を予防し、受診者さまに今現 在の自己の血管状態を把握していただき、予防医学 的観点から H26 年度 4 月より 65 歳以上を対象と した高齢者健診(オリジナル) 、同年 7 月より人間 ドックのオプションとして、動脈硬化検査(血圧脈 波)の実施を開始しました。 81歳以上 71~80歳 61~70歳 51~60歳 41~50歳 40歳以下 0 50 100 150 200 【統計方法】 【実施状況】 今回 29 歳から 87 歳までの 396 名における 4 月から 8 月までに高齢者健診を受診した 138 CAVI(血管の硬さ)、ABI(動脈の詰まり具合)に 名(4 月 16 名、5 月 21 名、6 月 28 名、7 月 ついて、それぞれ年齢、BMI、さらに血液検査から 36 名、8 月 37 名)、7 月から 8 月までにドック 得られた測定結果(グルコース、中性脂肪、LDL- のオプションとして受診した 258 名(7 月 84 名、 コレステロール、HbA1c)との相関を集計しまし 8 月 174 名)、合計 396 名の動脈硬化検査を実施 た。また喫煙による関係についても、「過去に吸っ しました。 (Fig1) ていた」、 「吸っている」、 「吸わない」の3群に分け Fig1 違いを検討しました。 血圧脈波実施状況 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 【統計報告】 相関が得られたのは、CAVI(血管の硬さ)と年 齢との関係で、R2(相関係数)=0.4673(男女を 含む)と弱いながらも相関を認めました。総受診者 (396 名)および男女別の CAVI(血管の硬さ) 4月 5月 高齢者健診 6月 7月 8月 オプション 受診対象年齢は 29 歳から 87 歳、男性 160 名 女性 236 名でした。 と年齢における散布図を示します。 (Fig4) 血液検査から得られたグルコース、中性脂肪、 LDL-コレステロール、HbA1c および BMI につい ては相関を認めることはできませんでした。 CAVI(血管の硬さ)、ABI(動脈の詰まり具合)と Fig4 13.0 も喫煙との関係では、有意な相関は認められません 総受診者 年令-CAVI CAVI でした。一見すると CAVI(血管の硬さ)において、 y = 0.0686x + 4.2351 R² = 0.4673 12.0 「過去に吸っていた」群が、他群と比較し若干では 11.0 あるが高値傾向であることが認められますが、この 10.0 高値傾向は直接喫煙との関係が示唆されるのでは 9.0 8.0 男 7.0 女 6.0 なく、CAVI(血管の硬さ)と年齢における正の相 関に依存していると考えられます。 5.0 相関の得られなかった血液検査データーおよび 4.0 20 30 50 40 60 70 80 90 100 年令 BMI との相関係数を示します。 (Fig6) Fig6 CAVI 13.0 12.0 CA VI 男 年齢ーCAVI R y = 0.0686x + 4.2351 R² = 0.4673 11.0 9.0 R2 グルコース 0.0608 0.0276 中性脂肪 0.0039 0.0002 0.003 0.0069 HbA1c 0.0323 0.0131 BMI 0.0088 0.0195 LDL-コレステロール 10.0 A BI 2 8.0 7.0 CAVI(血管の硬さ)における基準範囲と判定別 6.0 比率を示します。 (Fig7) 5.0 Fig7 4.0 20 30 40 50 60 70 80 90 年令 CAVI 8.0 ↓ : 正常 8.0~9.0 : 注意 9.0 ↑ 女 年齢ーCAVI CAVI 12.0 : 硬い 判定 人数 比率(%) 正常 (しなやか) 126 31.8 9.0 注意 156 39.4 8.0 硬い (動脈硬化の疑い) 114 28.8 y = 0.0642x + 4.0799 R² = 0.4019 11.0 10.0 7.0 6.0 判定結果の比率 % 5.0 40.0 4.0 20 30 40 60 50 70 80 90 30.0 年令 20.0 喫煙(3群)と(CAVI(血管の硬さ) 、ABI(動 脈の詰まり具合)の平均値を示します。(Fig5) 10.0 0.0 正常 Fig5 注意 硬い CA V I A BI 年齢 過去吸っていた 8.81 1.13 66.7 注意レベルの受診者さまは 156 人・39.4%、硬い 吸う 8.33 1.16 59.1 (動脈硬化の疑い)の受診者さまは 114 人・ 吸わない 8.28 1.12 65.0 28.8%、合わせて 270 人・68.8%の受診者さま が、動脈が硬くなりかけ、その特性であるしなやか 【考察】 さが失われつつあることが疑われます。これらの受 (公財)豊田地域医療センターでは、心筋梗塞など 診者さまにおかれましては、 「適度な運動習慣」、 「規 の重篤な疾患を予防し、受診者さまに今現在の自己 則正しい食事の改善」 、 「適切な投薬治療」が必要と の血管状態を把握していただき、予防医学的観点か 考えられます。 ら H26 年度 4 月より 65 歳以上を対象とした高齢 者健診(オリジナル)、同年 7 月より人間ドックの ABI(動脈の詰まり具合)における基準範囲と判 オプションとして、動脈硬化検査(血圧脈波)の実 施を開始しました。 定別比率を以下に示します。(Fig8) CAVI(血管の硬さ)、ABI(動脈の詰まり具合) Fig8 ABI 1.01~1.40 : 正常 0.91~1.00 : 注意 0.9以下 : 詰まりの疑い :判定 ともに血液検査からのグルコース、中性脂肪、LDLコレステロール、HbA1c および BMI については相 関を認めることはできませんでした。CAVI(血管 人数 比率(%) 正常 376 94.9 注意 20 5.1 0 0.0 詰まりの疑い 2 の硬さ)と年齢との関係で、R(相関係数) =0.4673 (男女を含む)と弱いながらも相関を認めました。 CAVI(血管の硬さ)においては、年齢とともに 値が上昇します。その結果、動脈が硬くなりしなや かさが失われ、血管の内側がもろくなり粥種(かゆ 判定結果の比率 % しゅ)ができ、血管の中が狭くなったり、詰まった 100 り、粥種(かゆしゅ)がはがれ細い血管を詰まらせ 80 ます。また、動脈が硬くなることで血管はもろくな 60 り破れやすくなります。最終的には、心筋梗塞、脳 40 梗塞、脳出血などの重篤な疾患を発生しかねません。 20 こうした事態を未然に防ぐために、CAVI を人間ド ックなどの健診で測定することは、予防医学的観点 0 正常 注意 詰まりの疑い から大きな意義があると考えています。 ABI(動脈の詰まり具合)においては、今回の統 ABI においては、注意レベルの受診者さまは 20 計で有意な結果は認められませんでした。ABI(動 人・5.1%でした。詰まりの疑いのある受診者さま 脈の詰まり具合)は、ある程度詰まりが進展しない は、統計算出時には認められませんでした。ABI の と測定値に反映されません。間欠性跛行の症状が発 場合は、詰まりの度合いにもよりますが、一般的に 生することを未然に防ぐために、ABI を測定するこ ABI が 0.70 以下になると、いわゆる間欠性跛行(5 とで閉塞性動脈硬化症(ASO)の予防啓発に大き 分から 10 分歩くと足にしびれ、痛み、脱力などが な意義があると考えています。 出現し歩行不能になりますが、しばらく休むと歩行 可能な状態になる症状)の症状が生じてくると言わ 【結語】 れています。そのまま放置すると、最終的には足の 動脈硬化検査(血圧脈波)は、人間ドックなどの 壊疽などの重篤な状態を引き起こします。その前段 健診で実施することは、予防医学的観点から大いに 階である ABI 0.70~0.90 で計測された受診者さ 有意義であると考えています。 まを抽出し、さらには注意レベルの受診者さまを含 めて、閉塞性動脈硬化症(ASO)に対する啓発を することに大きな意義があると考えています。 【追記】 CAVI(血管の硬さ)・ABI(動脈の詰まり具合) と血液検査データーおよび BMI との散布図を示し ます。 CAVI(血管の硬さ)との相関 250 CAVI-GLU GLU 700 600 R² = 0.0608 200 250 CAVI-TG TG 300 100 100 200 50 100 50 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 10.0 0 0 4.0 CAVI 5.0 6.0 7.0 10.0 11.0 12.0 13.0 4.0 8.0 9.0 CAVI CAVI-HbA1c HbA1c R² = 0.003 150 400 150 CAVI-LDL-C 200 R² = 0.0039 500 LDL-C 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 CAVI CAVI-BMI BMI 35.0 9.0 R² = 0.0088 R² = 0.0323 8.0 30.0 25.0 7.0 6.0 20.0 5.0 15.0 4.0 4.0 5.0 6.0 7.0 10.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 CAVI 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 CAVI ABI(動脈の詰まり具合)との相関 ABI-GLU GLU 250 R² = 0.0276 200 ABI-TG TG 700 600 R² = 0.0069 200 500 R² = 0.0002 400 150 ABI-LDL LDL-C 250 150 300 100 200 100 50 100 50 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 ABI 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 0 0.8 ABI ABI-HbA1c A1c 13.0 0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 ABI-BMI 35.0 R² = 0.0131 11.0 1.0 ABI BMI 12.0 0.9 R² = 0.0195 30.0 10.0 9.0 25.0 8.0 20.0 7.0 6.0 15.0 5.0 4.0 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 ABI 1.3 1.4 1.5 10.0 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 ABI 文責:室賀知加子 加藤隆正
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