インスリン抵抗性、アディポサイトカイン - Arterial Stiffness

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3 糖尿病
英文原著論文紹介 Efficacy of glimepiride on insulin resistance, adipocytokines, and
atherosclerosis.
Koshiba K, Nomura M, Nakaya Y, Ito S.
J Med Invest. 2006; 53: 87-94.
インスリン抵抗性、アディポサイトカイン、動脈硬化におけるグリメピリドの効果
小柴邦彦(徳島大学大学院臓器病態治療医学)
野村昌弘/中屋 豊/伊東 進
背景
ド1mgとし、経過にて増減し最大 6mg/日まで投与した。
2 型糖尿病の患者数は今後も増加することが確実と考
28 週間の外来経過観察後に再び同様の測定を行い、結
えられている。糖尿病の病態上、膵からのインスリン分
果を解析した。
泌低下に加えて、インスリン抵抗性増悪によるインスリ
ン作用の不足が重要となってきている。また、ライフス
結果
タイルの変化に伴いメタボリックシンドローム合併例が
28 週間の薬物投与後に、収縮期血圧およびBMIは、
増加し、肥満や動脈硬化抑制を包括した診療が期待され
GB群、GP群、INS群の3 群とも有意な変化を認めなか
る。近年、グリメピリド投与後に血漿アディポネクチン
った。FPGは、GB群やINS群と比較してGP群で有意に
が増加していたとの報告がなされたが、アディポネクチ
。HbA1cおよびHOMA-IRは、GB
低下した(p< 0.01)
ンは抗動脈硬化作用やインスリン感受性増強作用を示す
群と比較してGP群やINS群で有意に低下した
(p<0.01)
。
ことから、グリメピリド投与によりこれらの効果が得ら
血漿アディポネクチンは、GB群やINS群と比較して
れることが期待される。
GP群で有意に上昇し(p< 0.05)、TNF-α、IL-6およ
。baPWVおよ
びhs-CRPは有意に低下した(p< 0.05)
目的
びAIは、GB群とINS群では治療前後で変化がみられな
グリベンクラミドからグリメピリドに切り替えた前後
。
かったが、GP群では有意な低下がみられた(p< 0.05)
で、各種サイトカインやインスリン抵抗性、動脈硬化指
標を測定し、グリメピリドがこれらの指標に及ぼす影響
考察
について検討した。
グリメピリド投与によりアディポネクチンが増加した
機序は不明な部分が多いが、最近グリメピリドは脂肪細
方法・対象
胞 の 核 内 受 容 体 で あ るperoxisome proliferator‐
2 型糖尿病治療中の患者 46 例を対象とした。大血管
activated receptor-gamma(PPAR-γ )に対して直
合併症(冠動脈疾患や閉塞性動脈硬化症)がすでに存在
接的な刺激作用を有しているとの報告がなされた。アデ
する患者は除外した。グリベンクラミド投与中の患者
ィポネクチン産生抑制作用を有するTNF-αが減少する
34 例中 20 例をグリメピリドに変更しGP群とした。グ
ことによる間接的なアディポネクチン産生増加の可能性
リベンクラミド継続投与の14 例をGB群、インスリン療
も考えられる。グリメピリド投与によりTNF-αが低下
法を施行中の12 例をINS群とした。血圧、body mass
し、アディポネクチンが増加した機序についてはさらな
index(BMI)測定を行い、採血を行い空腹時血漿グル
る検討が必要と思われる。
、免疫反応性
コース(fasting plasma glucose;FPG)
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、アディ
インスリン(immunoreactive insulin;IRI)
1 .グリメピリドのインスリン抵抗性改善作用
、TNF-α、IL-6を
ポネクチン、高感度CRP(hs-CRP)
グ リ メ ピ リ ド は、 肝 臓 に お い てfructose-2,6-
測定した。日本コーリン社のform PWV/ABIを用いて
bisphosphateの産生を促進し、解糖系の促進と糖新生
ABIおよびbaPWVを測定し、頸動脈波よりaugmenta-
および糖放出を抑制する。アディポネクチンはインスリ
tion index(AI)を算出した。SU剤の変更は過去の報
ン受容体を直接活性化することなく細胞内のチロシンキ
告に基づきグリベンクラミド1.25mgに対しグリメピリ
ナーゼ活性を亢進させ、IRS-1およびIRS-2のチロシン
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英文原著論文紹介
糖尿病
3
リン酸化を促進し、各種細胞内シグナルを介してグリコ
VCAM-1、ICAM-1、E-セクレチンなどの細胞間接着分
ーゲン合成酵素を活性化するとともに、GLUT4の脱リ
子の発現を抑制するとともに、TNF-αの発現・分泌を
ン酸化を促進し活性型の糖輸送担体を増加させ細胞膜表
低下させ、クラスAスカベンジャー受容体発現を抑制し
面に移動させる作用があるとされており、グリメピリド
て炎症細胞の泡沫化を抑制し、動脈硬化の発生および進
投与によって血中アディポネクチンが増加し、骨格筋や
行を抑制する。グリメピリドはアディポネクチンを介す
脂肪組織といった末梢組織においても糖の取り込みが促
る機序に加えて、脂質代謝改善、一酸化窒素産生促進に
進されるものと推定される。
よる血管内皮機能改善、抗酸化作用などを有することが
報告されている。今回のわれわれの検討でも、グリメピ
2 .グリメピリドの体重・B M I への影響
リド投与により血圧の変化なくbaPWVおよびAIが有意
ラットにグリメピリドおよびグリベンクラミドを投与
に低下し、グリメピリドが実際に良好な抗動脈硬化作用
すると、後腹膜脂肪組織における平均脂肪細胞面積が前
を有していることが示された。
者を投与した群では対象群より有意に大きく、後者を投
与した群では有意に小であったとの報告がある。臨床的
結論
にはグリメピリド投与により体重やBMIが増加しない
グリメピリドはインスリン抵抗性改善作用を有し、体
との報告がなされているが、今回のわれわれの検討でも
重増加をきたすことが少なく、動脈硬化の発症および進
BMIの有意な変化は認められず、少なくとも肥満を増悪
展の抑制効果の点でも有効であると考えられた。空腹時
させないことが示された。
IRIや尿中CPR、HOMA-Rが高値である症例ではグリメ
ピリドの効果が大きいとの報告があり、そのような症例
3 .グリメピリドの抗動脈硬化作用
ではインスリン抵抗性や動脈硬化などの改善を期待して
アディポネクチンは、血管内皮の傷害部位において、
薬剤の変更が検討されるべきと思われる。
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