足首間脈波速度の予後予測指標としての有用性検証

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第 15 回 臨床血圧脈波研究会 特別報告
上腕−足首間脈波速度の予後予測指標としての有用性検証のメタ
解析(individual participants meta-analysis)
:その進捗状況
冨山博史(東京医科大学循環器内科学教授)
山科 章(東京医科大学循環器内科学主任教授)
筆者らはbaPWV
(brachial-ankle pulse wave velocity)
一般的に baPWV の適応と考える中等症のリスクの症例の
の予後予測指標としての有用性検証のメタ解析を実施
検討ではない。そこで、PubMed を洗い直したところ、
し て い る。 本 解 析 で は individual participations meta-
2015 年 2 月時点では 27 編の baPWV の予後評価の追跡研
analysis を試みているが、その背景にあるのは baPWV
究の成果が報告されていることがわかった。おおむね日
の 位 置 付 け の 低 さ で あ る。 国 際 雑 誌 で は 今 も cfPWV
本の論文だが、中国や韓国からのものもあった。individual
(carotid-femoral pulse wave velocity)がゴールデンス
participations meta-analysis は、このうちの日本で実施
タンダードであるため、individual participations meta-
された論文のデータを Excel シートにまとめ、メタ解析を
analysisによってbaPWVのエビデンスを明確にできれば、
行うこととしている。
日常診療はもとより医学の発展にも寄与できると考えて
本研究の検証必要事項
いる。
baPWV の individual participations meta-analysis で
aggregate data meta-analysis
は、「予後予測指標として baPWV 値レベルごとの有用性
検査の予後指標としてのエビデンスレベルを高める
の評価」
「baPWV の基準値設定」
「心血管疾患高リスク症例
には、前向きコホート研究のシステマティックレビュー
で な く、 心 血 管 疾 患 軽 症 ― 中 等 リ ス ク 症 例 に お け る
に よ る 有 用 性 の 確 認 が 重 要 で あ る。 ま た、 シ ス テ マ
baPWV 予後予測指標としての有用性」
「Framingham risk
ティックレビューのなかでもメタ解析が最も信憑性が
score など従来のリスク評価指標と baPWV の予後予測指
高 い。baPWV に 関 し て は、Vlachopoulos が 2012 年 の
標としての独立性」
「血圧の影響の評価 vs. CAVI」
「同時測
Hypertension 誌にメタ解析を発表し 1)、平均 3 .6 年の経
定される足関節上腕血圧比(ABI)と baPWV の予後予測指
過観察で baPWV が 1 m/sec 増加するに従い、心血管疾患
標としての有用性の対比」などの項目についてデータを解
の発症リスクが 12% 高まることを示した。ただ、残念な
析し直し、検証していく予定である。
が ら こ れ は 論 文 ご と の オ ッ ズ 比 を 統 合 し た aggregate
目的(試験概要)は、既報追跡研究の各研究責任者の協
data meta-analysis であり、それぞれの論文のデータを詳
力を得て各追跡研究のデータ提供を受け、各データを統
しく解析しているというわけではない。
合したメタ解析により、上腕―足首間脈波速度の心血管
これはメタ解析の欠点でもあるが、数ある論文のなか
疾患発症予測指標としての有用性について検証すること
からどれを選ぶのかが難しく、また同じデザインの研究
である。臨床的意義は、上腕―足首間脈波速度の心血管
でも年齢などの対象患者が異なれば結果が変わる場合も
疾患発症予測指標としての有用性が確立できることであ
あ る。 こ れ が い わ ゆ る selection bias で あ る。selection
る。実施場所・実施期間は、東京医科大学循環器内科に
bias のほかに publication bias もある。これは「否定的な
事務局を設置し、提供された各研究データの統合を行い、
結果が出た論文は、肯定的な結果が出た論文に比べ公表
データを管理する。データの統計解析は東京医科大学循
さ れ にくい 」というもの で ある。 今 回 の メタ 解 析 で も
環器内科と九州大学大学院医学研究院附属総合コホート
publication bias を検討することができないが、selection
センター(二宮利治先生)の 2 施設で同時解析し、統計解析
bias は克服し、過去の論文の個人のデータを基に分析し
の妥当性を確認する。現在約 16 ,000 症例、12 コホート
直すことにしている。またそのためにいくつかの施設に
が集まっており、分析期間は 2014 年 4 月より 3 年間を予
協力をいただいた。
定している。なお、本データについては専用のハードディ
Vlachopoulos のメタ解析では 18 の前向き研究で、約
スクに落とし、データの流出がないよう最大限の配慮を
8 ,200 例を対象としている。ただ実際の論文として掲載
していることを付け加えておく。
されたものは 15 編で、抄録なども含まれている。また、
検査項目は、年齢、性別、身長、体重、喫煙の有無、
腎臓病や心臓病などリスクの高い症例で検討しており、
上腕―足首間脈波速度、心拍数のほか、古典的なリスク
6
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ファクターである血圧、総コレステロール、中性脂肪、
特別報告
図 1 ● 心血管疾患発症の ROC カーブ
血糖などで、高血圧や脂質異常、糖尿病といった心血管
疾患発症危険因子の治療歴(薬の有無)や冠動脈疾患や脳
1.0
血管疾患、透析の既往歴を聞く。なお、同研究について
は東京医科大学の倫理委員会で申請を行い、委員会で承
0.8
認されている。また協力施設に多施設共同研究というこ
とも告知済みである。
感度
まとめ
0.6
0.4
現段階で得られたデータについてだが、心血管疾患発
症について ROC カーブを描いたところ、曲線化面積は
0.2
0 .69 であった
(図 1)
。階段状のものはなく、かなりスムー
ズな曲線になっている。脈波速度は年齢で補正したが、
baPWV は心血管イベントに対して明らかに独立した予後
0.0
0.0
指標であると推察された。2015 年内か 2016 年早々には
心血管疾患発症の ROC
曲線下面積:0.693(0.675-0.712)
0.2
0.4
0.6
1−特異
二宮先生と最終的な解析を行い、2016 年度中にはメタ解
析として発表する予定である。
文献
1)
Vlachopoulos C, et al. Prediction of cardiovascular events and all-cause
mortality with brachial-ankle elasticity index: a systematic review and
meta-analysis. Hypertension 2012 ; 60 : 556 -62 .
7
0.8
1.0