この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 第 15 回 臨床血圧脈波研究会 CVT セッション① CVT からみた ABI 検査の実際とピットフォール 三木 俊(東北大学病院生理検査センター診療技術部生理検査部門長) 東北大学病院生理検査センターは 2013 年 4 月から 35 名 で診てもらっていたが、その後は受診歴なし。ABI 測定で 体 制 で 施 行 し て お り、 血 管 診 療 技 師(clinical vascular は右 0 .73、左 0 .91、波形がなだらかで、心拍数も速い。 technologist;CVT) は 5 名在籍し、脈管領域の無侵襲検査、 下肢動脈エコー検査では皮下浮腫が確認され、触診では 医師による侵襲的診断・治療の介助など幅広い業務を受 浮腫で皮膚がパンパンに張っていた。このような極度な け持っている。2014 年 4 月には待望のバスキュラー・ラ 皮下浮腫では正しく ABI 測定できないケースも存在する。 ボ(特殊検査)が設置され、血管内皮機能、空気容積脈波、 内臓脂肪測定装置、皮下灌流圧測定、ペインビジョン、 ABI は確定診断ではなくスクリーニング検査である。今 超音波検査などを実施できる環境が整った。 回提示した症例のように、病態によって過小評価される 今回は、CVT からみた ABI(ankle brachial index)検査 場合も多いため、CVT が医師に結果報告する際には注意 の実際とピットフォールというテーマで、まずは症例を を要する。TBI は足動脈の石灰化が強い場合などに測定さ 提示し、ABI のとり方などの注意点や、検者が知っておく れる。TBI の基準値は 0 .7 以上であり、0 .6 以下の場合に べきことについて述べる。 は下肢動脈に閉塞や狭窄の存在を疑う。当院ではABIが1.3 以上や身体所見と合わない場合、末梢動脈の病変が疑わ 症例 れた場合に ABI と TBI を組み合わせて施行している。 症例1 撮り方の注意点 62 歳、男性。狭心症と糖尿病の既往があり、最近、動 作時に胸痛があり当院紹介受診した。カテーテル前の穿 次に ABI 測定の注意点を 3 つ挙げる。「どのような巻き 刺部確認にて下肢動脈エコーを施行した結果、プラーク 方でも、足の力が抜ける体制にすること」 「『全身の力が や側副血行路などが確認され、右前脛骨動脈の完全閉塞 抜けますか?』と聞くこと」 「幅の狭いベッドは要注意」で が疑われた。ところが、患者の ABI は右 1 .13、左 1 .11 と ある。特にベッドの幅が狭いと患者は動けずに力が入っ 正常であった。実は、この症例のように前頸骨動脈、後 てしまうため、ベッドのサイズには注意を払った方がよ 頸骨動脈のどちらかが閉塞してしても、足首のカフに拍 い。ちなみに当院では幅 80 cm のベッドを用意し、患者 動があれば正常な ABI を示す場合がある。また、前脛骨 には必ず「力が抜けているか」を確認した後に測定するよ 動脈と後脛骨動脈の両方閉塞でも、計測部に良好な側副 うにしている。また、足趾の間に潰瘍を認めることがあ 血行路があれば正常を示す場合もある。 るので、測定時には必ず靴下を脱いでもらい、視診、触 診で足底や足趾間を確認している。 症例2 カフの巻き方にもコツがある。膝を曲げすぎると筋肉 70 歳、男性。ABI の値と見た目の症状が合致しない例 が張って伸ばした際に弛まるため、不正確な値が出やす である。閉塞性動脈硬化症疑い、2 型糖尿病の既往がある。 い。正確な測定には、カフを巻く際は膝の角度を 30 ° 以 ABI は右 0 .86、左 0 .99。触診では左の足先が冷たく、 内にし、指 1 本が入らないぐらいしっかり巻くことが大切 足 趾 の 間 に 潰 瘍 ら し き も の を 確 認 し た た め、TBI( toe である(図 1)。ABI の再測定では上腕カフの巻き直しが必 brachial index)を 測 る と 右 0 .37、 左 0 .46 で あ っ た。 要なケースもみられる。上腕動脈の血流が悪いケースを また、皮下の灌流圧を測るSPP(skin perfusion pressure) 想定し、厚い服を着ていたら脱いでもらうなどし、しっ では右足背 14 mmHg と足底 23 mmHg、左足背 34 mmHg かり上腕に巻く必要がある(図 2)。 と足底 41 mmHg と非常に悪い値であることがわかった。 CVT (検者) として知っておくべきこと 症例3 最 後 に、CVT と し て 知 っ て お く べ き こ と を 述 べ る。 30 歳、女性。1 型糖尿病の既往のため高校までは近医 ABI 測定は健常者では 5 分、下肢虚血が疑われる患者で 21 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. CVT セッション① 図 1 ● 下腿部にカフを巻く際の膝関節角度 曲げすぎると、ふくらはぎの筋肉が太くなるため、その状態でぴったりと巻いても伸ばした後に筋肉が細くなる。せっかくしっかりと巻いても意味が薄れる。 30°以内が望ましい 図 2 ● 上腕部にカフを巻く際の注意点 上腕 話しかけない…… 話さない…… リラックス…… は 15 分程度の安静時間が必要である。来院した患者にす だとしている。ABI 計測のみで臨床的に有意な差とするに ぐ測定を実施すると、下肢に閉塞性病変があるケースで は、0 .15 以上の変動が、ABI 以外のパラメーターと合わ は運動負荷後のように足関節の血圧低下が起きている可 せて 0 .10 以上の変動が必要とされる。 能性があり、10 分の安静で血圧が 50 mmHg 変化するこ まとめ ともある。ABI や baPWV は血圧に影響されるため、血圧 測定で異常値が疑われた場合は普段の血圧を聞くことも 測定結果が正しいかどうかは、実際に測定に携わり患 重要である。また不整脈についても、連発する上室性の 者の背景や検査の状況を把握している検者しかわからな 期外収縮や心房細動があると血圧が不安定になりやすい い。だからこそ患者背景や臨床症状を考慮した測定を実 ため、前回の測定値と大幅に異なる場合は、不整脈を考 施し、四肢の血圧だけでなく脈波の% MAP (mean arterial 慮し参考値として医師に報告するほうがよい。 pressure)や下肢の UT(upstroke time)なども考慮して ABI の有意差については、Baker らは測定した ABI の 報告する必要がある。また、検査前に理学的所見などの standard deviation(SD)が 0 .07 だと再現性に優れ、ABI 問診・視診・触診を得てから測定し、CVT からみた数値 の有意な差とみなすために 2 SD の 0 .15 以上の違いが必要 の妥当性を評価することも重要である。 22
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