この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 第 15 回 臨床血圧脈波研究会 フィーチャリングセッション③ PAD 早期診断指標として、脈波 UT 延長が ABI 低値に先行する -縦断的検討から 沢山俊民(さわやまクリニック院長、川崎医科大学循環器内科名誉教授) 背景と目的 成績①初診時、直近時における 臨床指標の平均値比較 当院において、過去 12 年間にわたり約 5 ,000 件以上を、 およそ3カ月ごとにformPWV/ABIを用いてankle brachial 対象患者 226 名における臨床指標の初診時期 3 回と直近 index(ABI)と upstroke time(UT)を “ 縦断的 ” に観察して 時期 3 回の平均値の比較をまとめた表を示す(表 1) 。 いると、ABI が正常域にあっても UT が 180 msec 以上に 年齢、血圧値、UT に有意差が認められた。なお、UT 延長している遅脈例を少なからず経験した。そこで、今回 と同時に計測される% MAP(% mean arterial pressure) UT のみ延長例がどのような心血管疾患とリスク因子を有 も増加を示したが、UT ほど大きな変化率はみられず、有 しているかについて、 ABIと比較しながら縦断的に観察し、 意差は示さなかった。 PAD の早期診断における UT の有用性について検討した。 成績② 4 群別にみた初診時と 直近時の例数比較 対象と方法 当 院 に て 2002 年 9 月 〜 2014 年 10 月 の 12 年 間 に、 初診時の指標で 4 群に分類した結果、P 群(すでに PAD formPWV/ABI 検査を計 6 回以上施行した患者 226 名を対 として加療中)が 5 例、U 群は 13 例、A 群は0例、N 群が 象とし、ABI:0 .90、UT:180 msec を基準値として次の 208 例であった。初診時から直近時までの平均観察期間 4 群に分類し、初診時から直近時までの 2 指標の推移につ 7 .4 年経過後の直近の指標での 4 群の例数は、P 群 6 例、 いて検討した。 U 群 35 例、A 群0例(急性 PAD が 1 例みられたが、それは ・P 群:末梢動脈疾患(peripheral arterial disease;PAD) 除く)、N 群 185 例であった。 群 (ABI 低値で、UT も延長している) 経過観察期間中に ABI 異常群が 1 例増加したのに対し、 ・U 群:ABI 正常域で、UT のみ延長している群 UT 異常群の増加は 22 例であった。また、ABI と UT の推 ・A 群:UT 正常域で、ABI のみ低下している群 移グラフを個別に検討した結果から、ABI 低下に先行して ・N 群:ABI、UT ともに正常域の群 UT 延長がみられる例が多く観察された。 表 1 ● 対象 226 名における臨床指標の初診時期 3 回と直近時期 3 回の平均値 臨床指標 年齢(歳) 性別(男性) 身長(cm) 初診時期の値 直近時期の値 両時期の比較 61.3 ± 9.9 68.2 ± 9.9 p < 0.05 62.4% 62.4% N.S. 162.5 ± 8.1 162.5 ± 8.1 N.S. 体重(kg) 63.2 ± 11.4 61.9 ± 11.4 N.S. BMI 23.7 ± 3.2 23.3 ± 3.3 N.S. 収縮期血圧(mmHg) 134.7 ± 16.8 129.6 ± 13.1 p < 0.05 拡張期血圧(mmHg) 80.2 ± 10.2 76.1 ± 8.6 p < 0.05 心拍数(拍 / 分) 63.4 ± 9.5 64.0 ± 9.2 N.S. N.S. ABI 1.14 ± 0.09 1.14 ± 0.09 1,597 ± 321 1,660 ± 328 N.S. UT(msec) 145 ± 24 153 ± 26 p < 0.05 % MAP(%) 38.4 ± 3.6 39.0 ± 3.7 N.S. baPWV(cm/sec) 14 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. フィーチャリングセッション③ P 群、つまり ABI/UT ともに異常群以外に、U 群(ABI 正 3.U 群における患者数例に対して施行した下肢血管造影 常 /UT のみ異常群)においてもリスク因子複数例、梗塞の 検査ならびに下肢動脈エコー検査には器質的病変は認 既往例、後期高齢者が多かった。 められなかったので、UT 延長例には、内皮機能異常 U群の1例について、 ABI/UTの推移グラフを示す (図1)。 など何らかの非器質的変化が先行しているものと予測 ABI 値にはほとんど変化(低下)がみられないが、UT の特 される。 に右側の値から先行して遅脈が現れはじめ、年々歳々、 まとめ それが顕著になっている。 今回、“UT のみ延長例 ” がどのような心血管疾患とリス 考察 ク因子を有しているかについて、ABI と比較しながら縦断 1.文献上では、UT と %MAP を指標とした横断的検討で、 的に観察し、PAD の早期診断における UT の有用性につい UT と冠動脈石灰化との関連が認められたという成績 て検討した結果、ABI が正常域にあっても UT が延長して や、血管狭窄の判定上 %MAP が有用だとするものは いる例は、PAD 群と同様、脳梗塞・心筋梗塞の既往例、 ある。しかし、今回筆者が行ったような縦断的検討に ならびにそのリスク因子を複数有する例が多かった。 関する報告は見あたらない。 このことから、ABI が低下する以前からみられる足首脈 波上の UT の延長は、下肢動脈の狭窄病変に対する早期診 2.観察期間中、ABI が正常域にあっても UT が延長して いる例は、PAD 群と同様に、複数のリスク因子を有す 断に有用と思われた。 る例、および梗塞の既往例が多かったことから、今後 動脈硬化のリスク因子を有する患者群のうちで、ABI が 下肢動脈の狭窄病変に至る可能性があるものと考えら 低下する以前からみられた UT の延長という所見は、下肢 れる。 動脈の狭窄病変に対する早期診断に有用と思われた。 図 1 ● U 群の 1 例:初診時から直近時までの ABI と UT のグラフ 64 歳、男性。脳梗塞、糖尿病、高血圧。 UT(msec) 240 右UT 左UT 右ABI 左ABI 220 200 180 160 140 ABI 1.2 1.1 1.0 0.9 55歳 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 15 61歳 62歳 63歳 64歳 64歳
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