この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 英文原著論文紹介 ⑧予後予測 Arterial path length estimation on brachial-ankle pulse wave velocity: validity of height-based formulas. Sugawara J, Hayashi K, Tanaka H. J Hypertens 2014; 32: 881-9. PMID: 24609216 baPWV 測定における身長による動脈長推定式の妥当性 菅原 順(国立研究開発法人産業技術総合研究所人間情報研究部門主任研究員) 林 貢一郎/田中弘文 の動脈長は,それぞれの体表面の直線距離から動脈長を 背景 推定した。 心血管系疾患は主要死亡原因であるが、動脈スティフ 結果 ネスがその有用な予測因子として注目されている。動脈 スティフネスの評価法についてはさまざまな方法が提案 baPWV の測定では、身長から推定した大動脈起始部か されているが、そのなかでも頸動脈−大腿動脈間の脈波伝 ら足首までの動脈長(Lha)から大動脈起始部から上腕まで 播 速 度(carotid-femoral pulse wave velocity;cfPWV) の動脈長(Lhb)を引いた値を実効動脈長(Lba)とみなして がゴールドスタンダードとして認知されている。ただし、 いるが、MRI により算出した Lhb は身長から推定した値 一般的に用いられているトノメトリ法による脈波計測は、 よ り も 有 意 に 長 い 値 を 示 し た(476 ±41 mm vs. 335 ± 測定者の熟練した技術が求められるため、cfPWV による 19 mm)。また、MRI により算出した Lha も身長から推定 動脈スティフネス測定が推奨されているヨーロッパ諸国 した値よりも有意に長い値を示した(1 ,464 ±85 mm vs. であっても、臨床現場において十分普及しているとはい 1,439±71mm)が、その誤差はLhbの方が大きかったため、 いがたい。これに対し、わが国では、cfPWV に替わる方 結果的に、現行の身長推定式は実際の実効動脈長を 11% 法として開発された上腕−足首間 PWV(brachial-ankle 過大評価するという結果となった。 PWV;baPWV)が広く普及している。上腕と足首に血圧 推定誤差に対する加齢の影響に着目すると、Lhb、Lha 測定用のカフを巻くだけで計測ができるという簡便さか とも 50 歳以降の群の推定誤差は、50 歳未満の群よりも有 ら、国内に限らず、東アジア諸国、さらには欧米でもそ 意に大きかった。ただし、加齢の影響は Lhb と Lha で同 の利用が広がっている。しかし、以下の方法論上の問題 等であり、結果的に相殺されるため、身長推定式(Lba = 点が指摘されている。①計測部位は腹部大動脈などの弾 Lha - Lhb)で最終的に生じる推定誤差に加齢の影響は認 性動脈と下肢の筋性動脈の両者をカバーしていると考え められなかった。 られるが、算出される値は下肢の PWV よりも高値を示す、 baPWV の値に関しては、実効動脈長を身長から推定し ②実効動脈長を身長から推定している、③身長推定式は て得られる PWV 値は、実効動脈長を MRI で実測した場合 日本人のみのデータで作成されているため、他人種への の値ときわめて強い相関関係にあることが明らかとなっ 適用した際の妥当性が明らかでない。 た(R2 = 0 .96 , p < 0 .0001)。重回帰分析により baPWV このような背景を踏まえ、本研究では特にはじめの 2 つ の説明変数の同定を行ったところ、cfPWV が baPWV の の問題点について、 その原因を探ることを目的とした。 「身 全分散の 75%を説明する有意な独立変数であることが示 長による推定式が実効動脈長を過大評価することによっ された。 て baPWV が高値を示す」という仮説を設定し、MRI を用 考察 いて動脈長を実測して得た baPWV 値と現行の身長による 推定動脈長から得た baPWV 値がどの程度異なるかを検証 現行の推定式から得られる baPWV の実効動脈長は実際 した。 の動脈長よりも長く、PWV を 11% 程度過大評価してい ることが明らかとなった。ただし、両者間にはきわめて 方法 強い相関関係があることから、シンプルな補正によって 220 名(19 ~ 79 歳,女性 114 名)を対象に体幹部の MRI 実質的な baPWV を求めることができる可能性が示唆さ 画像を撮影し、三次元トレース法にて大動脈長、腸骨動 れた。 脈長、および鎖骨下動脈長を測定した。上腕および下肢 baPWV の計測部位は腹部大動脈などの弾性動脈と下肢 44 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 英文原著論文紹介⑧ 図 1 ● 身長から推定した心臓−上腕間(Lhb) 、心臓−足首間(Lha)、および baPWV の実効動脈長(Lba)と MRI による 実測長の誤差 平均値±標準偏差。 * p < 0 .05 vs. 19 〜 34 歳群、† p < 0 .05 vs. 35 〜 49 歳群、‡ p < 0 .05 vs. 男性 (mm) 0 心臓 心臓 −50 足首間動脈長の測定誤差 ¦ 上腕間動脈長の測定誤差 ¦ (mm) 100 −100 −150 *†‡ *† −200 *† *† 50∼64 65∼79 50 0 −50 * −250 *† *† −100 *† −150 19∼34 35∼49 19∼34 (mm) 250 35∼49 50∼64 65∼79 実効動脈長の測定誤差 baPWV 男性 女性 200 150 100 50 0 19∼34 35∼49 50∼64 65∼79 の筋性動脈の両者をカバーしていると考えられるので、 による推定式が baPWV が高値を示す原因の 1 つとはなっ MRI で動脈長を実測した場合には、baPWV は伸展性の高 ているものの、それだけでは baPWV が下肢などの PWV い大動脈の PWV(cfPWV)と伸展性の低い下肢筋性動脈の よりも高値を示す理由を説明できないことが明らかと PWV(femoral-ankle PWV;faPWV)の間の値を示すと なった。正確な理由を明らかにすることはできないが、 考えられる。しかしながら、各 PWV を MRI で計測した動 心臓から下肢への PWV と上肢方向への PWV とを同じ値 脈 長 を 用 い て 再 計 算 し た と こ ろ、35 歳 以 降 の 群 で は、 とみなしているコンセプトに由来するかもしれない。 baPWV は faPWV よりも高値を示した。すなわち、身長 45
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