急性腹症の腹部単純X線の読影 - e-CLINICIAN

急性腹症の腹部単純X線の読影
急性腹症をきたす消化器の代表的疾患に対する基本的読影法
はじめに
腹部単純撮影法は、どの施設でも必ず撮影可能
な、最も簡便な腹部の検査法である。その基本的
読影法について述べる。
X線単純写真の特徴と撮影法
X線単純写真は、腹部全体の立体的情報を平面
に圧縮したものであり、各臓器の重なりがある。
画像を構成するのは、ガス、脂肪、水、石灰化の
4因子であることは、ほかのX線写真と同じであ
る。とくに腸管内あるいは腸管外のガスと、臓器
問の脂肪組織が、腹部画像のコントラストにかか
わってくる。
腹部単純撮影では、背臥位が基本であるが、と
くに急性腹症の場合には、なるべく背臥位像と立
位像を撮影する。胸部の写真が必要なことも多く、
この場合には腹部立位像を省略できる。デクビタ
ス像︵側臥位正面像︶が有効なこともある。
CLINICIAN,98No.46814
特集・急性腹症のイメージ診断
博
慶
松
平
①十二指腸穿孔に
よるフリーエア
印)、肝鎌状間膜(矢頭)
胃および腸管壁(矢
の描出が見られる。
代表的急性腹症診断の実際
読影の際には、すべての臓
器をくまなく見る習慣をつけ
ることが必要である。まず最
初に、フリーエアーの有無を
見て、次に腸管内のガスを見
て、というようにある程度、
自分のルーチンを決める。
ω気腹
気腹は一般に消化管潰瘍の
穿孔や、穿通性外傷による。
腸管の穿孔でも、とくに後腹
膜腔への穿孔の場合、フリー
エアーが見られないことがあ
る。CTや超音波による診断
が必要となる。
腹部単純写真では、わずか
1認のフリーエアーも診断が
(129)
15CLINICIAN’98No.468
②腹腔内液体貯留、
脾破裂による出
血
上行結腸が内側へ圧排
の強度の拡張もある。
されている(矢印)。胃
可能とされており、気腹が疑われる場合にまず最
初に行われる検査である。X線所見としては、立
位での横隔膜下ガスがもっとも見易く、かつ、よ
問膜の描出︵写真①︶、とくに小児では、逆V字サ
く知られている。臥位でも腸管壁の描出、肝鎌状
イン、フットボールサインなどがある。
②腹腔内液体貯留
腹腔内の液体貯留は、急性疾患では出血が主で
ある。とくに鈍的あるいは穿孔性外傷による実質
臓器損傷のほか、腹部大動脈破裂、肝癌の破裂な
どもある。急性炎症による腹水や膿の貯留もある。
少量の液体貯留は、腹部の最も低い部位に貯留
する。単純写真では、ドッグイヤーサインが有名
である。50∼100認から診断可能と思われるが、
このサインを呈するためには、膀胱内に100∼2
00並の尿貯留が必要条件である。撮影前に患者
が排尿を済ませていれば、このサインは見られな
い。大量の液体貯留の場合には、臨床的に腹部の
CLINICIAN,98No.46816
(130)
齢
A
蘂 鵠’
難
蕪、
黙
漢
③気腫性胆嚢炎
澱
慧
聾錘
難
欝懲
照
蝉
灘
醸
醸
贈
欝
熱
霞
※.
懸難
藻
醸
黙灘
悪
B
懸
灘醜
麟
懸
灘
慧
難
漣 慧
慧黙∼
聴、
難
欝
馨
黙
灘
醸
灘
腹部単純写真立位像(A)、
および臥位像(B)で胆嚢
燃
壁内ガスが見られる(矢
鍵
灘
印)。胆嚢内にもガスが
糞
貯留している。
黙
壁
嚇
糞
織
灘、
17C:LINICIAN’98No.468
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④急性膵炎
横行結腸のハウストラ
が消失している(矢
頭)は見られるが、右
大腰筋陰影は消失して
いる。膀胱周囲の脂肪
層(黒矢頭)が見られ
ることから、腹腔内の
印)。左大腰筋陰影(矢
少量の液体がわかる。
触診や打診であきらかではあるが、
単純写真でも、肝下角の消失、ヘル
マーサイン︵肝陰影の内方移動︶、傍
結腸溝︵腹膜外脂肪層と上行あるい
は下行結腸内ガス間の距離︶の開大、
腸管ループの乖離︵写真②︶、腹厚の
側腹壁の突出などがみられる可能性
増加による腹部全体の不透過性増加、
がある。
しかし超音波検査では、単純写真
で描出不可能な、モリソン腔︵肝腎
腔︶やダグラス腔のわずかな液体貯
留が描出される。
③急性胆嚢炎・胆石症
胆嚢の疾患による腹痛も頻度が高
い。石灰化した結石は単純写真で診
断できる。胆管内ガスを伴う胆石イ
レウスや、胆嚢壁内ガスが見られる
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⑤急性虫垂炎
A
B
腹部単純写真臥位像(A)で、大きな虫垂内糞石が見られる(矢印)。BのCTで
は、結石の内側に拡張した小腸ループ(矢頭)が見られる。
19CLINICIAN’98No.468
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⑥機械的小腸閉塞
腹部単純写真臥位像で、
拡張した小腸ループが
見られる。
単純写真一枚で容易に診断できる。
気腫性胆嚢炎︵写真③︶なども、
胆嚢疾患における第一選択は超音
波検査ではあるものの、単純写真
の価値は高い。
㈲急性膵炎
膵炎では、膵液が膵頭部から十
二指腸へ、あるいは膵前面に付着
腸へ及ぶため、周囲の腸管などに
する横行結腸間膜にそって横行結
多くの異常が起こる。単純写真で
は、センチネルループサイン、コ
ロンカットオフサインなどよく知
られたサインが多い。そのほか、
腸管内のガスがみられない、胃横
行結腸間距離の乖離、横行結腸ハ
ウストラの消失︵写真④︶、腎周囲
脂肪層の描出、膵内ガスなどがみ
CLINICIAN,98No.46820
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⑦上腸間膜動脈閉
塞による腸管血
行障害
腹部単純写真臥位像で、
左上腹部に拡張した小
腸ループがあり、その
小腸壁の肥厚が見られ
る(矢印)。
られるが、まったく異常所見が
ないことも多い。CTや超音波
検査でも陰性のことがあり、血
清アミラーゼ値などが、やはり
重要である。
⑤急性虫垂炎
急性虫垂炎は、とくに小児の
急性腹症において重要である。
従来、腹部所見と白血球増多が
あれば、画像診断は不要とされ
てきた。しかし現実には、開腹
時での陰性率も高く、画像診断
が参考にされることが多い。
腹部単純写真は簡便であり、
かつ所見も多く、古くからその
価値が認められてきた。X線所
見としては、虫垂内糞石︵写真
⑤︶、センチネルループサイン、
(135)
21CLINICIAN,98No.468
診断の第一選択は、超音波検査とする施設が増え
どがある。しかし近年、急性虫垂炎における画像
の拡張、麻痺性イレウス、腹腔内フリーエアーな
軟部腫瘤陰影︵膿瘍形成︶、虫垂内ガス、横行結腸
見が得られるが︵写真⑦︶、CTや超音波検査で
要な疾患である。単純写真で特徴的な壁肥厚の所
浮腫さらに壊死が起こるもので、急性腹症でも重
腸問膜動脈あるいは静脈の閉塞により、腸管の
の腸管血行障害
みられる。限局性の腸管麻痺はセンチネルループ
多い。麻痺 性 イ レ ウ ス で は 、 胃 腸 管 全 体 の 拡 張 が
イレウスの種類、閉塞部位の診断もできることが
︵東邦大学大橋病院 教授 放射線医学︶
影の基本こそ、腹部疾患診断の基本である。
単純写真の読影法について述べた。腹部単純像読
代表的疾患を例にあげ、急性腹症における腹部
おわりに
性が描出される。
は、さらに直接的に肥厚した腸管壁や血管の疎通
ている。
⑥イレウス
としてみられる。
文献
腸管の閉塞の診断では、単純写真が有利である。
機械的閉塞の場合、とくに単純性イレウスでは
興医学出版社、東京、1993年
松慶博”初心者のための腹部単純X線像の読み方、新
閉塞部より口側の拡張が起こり︵写真⑥︶、ステッ
プラダーサイン︵小腸ループが梯子段のように並
ぶ︶などが見られる。閉塞部より肛側は、拡張し
ないのが特徴である。絞拒性イレウスでは、ガス
で満たされたループがコーヒービーンサインを呈
する。
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平