妊娠を検討している患者への生物学的製剤の投与

◎妊娠を検討している患者への
生物学的製剤の投与
妊娠を検討している患者への生物学的製
剤の投与は可能か?
︵静岡県・内科︶
回答
横浜市立大学附属市民総合医療センター
炎症性腸疾患︵IBD︶センター
准教授
国崎玲子
横浜市立大学附属市民総合医療センター
総合周産期母子医療センター
高橋恒男
教授
妊娠は、一定の確率で流産や先天形態異常
を優先して治療を継続すべきとする考えが主流
となってきています。一方、本邦では多くの薬
剤で、
﹃日本医薬品集﹄
︵添付文書︶に妊娠・授
乳中の投与を避けるよう記載されていますが、
これを厳守すれば治療を要する患者が投薬を受
け安全に出産することが不可能となります。し
かし、本邦のデータはまだ少ないものの、最近
では疾患管理と投薬に関して、海外と同様に考
炎 症 性 腸 疾 患︵ inflammatory bowel disease
IBD︶は、 ∼ 歳の若年者に好発するため
える傾向になっています。
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妊娠時の投薬に関するデータが比較的多く、2
010年以降 報以上の systematic review
︵S
R︶が報告されています。そこでは、IBDが
2)
3)
タが集積され、多くの疾患合併妊娠では治療に
近年、海外では妊娠時の投薬に関するデー
悪影響を及ぼさないとされています。ヨーロッ
抗体を含めたほとんどの治療薬は、妊娠にほぼ
持できれば概ね安全に妊娠可能で、抗TNFα
異常のリスクが上がるが、治療により寛解を維
よる有益性が投薬リスクを上回り、母体の安定
主治医の不安が一層大きいことは当然です。
ントです。まして疾患合併妊娠となれば、患者、 活動期の場合に早産・低出生体重児・先天形態
などの合併症を伴う、女性にとって大きなイベ
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ーン病に対する薬物療法︵メトトレキサートを
パのクローン病診療ガイドラインでも、
﹁クロ
が示されたエビデンスはなく、常に新しい情報
薬剤による児の長期予後に関する絶対的安全性
一般に妊娠中継続すべきである﹂と記載されて
ンスが不足していることを理由に、妊婦への投
海外のSRやガイドラインでは、今でもエビデ
除く︶は、ベネフィットが投薬リスクを上回り、 が追加されます。関節リウマチや乾癬に関する
います。
マブ︵ヒュミラ︶などの生物学的製剤は、蛋白
インフリキシマブ︵レミケード︶
、アダリム
る症例には、抗TNFα 抗体は許容できると考
BD領域の経験からは、母体の治療に必要であ
与は控えるべきと記載されています。しかしI
®
製剤であるため分子量が 万以上と大きく、器
1)
官形成期の妊娠早期には胎盤通過は困難で、理
抗体治療を継続するかについては、各科の主治
えられます。患者が妊娠・授乳中に抗TNFα
正しい情報提供を行い、最終的に患者が主体的
に応じて有益性と有害性を考慮しながら患者に
へ移行し、児が免疫抑制状態となります。イン
文献
となって決定すべきと考えます。
児が、BCG接種後に死亡した事例が報告され
まれた児には、生後半年間はBCGおよび生ワ
クチン接種は控えることが望ましいです。
妊娠・授乳中における薬剤投与については、
Van Assche G, et al : The second European evidencebased Consensus on the diagnosis and management of
Crohn’s disease : Special situations. J Crohns Colitis,
4, 63-101 (2010)
Nielsen OH, et al : IBD medications during pregnancy
ており、抗TNFα 抗体投与を受けた母から生
フリキシマブ投与を受けていた妊婦が出産した
G 抗体であるため妊娠後期には能動的に児
らく、そのようなデータもありません。ただし、 医が産科主治医と協力し話し合い、個々の患者
論的にも先天形態異常に寄与することは考えづ
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日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会編集・監
修 産婦人科診療ガイドライン│ 産科編2014、
日本産婦人科学会事務局、東京︵2014︶
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種ガイドライン2014、日本小児感染症学会︵2
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