14 精神神経疾患領域の薬物応答性に関係する遺伝子多型 - e-CLINICIAN

テーラーメイド医療への道
連載1
4
●薬物代謝と感受性の遺伝子多型●
精神神経疾患領域の薬物応答性に
関係する遺伝子多型
越
前
(明治薬科大学
77
る
遺
伝
子
多
型
の
関
与
ら1)に
が つ
報 い
告 て
し の
研
た 究
ア の
ル 先
ツ 駆
ハ け
イ は
マ 、
1
9
9
5
年
に
Poirier
ー
病
患
者
に
対
す
る
ア
セ
チ
ル
コ
リ
ン
エ
ス
テ
ラ
ー
ゼ
阻
精
神
神
経
疾
患
に
お
け
る
薬
物
治
療
の
応
答
性
に
関
す
遺
伝
子
多
型
と
の
関
係
ア
ル
ツ
ハ
イ
マ
ー
型
痴
呆
と
ア
ポ
蛋
白
E
の
用
な
情
報
と
な
る
こ
と
が
期
待
さ
れ
る
。
証
明
さ
れ
れ
ば
、
第
一
線
の
臨
床
医
に
対
し
て
極
め
て
有
CLINICIAN ’02 NO. 513
治
療
反
応
性
を
予
測
す
る
こ
と
が
大
規
模
な
臨
床
試
験
で
こ
と
が
多
い
た
め
、
遺
伝
子
レ
ベ
ル
で
の
情
報
に
よ
っ
て
の
評
価
は
循
環
器
疾
患
な
ど
の
よ
う
に
定
量
化
が
困
難
な
さ
れ
る
よ
う
に
な
っ
た
。
精
神
神
経
疾
患
の
薬
物
応
答
性
す
る
と
推
定
さ
れ
る
多
く
の
遺
伝
子
多
型
の
存
在
が
報
告
れ
ら
の
疾
患
の
薬
物
治
療
の
応
答
性
︵
反
応
性
︶
に
関
係
宏
俊
薬物治療学教授)
で
は
未
だ
に
解
明
さ
れ
て
い
な
い
。
し
か
し
、
近
年
、
こ
れ
て
い
る
も
の
も
多
い
が
、
そ
の
病
因
は
遺
伝
子
レ
ベ
ル
危
険
因
子
に
関
係
す
る
こ
と
が
疫
学
デ
ー
タ
と
し
て
示
さ
精
神
神
経
疾
患
に
は
、
明
ら
か
に
遺
伝
素
因
が
発
症
の
精
神
神
経
疾
患
で
の
病
因
と
遺
伝
子
的
解
明
(8
5
8)
① アルツハイマー病患者に対するタクリン治療効果に関与する
ApoE遺伝子多型の影響
2
p ≦ 0.05
1
non-E4
(n=18)
p ≦ 0.05
E4
(n=22)
0
治
療
前
後
の
ス
コ
ア
変
化
-1
-2
-3
-4
-5
-6
ADAS
-7
ADAS-Cog
-8
APOε4アレル(凡例ではE4と表示)を有する患者ではアルツハイマー病評価スコア
であるADAS
(Alzheimer Disease Assessment Scale)とADAS-Cog(ADAS cognitive
component)の改善が、このアレルを有しない患者よりも少ないことに注意。
(8
5
9)
あ
っ
た
が
、
遺
伝
子
多
型
と
精
神
神
経
疾
患
の
薬
物
応
答
こ
の
研
究
は
比
較
的
少
数
の
患
者
で
得
ら
れ
た
結
果
で
は
を
有
す
る
患
者
よ
り
も
低
い
こ
と
を
報
告
し
た
︵
図
!
︶
。
タ
ク
リ
ン
応
答
性
は
、
A
P
O
ε
2
ま
た
は
A
P
O
ε
3
P
O
ε
4
ア
レ
ル
を
有
す
る
ア
ル
ツ
ハ
イ
マ
ー
病
患
者
の
3
、
A
P
O
ε
4
︶
が
存
在
す
る
が
、
Poirier
性
を
考
え
る
上
で
画
期
的
な
も
の
で
あ
っ
た
。
ら
は
、
A
E
に
は
3
種
の
遺
伝
子
多
型
︵
A
P
O
ε
2
、
A
P
O
ε
と
再
分
布
を
調
節
す
る
役
割
を
果
た
し
て
い
る
。
A
p
o
ン
グ
過
程
で
の
、
リ
ポ
蛋
白
や
コ
レ
ス
テ
ロ
ー
ル
の
移
動
ナ
プ
ス
可
塑
性
の
基
礎
を
な
す
神
経
細
胞
膜
の
リ
モ
デ
リ
の
み
な
ら
ず
、
中
枢
で
は
、
記
憶
形
成
な
ど
に
関
わ
る
シ
蛋
白
の
血
管
内
皮
L
D
L
受
容
体
へ
の
結
合
を
仲
介
す
る
と
思
っ
た
も
の
で
あ
る
。
A
p
o
E
は
、
血
液
中
の
リ
ポ
の
薬
物
応
答
性
遺
伝
子
が
同
定
さ
れ
る
時
代
に
な
っ
た
か
紀
要
に
掲
載
さ
れ
た
と
き
に
は
、
つ
い
に
精
神
神
経
疾
患
と
の
報
告
で
あ
ろ
う
。
彼
ら
の
報
告
が
米
国
ア
カ
デ
ミ
ー
ア
ポ
蛋
白
E
︵
A
p
o
E
︶
の
遺
伝
子
多
型
に
関
係
す
る
CLINICIAN ’02 NO. 513
害
薬
︵
タ
ク
リ
ン
、
本
邦
未
発
売
︶
の
症
状
改
善
効
果
が
、
78
名
さ
れ
て
い
る
。
ま
た
、
試
験
管
内
の
実
験
で
は
L
ア
レ
け
る
短
期
効
果
︵
3
週
間
︶
は
、
ド
パ
ミ
ン
D
2
受
容
体
容
体
遮
断
薬
、
ネ
モ
ナ
プ
リ
ド
、
の
陽
性
症
状
治
療
に
お
し
た
分
裂
病
患
者
に
対
し
て
用
い
た
選
択
的
ド
パ
ミ
ン
受
学
の
大
谷
ら
の
グ
ル
ー
プ
は
、
症
状
の
急
性
増
悪
を
き
た
も
、
近
年
い
く
つ
か
の
報
告
が
な
さ
れ
て
い
る
。
山
形
大
79
ル
、
挿
入
の
な
い
ア
レ
ル
は
る
も
の
で
、
挿
入
の
あ
る
ア
レ
ル
︵ は
S
︶
ア ︵
レ L
ル ︶
と ア
命 レ
精
神
分
裂
病
に
対
す
る
薬
物
治
療
の
応
答
性
に
関
し
て
精
神
分
裂
病
と
薬
物
応
答
性
タ
ー
遺
伝
子
の
発
現
調
節
領
域
に
4
4
塩
基
対
の
挿
入
が
あ
が
、
こ
こ
1
0
年
程
、
従
来
の
複
素
環
系
薬
物
よ
り
も
副
作
︵
3
環
お
よ
び
4
環
︶
系
抗
う
つ
薬
が
用
い
ら
れ
て
き
た
う
つ
病
の
薬
物
治
療
に
は
1
9
6
0
年
代
か
ら
複
素
環
ル
ボ
キ
サ
ミ
ン
に
対
ら3)す
は る
、 応
セ 答
性
ロ が
ト 悪
ニ い
ン と
・ 報
ト 告
ラ し
ン て
ス い
ー
遺
伝
子
の
上
流
領
域
に
S
ア
レ
ル
を
有
す
る
患
者
は
フ
ら ろ
は2)、
、 研
う 究
つ 結
病 果
患 は
者 混
で 乱
セ し
ロ て
ト お
ニ り
ン 、
・ イ
ト タ
ラ リ
ン ア
ス の
ポ
ー
タ
前
者
の
遺
伝
子
多
型
は
、
セ
ロ
ト
ニ
ン
・
ト
ラ
ン
ス
ポ
ー
遺
伝
子
多
型
が
存
在
す
る
こ
と
が
判
明
し
た
。
と
く
に
、
域
と
第
2
イ
ン
ト
ロ
ン
に
タ
ン
デ
ム
状
繰
り
返
し
配
列
の
た
が
、
そ
の
後
こ
の
蛋
白
の
発
現
調
節
プ
ロ
モ
ー
タ
ー
領
ト
ラ
ン
ス
ポ
ー
タ
ー
遺
伝
子
は
1
9
9
3
年
に
同
定
さ
れ
て
き
た
。
S
S
R
I
の
標
的
分
子
で
あ
る
セ
ロ
ト
ニ
ン
・
R
I
︶
が
登
場
し
、
同
疾
患
の
薬
物
治
療
の
中
心
と
な
っ
用
が
少
な
い
選
択
的
セ
ロ
ト
ニ
ン
再
吸
収
阻
害
薬
︵
S
S
因
す
る
問
題
か
は
現
時
点
で
は
不
明
で
あ
る
。
す
る
問
題
か
、
S
S
R
I
の
効
果
に
関
す
る
人
種
差
に
起
る
デ
ー
タ
が
診
断
ま
た
は
薬
効
評
価
の
施
設
間
差
に
起
因
る
応
答
性
が
よ
か
っ
た
と
報
告
し
て
い
る
。
こ
の
矛
盾
す
の
方
が
フ
ル
オ
キ
セ
チ
ン
ま
た
は
パ
ロ
キ
セ
チ
ン
に
対
す
か
つ
第
2
イ
ン
ト
ロ
ン
に
4
4
塩
基
対
挿
入
を
有
す
る
患
者
ポ
ー
タ
ー
遺
伝
子
の
上
流
領
域
で
は
L
ア
レ
ル
を
有
し
、
る
が
、
韓
国
の
CLINICIAN ’02 NO. 513
う
つ
病
治
療
と
遺
伝
子
多
型
Zanardi
ル
を
有
す
る
セ
ロ
ト
ニ
ン
・
ト
ラ
ン
ス
ポ
ー
タ
ー
遺
伝
子
Kim
の
発
現
は
、
S
ア
レ
ル
を
有
す
る
も
の
よ
り
も
約
2
倍
高
long
い
こ
と
が
明
ら
か
に
な
っ
た
こ
と
か
ら
、
臨
床
効
果
と
こ
short
の
遺
伝
子
多
型
と
の
関
連
が
検
討
さ
れ
た
。
現
在
の
と
こ
(8
6
0)
② ネモナプリド治療に対する分裂病症状の改善率の平均値と標準偏差
120
100
80
改
善 60
率
︵
%
︶ 40
20
0
総BPRSスコア
陽性症状
A1アレル患者
(n=14)
陰性症状
non-A1アレル患者
(n=11)
効果の評価はBPRS(Brief Psychiatry Rating Scale)により行われた。総スコア
と陽性症状に有意さがあることに注意。
に
関
係
し
て
お
り
、
多
型
の
欠
失
︵
︶
ア
レ
ル
を
有 ︶
す ア
る レ
る
、
シ
ト
シ
ン
︵
C
︶
挿
入
ま
た
は
欠
失
の
遺
伝
子
多
型
に
関
わ
る
遺
伝
子
の
塩
基
対
上
流
領
域
に
存
在
す
症
状
の
改
善
度
が
、
ド
パ
ミ
ン
D
2
受
容
体
の
発
現
調
節
ネ
モ
ナ
プ
リ
ド
に
よ
る
分
裂
病
患
者
の
不
安
症
状
と
う
つ
て 患
い 者
た よ
と り
報 も
告 上
し 記
て 薬
い 物
る4)に
︵ 対
図 す
! る
応
︶
。 答
さ 性
ら が
に 有
、 意
彼 に
ら 優
は っ
A
1
ア
レ
ル
を
有
す
る
患
者
は
、
A
2
ア
レ
ル
を
有
す
る
素 の
遺
伝
子
に 多
よ 型
る に
制 関
限 係
酵 し
素 て
断 お
片 り
長 、
多 同
型 受
で 容
評 体
価 の
さ 制
れ 限
る 酵
Taq1
ル
を
有
す
る
患
者
で
は
挿
入
︵
−1
4
1
患
者
と
比
較
し
て
、
分
裂
症
状
の
総
ス
コ
ア
︵
B
P
R
S
Del
改 値
善 ︶
度 は
で 変
は わ
有 ら
意 な
に い
優 も
っ の
て の
い 、
た 不
と 安
報 症
告 状
し と
て う
い つ
る5)症
。 状
さ の
−1
4
1C
対 ら
す に
る 、
応 非
答 定
性 型
に 的
お 分
い 裂
て 病
治
も 療
、 薬
H 英 で
T 国 あ
2 の る
A
ク
︵
ロ
H
ザ
T ら6)ピ
R が ン
2 報 に
告
し
て
お
り
、
セ
ロ
ト
ニ
ン
5
Ins
(8
6
1)
A
︶
の
翻
訳
領
域
の
1
0
2
番
目
の
塩
基
対
に
お
け
る
C
Arranz
/
T
多
型
に
お
い
て
、
C
1
0
2
ア
レ
ル
を
ホ
モ
の
形
で
−
有
す
る
患
者
で
は
、
薬
物
治
療
に
不
応
答
の
患
者
が
有
意
CLINICIAN ’02 NO. 513
80
−HT2C
5
∼
−7
5
9T
Poirier, J., et al. : Apolipoprotein E4 allele as a
predictor of cholinergic deficits and treatment outcome
in Alzheimer disease. Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 92,
12260 12264(1995)
Zanardi, R., et al. : Factors affecting fluvoxamine
antidepressant activity : influence of pindolol and 5HTTLPR in delusional and nondelusional depression.
Bio. Psychiat., 50, 323 330(2001)
Kim, DK., et al. : Serotonin transporter gene polymorphism and antidepressant response. Neuroreport,
17, 215 219(2000)
Suzuki, A. et al. : The relationship between dopamine
∼
D2 receptor polymorphism at the Taq1 A locus and
therapeutic response to nemonapride, a selective
dopamine antagonist, in schizophrenic patients.
Pharmacogenetics, 10, 335 341(2000)
Suzuki, A., et al. : the-141C Ins/Del polymorphism in
the dopamine D2 receptor gene promoter region is
associated with anxiolytic and antidepressive effects
∼
5−HT2C
重
要
な
貢
献
を
し
て
い
る
の
は
、
ま
こ
と
に
喜
ば
と
で
あ
る
。
∼
(8
6
2)
CLINICIAN ’02 NO. 513
81
1)文 い 者
献 こ が
し 究
2)
3)
4)
5)
に
高
か
っ
た
と
報
告
し
て
い
る
。
以
上
の
治
療
効
果
に
お
け
る
薬
物
応
答
性
の
み
な
ら
ず
、
最
近
で
は
副
作
用
に
関
係
す
る
遺
伝
子
多
型
の
研
究
報
告
も
多
い
。
ご
く
最
近
も
ラ
ン
セ
ッ
ト
誌
上
で
、
分
裂
病
患
者
の
薬
物
治
療
で
定
型
係
増 的
加 、
し
の 非
て
お 受 副 定
り 容 作 型
、 体 用 的
の に 抗
発 対 精
現 す 神
調 る 病
受 節 感 薬
容 領 受 を
体 域 性 問
の の に わ
は ず
遺 、 問
伝 セ 題
子 ロ と
ア 多 ト な
レ 型 ニ る
ル が ン 体
を 関
重
型 有
の す
患 る
者 患
に 者
比 で
べ は
て 抗
有 精
意 神
に 病
少 薬
な に
い よ
と る
報 体
告 重
し 増
て 加
い が
る7)野
。 生
お
わ
り
に
精
神
神
経
科
領
域
の
薬
物
効
果
の
応
答
性
ま
た
は
副
作
用
発
現
と
遺
伝
子
多
型
と
の
関
連
を
検
討
す
る
報
告
は
多
数
あ
る
が
、
未
だ
に
少
数
例
で
の
解
析
が
多
く
、
結
果
に
つ
い
て
も
再
現
性
の
点
で
必
ず
し
も
満
足
で
き
る
状
態
に
は
な
い
。
し
か
し
、
精
神
神
経
科
領
域
の
疾
患
に
お
い
て
は
、
薬
物
応
答
性
を
予
測
す
る
客
観
的
な
臨
床
指
標
に
乏
し
い
た
め
、
遺
伝
子
多
型
と
効
果
ま
た
は
副
作
用
と
の
関
係
の
研
究
は
急
務
で
あ
る
。
そ
の
様
な
研
究
で
日
本
の
研
during treatment with dopamine antagonists in
schizophrenic patients. Pharmacogenetics, 11, 545
550(2001)
Arranz, M., et al. : Association between clozapine
response and allelic variation in 5-HT2A receptor gene.
Lancet, 346, 281 282(1995)
Reynolds, GP., et al. : Association of antipsychotic
drug-induced weight gain with a 5-HT2C receptor
gene polymorphism. Lancet, 359, 2086 2087(2002)
82
CLINICIAN ’02 NO. 513
(8
6
3)
6)
7)
∼
∼
∼