新生ストラテジーノート 第 207 号 2015 年 12 月 4 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 「量的・質的金融緩和」再考―木内審議委員の講演について考える 「副作用が効果を上回っている」と指摘 日銀の木内登英審議委員による 2015 年 12 月 3 日の資本市場研究会 1主催の講演会にお ける講演 2は、昨日から今朝にかけて、多くのマスコミが報道 3している。木内委員は、この講演で、 委員個人の見解である旨を断ったうえで、消費者物価の前年度比 2%の上昇は、17 年度までを 視野に入れても達成は難しいとの見解を明らかにした。また、2014 年 10 月末以降の金融政策 については、「副作用が効果を上回る」と明確に批判 4し、木内委員が金融政策決定会合に提出 し続けている議案の内容と理由の説明を行った。 木内委員の提案内容は、金融政策決定会合議事要旨で既に公開されているものではあるが、 これについて講演会の場で一般に向けて具体的な説明がなされたことは画期的であったと筆者 は考える。年間の残高増加 80 兆円のペースでの長期国債の買入れの限界については外部から も指摘 5がなされているところである。木内委員は、量的・質的金融緩和政策開始(2013 年 4 月) から 2 年を経過した 2015 年 4 月以降、日銀による国債保有残高の増加ペースを同政策の導入 1 公益財団法人資本市場研究会 http://www.camri.or.jp/ 2 講演原稿と配布資料は日本銀行のウェブサイトに掲載されている。 http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/ko151203a.htm/ 多くの報道がなされているようであるが、一例だけ挙げておく。 毎日新聞 3 http://mainichi.jp/select/news/20151204k0000m020040000c.html 朝日新聞 http://www.asahi.com/articles/ASHD35SR3HD3ULFA03K.html ブルームバーグ http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NYRZJE6JTSEA01.html ロイター http://jp.reuters.com/article/2015/12/03/boj-kiuchi-idJPKBN0TM0MT20151203 日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL03HCS_T01C15A2000000/ 4 木内委員は、この政策を決定した会合で議案に反対した他、その後の金融政策決定会合では、 長期国債の買入れを(年間 80 兆円ではなく)45 兆円に減額する等とする独自の議案を提出し続 けており、毎回、採決の結果、否決され続けている。 5 たとえば、 IMF のスタッフによるペーパーSerkan Arslanalp ; Dennis P. J. Botman, Portfolio Rebalancing in Japan :Constraints and Implications for Quantitative Easing, August 3, 2015 http://www.imf.org/external/pubs/cat/longres.aspx?sk=43161 では、2017 年または 18 年に限界を迎えると指摘している。 1 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 時を下回る年間 45 兆円のペースに落とすことを提案し続けてきている。 現在の日銀による金融政策の限界をそろそろ考えておくべき 木内委員は、重要な問題指摘を行っていると筆者は考えている。日銀による国債購入を国債 の新規発行額程度の規模に抑えると、民間が保有する国債をどんどん日銀が吸い上げ、日銀以 外の主体が保有する国債が減っていくということにはならない。現状の買入ペース(年間で 80 兆 円の残高増)は、新規発行額のおよそ 2 倍のペースとなっている。 量的・質的緩和政策の導入が決定された 2013 年 4 月の「消費者物価上昇率 2%、2 年程度」 は、既に開始から 2 年半以上が経過し、かなり色あせてきていることは否めない。また、金融政策 として期間を区切ったインフレターゲットを設けることには疑問もある。 近時では、短中期ゾーンの国債利回りがマイナス圏となっている一方で、日銀による超過準備 に対する付利が政策金利が 0.1%であった頃と同じ 0.1%のままとなっていることで、多くの金融 機関にとって、日銀に資金を預けることが最良の運用になってしまっている。もっとも、日銀に預け て 0.1%の付利を享受できるのは、日銀に当座預金口座を有している金融機関等に限られる。短 期金融市場を運用先としてきた機関投資家や MMF 等のファンドにとって、非常に厳しい状況が生 じている。この点、国債などの資産買入れを含む量的緩和を遂行している ECB は、マイナス利回 りでは国債等の買入はしないことと、超過準備にはプラスではなくマイナスの付利を行っている点 で、日銀とは顕著に異なる。 (調査部長 江川 由紀雄) 2 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 3 著作権表示 © 2015 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
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