新生ストラテジーノート 第 212 号

新生ストラテジーノート 第 212 号
2016 年 1 月 27 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
債券市場の流動性問題に関連して証券化商品への投資を考える
債券の市場流動性の源泉は金融機関のリスクテイクという現実を見据えながら
BIS グローバル金融システム委員会(CGFS)が「債券市場の流動性」と題する報告書を 1 月 21
日付で公表 1した。債券市場の流動性低下については、昨年以降、数多くの指摘 2を見るようにな
った。CGFS の今月の報告書は、債券(fixed income)といいつつも、その中でも主要国の現物
の国債市場を対象に考察を加えており、流動性が急低下しやすくなっている兆候を指摘している。
主要国の現物の国債市場については、いまのところビッド・アスク・スプレッドといった価格面での
指標に大きな変化は見られないが、多くのディーラーがポジションを持つことに消極的になってい
ることを指摘している。
国債に限らず、債券の市場流動性は、ディーラー(欧州諸国では大手銀行、日本では主に証券
会社)が引き受け、流通市場においても、市場参加者の売り意向に対して買い向かう(ビッドする)
ことで創出されているものである。この点で、債券の市場は、多くの取引が委託売買の形で金融
機関のバランスシートを経由することなく、取引所で売買が成立する上場株式の市場とは異なる。
CGFS の報告書で指摘されている通り、金融機関が債券のトレーディング在庫を削減し、マーケッ
ト・メイキング活動を縮小していることは、債券の流動性の潜在的な阻害要因になっていることは
疑いのないところである。
債券の市場流動性を維持し、枯渇することを未然に防止するにはどうすればよいのだろうか。
CGFS 報告書は、マーケット・メイカーの resilience (耐性)を強化することと、電子取引プラットフ
ォ ーム への移 行 など を示唆 している 。また 、マーケッ ト ・メイカー の耐 性強 化に つい ては 、
“adequate capital and robust risk management practices” (適切な自己資本と強靭なリ
スク管理慣行)といいう表現が用いられている。自己資本の増強のためには、利益の内部留保に
よるものにせよ。将来的な収益力を引き当てにした増資にせよ、収益力の下支え(ディーラーにと
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日本銀行 「BIS グローバル金融システム委員会報告書『債券市場の流動性』の公表について」
2016 年 1 月 22 日
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160122d.htm/
2 一例として、 BIS Quarterly Review の 2015 年 3 月号に掲載された論考 “Shifting tides –
market liquidity and market-making in fixed income instruments”
http://www.bis.org/publ/qtrpdf/r_qt1503i.pdf
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
っての収益機会の拡大)が必要であるが、このことについては言及されていない。マーケット・メイ
キング活動縮小の原因として、ディーラーの収益機会の縮小が考えられるのだが、この観点での
考察が欠けているように筆者には思える。また、リスク管理慣行の強化がどのように債券のマー
ケット・メイキング活動の促進に寄与するのかについても報告書では言及されていない。電子取引
プラットフォームを用いた取引への移行は、投資家による注文やディーラーによる注文執行のプロ
セスで人間の関与を削減し、人件費その他事務コストの削減が図れることは十分に想像できるの
だが、委託売買への移行する訳ではないので、ディーラーが十分に在庫を抱えられるためのリス
クテイクとその背後にある自己資本は必要である。人間を煩わせることなく取引を行うことによる
経費節減や注文執行に要する時間の短縮が債券の市場流動性に本質的な変化をもたらすかど
うかについて筆者は疑問を抱いている。
流動性に多少難があっても投資できる対象を考えてみる
昨年あたりから注視されるようになった債券の市場流動性の問題については、ほとんどの調査
研究が国債を対象としている。他の種類の債券(たとえば、民間企業が発行する社債、地方政
府・地方公共団体が発行する地方債、特定の資産を裏付けとした証券化商品など)に比べ、多く
の国々で、国債は、典型的には、中央銀行がほぼ常に市場オペの対象にしており、市場参加者
間での担保としての需要も強く、銀行の自己資本比率規制上はゼロまたは極めて低いリスクウェ
イトが適用されることなどを背景に、様々な種類の債券が発行され市場で流通する中で、最も流
動性が高いものであろう。こうした国債の特徴を踏まえれば、国債の流動性に顕著な問題が生じ
る前に、国債以外の債券にそうした問題が生じる可能性が高いのではないか。市場にストレスが
かかった時点やディーラーとして活動する金融機関が極度にリスク回避的になる時点で市場流動
性の問題が顕在化しやすいが、市場流動性が枯渇して困るのは、何がなんでも売却して換金す
る必要に迫られる市場参加者に限られよう。また、債券は、株式とは違って、(トートロジーになっ
てしまうが)デフォルトしない限り約定通りに元利払いが行われ満期に償還されるものである。国
債よりも市場流動性枯渇の可能性が高い債券タイプの運用商品―証券化商品であれ、民間企業
が発行する社債であれ―への投資を検討する際には、リスクを取る対価として追加的な利回り
(一般的には国債よりも高い利回り)が得られることを考慮しつつ、投資判断を行うことができよう。
この点で、発行量が限られているが、国債流通利回りは言うまでもなく、期間対応のスワップレー
トをも上回る利回りで発行され流通することが多い証券化商品に着目できる。
(調査部長 江川 由紀雄)
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新生証券株式会社 調査部
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所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
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一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
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