(2016/2/5)「マイナス金利」

新生ストラテジーノート 第 216 号
2016 年 2 月 5 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
「マイナス金利」について思うこと
とうとうマイナス利回りでの国債以外の債券の起債事例も出現した
日銀の黒田東彦総裁は、昨日(2016 年 2 月 4 日)、衆議院予算委員会に出席し、民主党の前
原誠司議員の質問に対する答弁として、「民間銀行の個人向けの預金にマイナスの金利がつく可
能性はない」との認識を示した。国会でこうした質問と答弁が行われる背景には、民間銀行が今
後個人向け預金にマイナスの付利をするのではないかとの懸念があったことが推測できよう。
日本銀行は、2 月 3 日に、ホームページ上に「『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』に関す
る Q&A に Q8 を追加しました」との告知を掲載し、1 月 29 日に公表していた Q&A に追加する形
で、日銀当座預金の残高のうちマイナス金利が適用される金額がある程度イメージできるような
説明を行った。日銀が追加で発表した「Q8: マイナス金利が適用されるのはどの程度の残高な
のか。マクロ加算残高は具体的にどのように運営するのか。」では、その問いへの回答の形で、
具体的な金額(当初は約 10 兆円)と、マクロ加算残高を定期的に増額していく運営方法の考え方
が示された。
日銀当座預金は、2 月 16 日からプラス 0.1%で付利される「基礎残高」、ゼロ%が適用される
「マクロ加算残高」、マイナス 0.1%が適用される「政策金利残高」の3層構造に移行するが、日銀
が量的・質的緩和政策を継続しているため、全体の残高は今後も増加を続けることが予想される。
ここ数日、この増加分の全てにマイナス金利が適用されるとの前提での評論や金融機関収益に
与える影響の試算が多く出回った。実は、日本銀行は、1 月 29 日の決定会合の発表文で、ゼ
ロ%が適用される「マクロ加算残高」については、日銀が随時決定する「基礎残高」に対する掛け
目を掛けた額を加算していくとの説明を行っていたのだが、それがうまく理解されていなかったも
のと思われる。
今般追加で公表された Q&A の Q8 でも、随時、「マクロ加算残高」を増額していくとの方向性は
示されているが、具体的にどういう頻度(たとえば、金融政策決定会合の都度決定するのか、3 か
月に 1 回といった定期的なものになるのか)で増額するのか、マイナス金利が適用される「政策金
利残高」をどの程度残すようにするのかについては、明言せずに、「理念的には政策金利残高は
少額で良いことになるが、市場には様々な摩擦もあるので、どの程度の政策金利残高があれば
十分に機能するか、実際マイナス金利を運営したうえで、判断する必要がある。マクロ加算の運
営は、こうした市場金利への実効性と金融機関収益への影響とを踏まえて、決定する」と説明して
いる。こうした説明は、歯切れが悪いように思えるかもしれないが、一定の効果(イールドカーブの
起点の引き下げ、つまり、短期金利を安定的にマイナス領域に維持しておくこと)を狙って前例の
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ない政策を実行しようとしているのだから、「走りながら詳細は考える」といことになるのは仕方な
い。半年も経てば、日銀が「マイナス金利付き」政策をどう運用するのか、パターンが見えてくるで
あろう。
いくつかの MMF が新規募集を停止したが、MMF や MRF のように、集めた資金は原則として
全額、短期金融市場で運用せねばならない投資信託もある。短期国債の利回りは既にマイナス
になって久しい。コールローンもプラスの利回りで資金放出できるかどうか微妙な状況なってきて
いる。こうした投資信託は、マイナス利回りの運用ばかりを行っていては、いずれ基準価格が
「10,000 円(1 万口当たり)割れ」(世間一般には「額面割れ」と呼ばれる)となる。そもそも、MMF
や MRF は、毎営業日解約・換金でき、短期金融市場で運用することで平時ではわずかながらもプ
ラスの利回りを出すという商品性をもって、証券業界が銀行業界の「普通預金」に対抗するために
開発し、顧客に対して一時的な資金運用手段として用意している商品である。銀行業界の「普通
預金」よりも低い利回り(つまり、ゼロまたはマイナス)を出してしまっては、存在意義を自ら否定す
ることにもなりかねない。また、MMF、MRF は、一般的に、基準価格が 1 口 1 円(または 1 万口
10,000 円)を割ると募集を停止する約款を採用していることもあり、マイナスでの運用が常態化
すれば、約定に基づき、いずれ自動的に募集停止になってしまう。
ゼロまたはプラス利回りの資金運用手段は残っているが
一昨日、財務省が新窓販国債 10 年物の募集中止を発表した。しかし、個人向け国債について
は、引き続き、プラス利回りでの募集を継続している。このことから、銀行預金ではなく、国債で資
金運用を行っている個人や組合・団体のマイナス利回りにならない資金運用手段はまだ残ってい
ると考えられる。
昨日の国会答弁で黒田総裁は、「民間銀行の個人向けの預金にマイナスの金利がつく可能性
はない」と述べた。預金の約款(各金融機関の普通預金規程等)を踏まえれば、「利息」の規定を
変更して、マイナスにできる(預金者から徴収できる)ようにすることは困難であると思われるが、
口座管理手数料を導入し(既に口座管理手数料の合意を盛り込んでいる場合は、それを実効化
し)、預金金利を「実質的に」(口座管理手数料を徴収することで)マイナスにすることはできなくは
ないと筆者は思うが、そうするかどうかは、各銀行等の営業政策次第ということになろう。
個人やマンションの管理組合等の資金運用手段がマイナス利回りのものばかりになるというこ
とは当面は想定し難いが、国債利回りに加え、短中期の市場金利が広範にマイナス圏へ突入す
れば、低金利で苦しんでいた機関投資家や MMF・MRF の運用者・販売者にとっての悩みが更に
深刻なものになることは間違いない。
(調査部長 江川 由紀雄)
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資本金
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