新生ストラテジーノート 第 178 号 2015 年 2 月 13 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 国内債券市場の悲鳴が聞こえてこないか 国債以外の円債の価格形成も国債に連動するという現実 一般のメディアで報道される「長期金利」は、新発 10 年国債の流通利回りのことである。これが 昨年 11 月には 0.5%台であったものが、年初には 0.2%台に突入し、最近では 0.4%前後で推 移している。国内金融機関が資金運用目的で保有する国債は、もう少し年限が短いものが多い。 短期や中期ゾーン(5 年程度まで)の国債の利回りは、マイナスになったりプラスになったりと、符 号が逆転するような値動きをしている。ざっくり言えば、国内金融機関の債券投資としては長年に わたり中心的な年限となってきた短中期ゾーンの国債利回りは、ほぼゼロになってしまっている。 昨今の国債流通利回りにどういう意味があるのだろうか。日銀の金融政策によって、国債の需 給が逼迫している中で形成されている市場価格である。市場発行される国債の残高の純増ペー ス(年間 40 兆円程度)を大幅に上回るペース(年間 80 兆円の残高増のペース)で日本銀行が国 債を買い入れ続けている。中央銀行による大規模なマネタイゼーションが進行しているという、あ る意味で異常な市場環境下で形成されている価格が、昨今の国債の取引価格であり、その流通 利回りという訳である。 問題は国債市場だけにとどまらない。国内債券市場では、地方債も財投機関債も、大半の社 債や証券化商品も、発行条件の決定も、流通市場における価格形成も、対応する年限の国債流 通利回りを参照して、若干の「スプレッド」を上乗せする形で行われてきている。国債の流通利回り が下がれば、ほぼ連動して、社債の発行・流通利回りも下がる。ただし、民間企業が発行する社 債をマイナス利回りで喜んで購入しようとする投資家は存在しないだろうし、日銀と取引のある金 融機関は、年利 0.1%の付利を得られる日銀への預け金(当座預金)という運用手段を持ってい る。短中期ゾーンの国債流通利回りがほぼゼロになっているからといって、それに従来通りの水 準の「スプレッド」を上乗せした程度の利回りは、その絶対値があまりに小さいという難点があり、 従来通りの国債スプレッドでは、民間企業発行の社債は買い手がいなくなるだろう。多くの投資家 にとって、絶対利回りが 0.1%ないし 0.2%程度で社債投資に意義を見出すことは難しい。こうし た市場環境下で、民間企業が短中期年限の社債を発行しようとすれば、国債とのスプレッドとして は、従来対比大幅に拡大したように見えるので、社債発行企業は起債を躊躇することになろう。 地方債や財投機関債はともかく、民間企業が発行する社債の利回りを決めるのになぜ国債の 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 利回りを参考にするのだろうか。国債利回りを無リスク利子率(リスクフリーレート)にみたて、社債 等の民間債務の利回りとの差を信用リスクプレミアムだと説明する手法もあるが、理論的な根拠 を見出すことは難しい。長年にわたって確立された慣行としかいいようがない。長年といっても、 1990 年代には、民間金融機関が発行する利金債が国債利回りを下回る水準で取引されたこと も多々あり、民間企業債を含む一般債を国債スプレッドで評価するようになり、イールドカーブが 形成されるようになってからは、せいぜい 20 年程度の歴史しかない。 一般債市場を国債市場から切断できないか 海外に目を転じると、米ドル建てやユーロ建ての社債は、著名な大手金融機関が発行するもの を含め、変動利付債が目につき、そうした変動利付債は、 LIBOR や EURIBOR を指標金利とす るクーポン(利率)が約定され、発行時においても、流通市場でも、 LIBOR や EURIBOR との対 比で価格が形成される。国内でも、一部の低格付けの社債や、多くの民間オリジネーターによる 証券化商品は、国債流通利回りではなく、スワップレート(金利スワップ市場で 6 か月 LIBOR また は TIBOR と交換できる相場としての中長期金利)を基準に価格形成がなされている。 こうした慣行も参考に、社債等の民間債務(一般債)の価格形成を、国債市場からは切断する 方向で市場慣行を変えて行けないだろうか。もちろん、 LIBOR や TIBOR やスワップレートを基 準に利回りを評価することには問題がないとは言えない。理論的には、 TIBOR なり LIBOR に は、金融機関の信用リスクプレミアムが織り込まれているとか、決定プロセスに問題があったとか、 様々な問題指摘は可能だ。ただ、過去に例のない金融政策に起因して需給が逼迫している国債 を今後も価格形成のベースにするべきかどうかとの問題意識は持っておいてよい。 (調査部長 江川 由紀雄) 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 設立年月 :平成 12 年 12 月 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 著作権表示 © 2015 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
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