(2017/2/7)日本政策金融公庫

新生ストラテジーノート 第 259 号
2017 年 2 月 7 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
日本政策金融公庫、昨年に続き今年も地域金融機関 CLO を組成
参加金融機関が大幅増加し 14 社に、地域金融機関の証券化ノウハウ維持に寄与
日本政策金融公庫中小企業事業本部(日本公庫)は昨年に引き続き、今年も地域金融機関
CLO を組成する。投資家に 3 月に販売される予定の商品は合同会社クローバー2017 が発行す
る社債であり、2017 年 2 月 3 日に格付投資情報センター(R&I)から予備格付けを取得 1した。
昨年の事例同様のシンセティック型の CLO であり、中小企業に融資をした参加金融機関は、クレ
ジットデフォルトスワップ(CDS)契約を用いてオリジネーターがリスク負担する最劣後相当部分を
免責金額として日本公庫からプロテクションを買い、日本公庫は自らリスクを引き受ける部分(免
責金額)を除くポジションについて、社債発行体となる合同会社からプロテクションを買う。合同会
社は社債の発行代り金の大部分をオリジネーターではない大手銀行に預金することで運用する。
このため、昨年の事例同様、オリジネーター(またはプロテクションバイヤー)にとっては、信用リス
クの外部移転によるリスク削減が図れるものの、資金調達は伴わない仕組みとなる。参加金融機
関数は 14 社(6 銀行、11 信金、1 信組)となり、昨年の事例(クローバー2016)の 9 社(2 銀行、
6 信金、1 信組)対比、大幅に拡大した。裏付資産(参照債務)の総額も約 257.4 億円と、前回事
例(約 121.7 億円)から倍増した。
日本公庫は、中小企業金融公庫であった 2003 年以降(その「証券化支援事業」としては
2004 年以降)、様々な形で中小企業向けの債権の証券化を実施してきた。東日本大震災
(2011 年 3 月)後の一時期は中断していたものの、昨年(2016 年 3 月発行分)から再開した。
ほとんどみられなくなった地域金融機関をオリジネーターとする証券化
金融庁が「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプラン」(2003 年 3 月)
を公表し、証券化等に関する積極的な取組みを求めた後、多くの地域金融機関が証券化を行っ
たが、2006 年頃までにはそうした証券化の動きがほとんど止まった。それ以降は、長年にわたり、
低調なままで今日に至っている。金融機関に対する規制が強化された(特に、2007 年のバーゼ
ル2の導入)ことがひとつの大きな要因であろう。貸出競争の激化により、貸出金利とその市場金
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格付投資情報センター 「合同会社クローバー第 1 回 A~C 号無担保社債に予備格付」 2017
年2月3日
https://www.r-i.co.jp/jpn/body/sf/news_new_release/2017/02/news_new_release
_20170203-14679-1_01.pdf
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
利対比のスプレッドが低下してきており、金融機関による貸付債権の証券化取引で、オリジネータ
ーが十分に採算を確保することが容易ではなくなってきていることも作用しているように思える。
日本公庫は継続的に中小企業向け債権の証券化を様々な形で実施してきたが、2011 年 3 月
発行の事例後、東日本大震災を契機に信用保証協会の無担保保証制度が拡充されたことなど
から、しばらく(約 5 年間)中断していた。
日本公庫が地域金融機関をオリジネーターとする証券化支援を行う意義
日本公庫に 2014 年に設置された「新たな中小企業貸付債権証券化に向けた検討会」(座長:
根本忠宣 中央大学教授)がとりまとめ、2015 年 6 月に公表された報告書 2では、欧州諸国にお
ける中小企業向け債権の証券化事例なども参考とし、中小企業金融公庫時代から実施してきた
証券化支援事業の意義を改めて問い直している。同報告書は、「中小企業 CLO 市場というイン
フラの整備は一朝一夕にはいかず、また、現在の環境下、民間部門のみによって同市場が維持
されることは期待しにくい。そのため日本公庫が証券化支援業務を継続し新規の案件組成を行う
ことで、そのインフラを維持・整備していくことは政策金融機関としての重要な責務であるとともに、
証券化に従事する関係者のノウハウ維持の観点からも重要である」(報告書要旨)と述べている。
日本公庫が組成に関与してきた証券化取引では、地域金融機関がオリジネーターとなっている
ケースが多い。(最近の事例では全てが地域金融機関である。)地域金融機関は、市場を用いて
信用リスク(特に非上場企業、更には中小企業の信用リスク)や金利リスクの外部移転(削減)、
資金調達、資産圧縮等を行おうとしても、大手金融機関と異なり、社債発行や相対による CDS 取
引によるヘッジは容易ではないが、証券化(シンセティック型の取引を含む)は現実的な選択肢と
なる。証券化は、オリジネーター側での事務フローの構築など、相当な準備作業を伴う。証券化を
一度も実施したことがない地域金融機関が初めて証券化を行おうとする場合には、経営者の理解
を得る必要があることは言うまでもないが、体制構築等に相応に時間を要する。多くの地域金融
機関が参加する形で継続的に証券化が実施されることは、こうしたノウハウの維持にも寄与す
る。
(調査部長 江川 由紀雄)
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「6. 新たな中小企業貸付債権証券化に向けた検討会」を参照。
https://www.jfc.go.jp/n/company/sme/securitisation.html
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新生証券株式会社 調査部
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名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
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合があります。
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