(2016/3/2)日本政策金融公庫が5年ぶりに地域金融機関

新生ストラテジーノート 第 219 号
2016 年 3 月 2 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
日本政策金融公庫が5年ぶりに地域金融機関 CLO を組成
証券化インフラと中小企業向け債権証券化ノウハウの維持に寄与
日本政策金融公庫中小企業事業本部(日本公庫)は今月(2016 年 3 月)、5年ぶりとなる地域
金融機関 CLO を組成する。投資家に販売される商品は合同会社クローバー2016 が発行する社
債となる。これは、9金融機関(2銀行、6信金、1信組)(以下、オリジネーター)が積み上げた中小
企業向け貸付債権を参照債務とするシンセティック型の CLO となる。オリジネーターは、免責部分
(エクイティ相当部分)を設けたクレジットプロテクションを日本公庫から購入し、日本公庫は本件
社債の発行体となる合同会社からプロテクションを購入する。合同会社は社債の発行代り金の大
部分をオリジネーターではない大手銀行に預金することで運用する。このため、オリジネーターに
とっては、信用リスクの外部移転によるリスク削減が図れるものの、資金調達は行わない仕組み
となる。合同会社クローバー2016 が発行する予定の社債については、2016 年 2 月 26 日にム
ーディーズジャパンから予備格付けを取得している。
前回の同様の案件(2011 年 3 月発行の事例)対比、規模が大きくなっている。前回の事例で
は、参照債務にかかる債務者(中小企業)数が 140 社、総額 31 億円であったところ、今年(2016
年 3 月発行予定)の事例では、524 社、121 億 6700 万円となった 1。参照債務は、債務者1社
あたりの平均で約 2320 万円となる。参照債務は(募集したローンであるため、当然ではあるが)、
オリジネーターが実際に融資した貸出金であり、適格要件として、月次の元利払いを約定している
証書貸付債権であること等が要求されている。シンセティック型の証券化商品では、プロテクショ
ンの買い手が欧米の大手金融機関であり、必ずしも参照債務を保有している(つまり、ヘッジ取引
になっている)とは限らなかったり、想定元本が一定期間(たとえば、5 年間)変化しないとされてい
る事例が多いが、本件は明らかに異なる。また、日本で組成された中小企業向け債権の証券化
商品で過去にデフォルトした事例があるが、これは、裏付資産は半年毎利払い、元本満期一括償
還型の中小企業発行の多数の私募債であったことを想起したい。参照債務または裏付資産の特
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本稿で紹介した内容を含め、日本公庫の証券化支援業務関連の各種の情報(他のページ等へ
のリンクを含む)は、このページに掲載されている。
https://www.jfc.go.jp/n/company/sme/securitisation.html
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新生証券株式会社 調査部
性がこれとは大きく異なる。
金融機関による貸付債権の証券化には逆風が吹いているが
金融機関がオリジネーターとなる貸付債権の証券化は、その対象が企業向けの貸付債権であ
れ、住宅ローンであれ、また、その主たる目的がリスク移転であれ、資産圧縮や資金調達であれ、
オリジネーターが費用や損失を負担せざるを得ない(取引の採算として赤字を覚悟せねばならな
い)状況では、活発に行われることは期待できない。オリジネーターにとって、他の資金調達手法
よりも(コストに限らず、年限等の条件面で)有利な資金調達手段となる場合や、貸出金利が市場
金利対比ある程度高い場合に得られる劣後トランシェへの高めの配当や証券化時の貸付債権の
時価評価による債権売却益が期待できる時期には、金融機関にとって証券化を行おうとする動機
が働きやすい。金融機関の多くは営利企業であり、また、営利を目的としていない業態の金融機
関であっても、自己資本維持充実の観点から、わざわざ損失覚悟の取引を行うことは容易ではな
いことを踏まえると、貸出金を証券化するか否かの判断を行う際に、財務面や期間損益面でのメ
リットが享受できるか否かは大きな要因となる。
金融庁が「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプラン」(2003 年 3 月)
を公表し、証券化等に関する積極的な取組みを求めた後、多くの地域金融機関が証券化を行っ
たが、2006 年頃までにはそうした証券化の動きがほとんど止まった。それ以降は、長年にわたり、
低調なままで今日に至っている。金融機関に対する規制が強化された(特に、2007 年のバーゼ
ル2の導入)ことがひとつの大きな要因であろうが、金融機関による貸付債権の証券化取引で、オ
リジネーターを含め、各当事者が採算を確保することが容易ではなくなってきていることも作用し
ているように思える。
日本公庫に 2014 年に設置された「新たな中小企業貸付債権証券化に向けた検討会」(座長:
根本忠宣 中央大学教授)がとりまとめ、2015 年 6 月に公表された報告書 2でもこうした考察が行
われている。この報告書では、2011 年を最後に、新規の中小企業 CLO の組成が行われていな
い理由としては、東日本大震災を契機に信用保証協会の無担保保証制度が拡充されたこと、金
融機関間における競争の激化及び日本銀行による大規模金融緩和による貸出金利の低下が進
んだことなどが指摘されている。
2この
URL の「6. 新たな中小企業貸付債権証券化に向けた検討会」を参照。
https://www.jfc.go.jp/n/company/sme/securitisation.html
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日本公庫による地域金融機関等の証券化インフラ維持の意義
前述の報告書は、「中小企業 CLO 市場というインフラの整備は一朝一夕にはいかず、また、
現在の環境下、民間部門のみによって同市場が維持されることは期待しにくい。そのため日本公
庫が証券化支援業務を継続し新規の案件組成を行うことで、そのインフラを維持・整備していくこ
とは政策金融機関としての重要な責務であるとともに、証券化に従事する関係者のノウハウ維持
の観点からも重要である」(報告書要旨)と述べている。
日本公庫が組成に関与してきた証券化取引では、地域金融機関がオリジネーターとなっている
ケースが多い。こうした地域金融機関は、市場を用いて信用リスクや金利リスクの外部移転(削
減)、資金調達、資産圧縮等を行おうとしても、大手金融機関と異なり、社債発行や大手金融機関
との相対による CDS 取引によるヘッジは容易ではないが、証券化(日本公庫が今般組成したシン
セティック型の取引を含む)は現実的な選択肢となる。しかし、証券化を行うためには、経営者の
理解も必要であるし、金融機関内部での事務フローの構築運用を含むノウハウも必要である。全
くの未経験者であれば、初めての証券化取引を行えるまでに相当の準備期間が必要となることが
容易に想像できよう。こうしたことを踏まえれば、継続的に地域金融機関等による証券化取引を行
うことの意義は認められる。日本公庫の中小企業貸付債権証券化のインフラ維持整備に向けた
今後の取り組みにも大いに期待したいところである。
(調査部長 江川 由紀雄)
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名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
年
成
年
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たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場
合があります。
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