「総損失吸収能力(TLAC)」最終案

新生ストラテジーノート 第 202 号
2015 年 11 月 10 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
金融安定理事会(FSB)の「総損失吸収能力(TLAC)」最終案
金融機関による TLAC 適格債務の保有規制導入に要注意
金融安定理事会(FSB)は、昨年 11 月に案を公表し、意見を募集していた G-SIBs に対する「総
損失吸収能力(TLAC)」の定量保有義務最終条件(Term Sheet)を 2015 年 11 月 9 日に発表 1
した。
自己資本比率の計算と同様のリスクアセットベースでは、2019 年から 16%、2022 年から
18%が G-SIBs の最低 TLAC 比率として提示された。これに加えて、レバレッジ比率の計算と同
様の分母を用いた TLAC 比率として、2019 年に 6%、2022 年位 6.75%を FSB は要求した。持
株会社発行の無担保シニア社債は(残存期間、償還条件等の制約は受けるが)TLAC 適格とな
る。
同時に、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、TLAC 保有に関する規制案を市中協議文書の
形で発表し、意見募集を開始 2した。BCBS は、G-SIBs の無担保シニア債など、他の金融機関の
TLAC 適格債務を保有する金融機関は、自らの自己資本比率計算において、それを Tier 2 から
控除することを第 1 案として提案している。
日本では、FSB によって S-SIBs に指定されている金融機関グループ 3は、現状、いわゆるメガ
バンク 3 行グループのみであるが、この TLAC 定量保有義務の水準および導入時期次第では、
今後、メガバンクグループが、無担保社債の発行主体を銀行から持株会社に切り替えたうえで、
大 量発行 に踏み 切る可能 性も考 えら れた 。しかしながら 、日 本の預 金保険 機構の 基金 を
1
FSB, FSB issues final Total Loss-Absorbing Capacity standard for global
systemically important banks, 9 November 2015
http://www.financialstabilityboard.org/2015/11/tlac-press-release/
2
BCBS, TLAC Holdings – consultative document, 9 November 2015
http://www.bis.org/bcbs/publ/d342.htm
毎年見直される。2016 年の G-SIBs は、2015 年 11 月 3 日に FSB が公表した。
3
http://www.financialstabilityboard.org/2015/11/fsb-publishes-the-2015-update
-of-the-g-sib-list/
1
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
“external TLAC” として算入できることが明確になった 4こと、意見募集の段階では「16%から
20%」と示されていた定量保有義務は、案のレンジのちょうど中間程度の水準に落ち着いたこと、
18%以上が要求されるのが 2022 年からとされ、今後数年の時間的余裕がある(規制対象とな
る G-SIBs においては、その間の期間収益による自己資本の積み増しも可能である)ことなどに起
因し、そうした可能性は遠のいたと考えられよう。直近の決算期末で、G-SIBs 指定されている本
邦3グループの総自己資本比率は、みずほフィナンシャルグループが 14.58%、三井住友フィナ
ンシャルグループが 16.58%、三菱UFJフィナンシャル・グループは 15.68%であった。(各社開
示資料から)
リスクアセットベースの TLAC 比率は、自己資本比率の計算と同様の分母を用い、自己資本に
は算入できない Tier 2 劣後債務や無担保シニア債務を分子に算入できるため、自己資本比率
よりは大きな値になる。また、預金保険機構の基金は、金融機関が既に拠出した預金保険料を原
資にしている等の理由で、今般公表された “external TLAC” の要件を満たすため、2019 年に
2.5%分、2022 年には 3.5%分を算入できることになる。
ダブルギアリング規制類似の保有規制に留意
今般の FSB による TLAC 最終案と同時に BCBS が公表した市中協議文書で、TLAC の保有に
関して、自己資本比率規制におけるいわゆるダブルギアリング規制類似の扱いが示されているこ
とには留意しておきたい。他の金融機関の TLAC 適格債務は、 Tier 2 から控除計算することを
BCBS は第 1 案として提案している。控除しきれない場合は、足りない分は AT1 (その他 Tier 1)
からの控除計算になる。この保有規制を課す対象について、BCBS は、G-SIBs に限定せず、
“internationally active banks” としている。
この案のまま最終化され、自己資本比率規制として導入されると、G-SIBs の TLAC 適格シニ
ア債を(本邦の国際統一基準行が)保有すれば、それは、いわゆるダブルギアリング規制と同じ
扱いを受け、自行の Tier 2 からの控除計算が求められることになる。外国の大手金融機関を含
む G-SIBs の無担保シニア債を保有すると、それが、TLAC 適格である場合に、自らの自己資本
比率が下がってしまうことになる。
(調査部長 江川 由紀雄)
4
前述(脚注 1)における Term Sheet の項目 7 を参照。
2
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新生証券株式会社 調査部
3
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主な事業 :金融商品取引業
設立年月 :平成 12 年 12 月
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