住宅金融支援機構MBSの投資妙味

新生ストラテジーノート 第 215 号
2016 年 2 月 3 日
調査部長 江川 由紀雄
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まだ利回りが残っている円債―住宅金融支援機構 MBS の投資妙味
国債利回りとの「スプレッド」の意味、そして、MBS の利回りの要因に関する考察
短中期の国債流通利回りがマイナス圏で推移する市場環境下では、資金運用について相当な
工夫が必要になることは言うまでもない。昨年以降、地方債や財投機関債の「スプレッド拡大」(同
年限の国債流通利回りに対する上乗せ幅の拡大)傾向が顕著に見られる。昨年春頃以降は、こう
した債券の発行条件決定時には、国債流通利回りに対するスプレッドに加え、絶対値としての「下
限利率」を併用して、マーケティングが行われることが慣行になった感がある。「下限利率」として
は、日銀当座預金の付利利率である「0.1%」が用いられてきた。しかし、最近は、その「下限利率」
が崩れてきている。一昨日(2 月 1 日)に大阪府の2年債が応募者利回り 0.001%(1000 分の 1
パーセント)という発行条件となったことがそれを象徴している。利率 0.001%のパー発行・半年
毎利払いの債券なので、額面 1 億円に対する半年毎の利払い額は 500 円ということになる。既に
先月から「0.1%」を下回る発行利回り(応募者利回り)で条件決定された事例が出現し始めてい
たところ、国債以外の円建て債券の発行利回りは、0.1%が下限ではなく、ゼロが下限という時代
に突入した感がある。国債以外の円建て債券の発行利回りがゼロを下回ることは当面は考え難
いとしても、今後は資金運用手段としての円建て債券への投資機会は更に枯渇して行くであろう。
ところで、国債については、なぜマイナス利回りで応札し、流通市場で売買する市場参加者が
存在するのだろうか。マイナス利回りということは、満期まで持ちきれば、確実に損失を被るという
価格である。資金運用手段として国債が選好されているとは考え難い。マイナス利回りの国債より
はましな資金運用手段が残っているからだ。日銀が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導
入したといっても、依然として、金融機関の日銀当座預金残高の大半にプラス 0.1%の付利がな
されている。インターバンク市場に資金を放出すれば、ある程度はゼロ%前後での運用が可能で
あろう。
国債の流通利回りがマイナスとなっているのは、マイナス利回りで引き受け・流通市場で取得し
たとしても、より高い価格で日銀に転売できることを狙った取引(いわゆる日銀トレード)によるもの
が主な要因であろうし、他に、ドルを元手に大幅なマイナス金利で円資金を調達している外国銀
行による日銀当預以外の資金運用(資金コストが大幅なマイナスなので、多少のマイナス利回り
での運用でも「利鞘」を稼げるため)、極めて短期の運用につき「元利金支払手数料」獲得目的と
いったものが考えられる。こうした特殊な事情を背景に取引が行われる日本国債の市場価格をベ
ースに他の円建て債券の値決めや価格評価を行うことが果たして妥当なのかという問いを発して
もよい。
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
住宅金融支援機構の MBS を運用対象の候補として考えてみる
先月あたりまで元本償還期限一括型の財投機関債の発行利回りの事実上の「下限」であった
0.1%が既に破られてしまっている。また、5 年国債の利回りがマイナス 0.1%前後、10 年国債の
利回りがプラス 0.1%前後という市場環境に突入している(本稿執筆時現在)。現状の市場環境
下で、元本一括償還型の円建ての債券である程度のプラスの利回りを享受するには、20 年~30
年といった超長期の年限に注目するか、長期~超長期のラダー運用程度しか手段が無くなってき
ている。
こうした中でも、財投機関債でありながら、利回りとしてプラスの値が付いているものがある。住
宅金融支援機構の MBS である。
なぜ住宅金融支援機構 MBS はプラス利回り、しかも、10 年国債の利回りよりも大幅に高い利
回りで取引されるのだろうか。それは、住宅金融支援機構 MBS が利付国債や他の財投機関債
(何れも元本は満期に一括償還、半年毎利払い)とは全く異なり、毎月不定額で元利払いが行わ
れるという特性を有しているからである。元本償還の速度は、裏付けとなっている住宅ローン債権
プール(対応する信託財産)の減り具合に連動する。それはある程度予想可能だが、個々の住宅
ローンにおける繰上げ返済や長期延滞の発生状況次第で元本償還速度が加減速する。そうした
キャッシュフローの不確実性を負担する対価といえるリスクプレミアムが投資家が享受する利回り
に反映されているものである。アメリカのパススルー型 MBS の価格形成と全く同じ理屈である。同
じ住宅金融支援公庫が発行する元本期限一括償還型(SB 型)の財投機関債の価格形成におい
てはそういう要素は加味されないことは言うまでもない。また、MBS は、他益信託と「受益権行使
事由」の仕組みを用いたいわば特定担保付の債券であり、住宅金融支援機構の SB 型財投機関
債は、他の発行体による財投機関債と同様に、一般担保付であるという違いはある。しかし、そう
した違い自体―厳密には信用リスクが若干異なるということになろうが―は、ほとんど価格形成に
影響を及ぼしていないと考えられる。
住宅金融支援機構 MBS の利回りの大きな要因は元本償還の時期に不確実性があること、つ
まり、繰上げ償還リスクを投資家が負担していることにあると考えてよいだろう。そうしたキャッシュ
フローの不確実性が資金運用面において大きな負担とはならない市場参加者にとっては、注目に
値する円建ての資金運用手段である。
(調査部長 江川 由紀雄)
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新生証券株式会社 調査部
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主な事業 :金融商品取引業
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