(2017/2/21)東京電力の6年半ぶりの公募国内社債に関して

新生ストラテジーノート 第 261 号
2017 年 2 月 21 日
調査部長 江川 由紀雄
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東京電力の6年半ぶりの公募国内社債に関して
私募債でもシ・ローンでもなく公募債で市場から資金を調達することの意味
東京電力ホールディングスの 100%子会社で配送電事業を手掛ける東京電力パワーグリッド
は、2017 年 2 月 15 日、関東財務局に 2 件の社債発行に関する有価証券届出書を提出 1した。
東京電力グループによる国内公募社債の発行は 2010 年 9 月発行分が直近の事例であったた
め、およそ 6 年半ぶりの公募社債の起債となる。
東京電力グループは、2016 年 4 月 1 日に会社吸収分割の手法で旧東京電力が東京電力ホ
ールディングスと商号変更し、傘下に一般送配電事業を行う東京電力パワーグリッド、燃料・火力
発電事業を行う東京電力フュエル&パワー、小売事業を行う東京電力エナジーパートナーを
100%子会社として擁するグループ形態に変更された。親子関係の最上位に位置する東京電力
ホールディングス(旧東京電力)が株式を上場している。「ホールディングス」といっても、純粋持株
会社ではなく、原子力発電・水力発電等の事業を自ら手掛けている企業である。「ホールディング
ス」社は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構からの資金交付を受け、また、将来における特別負
担金の支出を行う主体でもある。
今回の社債発行体となる東京電力パワーグリッドは、「ホールディングス」社とは別法人であり、
原子力発電所の事故に起因する責務からは一義的には切り離されていると評価できる。「パワー
グリッド」社が手掛ける送配電事業は、発電や電力小売り事業とは異なり、電力自由化が進んで
も引き続き規制で保護される性質の事業であり、今後も安定的な収益力を維持することが見込ま
れる。「ホールディングス」社にとっては、今後の重要な収益源が複数の子会社の中でも稼ぎ柱と
なることが期待される「パワーグリッド」社の利益ということになる。
こうした状況を踏まえれば、東京電力パワーグリッドが私募債でもシンジケート・ローンでもなく、
公募債の形で市場からの資金調達に踏み切ることには国内クレジット市場参加者・関係者の観点
からは、好ましいことだと筆者は考える。私募債やローンであれば、発行条件について必ずしも公
表されるものではない。期中に契約条件変更が行われたり、発行体・借手による何らかの選択権
(たとえば、今回の社債の例には当てはまらないものの、ハイブリッド債・ローンによく見られる利
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第 1 回社債(一般担保付)(3 年債)300 億円、第 2 回社債(一般担保付)400 億円、合計 700
億円の一般募集に係るもの。EDINET で公衆縦覧に供されている。EDINET にて東京電力パワー
グリッド株式会社(E32215)の平成 29 年 2 月 15 日付関東財務局長宛提出の「有価証券届出書」
および同年 2 月 20 日付「訂正有価証券届出書」を参照。
EDINET のホームページ http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
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払いに関する選択権)が行使されたりしても、そうした事実を債権者以外の市場参加者が知り得
るとは限らない。ところが、有価証券届出書を提出したうえで発行する公募債であれば、将来的に、
もし何らかの社債権者の権利や負担するリスクに重大な影響を及ぼすような事象が発生すれば、
それが法定開示事項であれば開示されるであろうし、そうではない事項であっても自主的な適宜
開示その他の方法で情報開示が期待できよう。公募債を用いることは、社債権者および潜在的な
社債権者を含むクレジット市場関係者に対して隠し事ができなくなるという意味があるように思え
る。
東京電力パワーグリッドが提出した社債に関する有価証券届出書および訂正有価証券届出書
では、利率は「平成 29 年 3 月 3 日から 3 月 17 日までの何れかの日」に決定予定、利払日は「毎
年 3 月 24 日及び 9 月 24 日」としていることから、3 月の発行を目指して準備中であることが読
み取れる。発行体グループにとっては、今年度中に市場からの資金調達実績を作っておくことを
重視した起債であることが推測される。
なお、2010 年以前に旧東京電力が発行した国内公募社債(一般担保付)は、発行体は現東京
電力ホールディングスとなっているが、昨年 4 月の企業グループ構造の変更と同時に仕組み替え
が行われている。金額・利率・償還日が同一のインターカンパニーボンド(ICB)と呼ぶ一般担保付
社債を東京電力パワーグリッドが東京電力ホールディングスに対して発行、ホールディングス社
は信託銀行を受託者として ICB を信託設定し、受託者が信託財産を責任財産として既発国内公
募社債の元利払いを連帯保証している。このため、旧東京電力が 2010 年以前に発行した国内
公募社債(発行体は形のうえでは東京電力ホールディングス)は、「ホールディングス」社または
「パワーグリッド」社の何れかが債務履行すれば元利払いが行われる構造になっている。ストラク
チャードファイナンスの分野ではこうした構造―二者のうちどちらか片方が支払債務を履行すれ
ば支払いが行われる構造―を「ダブルペイ」という。いっぽうで、今後、「パワーグリッド」社が発行
予定の社債に関しては、親会社とはいえ別法人である「ホールディングス」社は元利払いに関す
る債務を負担しない「シングルペイ」である。もっとも、「パワーグリッド」社が関東地方を中心とした
地域における送配電事業という高収益事業を手掛ける企業であることを踏まえると、2010 年以
前に旧東京電力が発行した国内公募社債と東京電力パワーグリッドが今後発行するであろう国
内公募社債との間に、有意な信用リスクの差異はないと考えてよいだろう。
本稿では、東京電力パワーグリッドが発行予定の社債および東京電力が過去に発行した社債
について言及したが、信用リスクの考え方に関する材料を提供することを主眼としたものであり、
東京電力グループの社債等についての投資判断(売り買いの推奨、レーティングの付与等)を行
おうとする意図はない。弊社調査部としてクレジットリサーチの対象として、東京電力グループをカ
バレッジに含めようとするものでもない。
(調査部長 江川 由紀雄)
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所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金 :87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
立年
成
年
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