新生ストラテジーノート 第 244 号 2016 年 11 月 18 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 初の「指値オペ」、空振りでも金利低下 イールドカーブ全体を「コントロール」する政策の威力 日本銀行は 11 月 17 日午前 10 時 10 分頃に、初めて「指値オペ」を通告した。利付国債 2 年・ 370 回債をマイナス 0.09%の利回りで、5 年 129 回債をマイナス 0.04%で制限なく日銀が買い 入れるというものである。「指値オペ」は日銀が 9 月 21 日に導入を決定した「イールドカーブ・コン トロール」(長短金利操作)政策のひとつのツールである。同政策導入後、初の発動となった。応 札はなく、オペ自体は空振りであったが、この「指値オペ」の通告によって、17 日の日中は、短中 期ゾーンの国債利回りは顕著に低下し、5 年以下のゾーンについてはマイナス 0.1%程度かそれ 以下の水準に復帰した。とくに 2 年ゾーンについては、政策金利(マイナス 0.1%)を大きく下回る マイナス 0.14%程度に低下した。なお、11 月 17 日の初の「指値オペ」の対象となったものは、2 年債と 5 年債であった(言い換えれば、10 年債など、長期ゾーンには踏み込まなかった)ことには 着目しておきたい。米金利の上昇に連動するかのように円金利にも上昇傾向が見られた今週に 入ってからの市場実勢をみて、中短期ゾーンの金利水準のこれ以上の上昇は許容しないというメ ッセージを日銀が発した行為だと受け止めておきたい。 日銀は、9 月 21 日に「10 年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期 国債の買入れを行う」と発表しており、相当程度の幅をもって、10 年国債の利回りがゼロ%前後 であれば問題視しないものと推測される。「指値オペ」は、日銀が指定する利回りで無制限に対象 となる国債を買い入れるものであり、金利水準を誘導する手法としては極めて強力なものと考えら れる。 住宅金融支援機構 MBS と国債流通利回りの関係 この日(11 月 17 日)の午前 9 時台に、住宅金融支援機構 MBS 第 115 回債の発行利回りが 0.41%に決定(利率 0.41%、パー発行)し、参照した新発 10 年国債(344 回債)の利回りに対す る名目スプレッドは 0.39%となった。発行利回りが 0.4%を上回ったのは、8 月に条件決定された 112 回債以降初となる。住宅金融支援機構 MBS に限らず、多くの円建ての債券は、長年にわた り、国債利回りを基準に、それからどの程度の利回りを上乗せするべきかという観点で価格形成 と評価が行われてきた。国債以外の円建て債券の利回りと同年限の国債の利回りの格差をしば しば「スプレッド」と呼ぶ。昨年(2015 年)は、国債利回りの低下局面で、地方債や社債の「スプレ ッド」は大きく拡大した。「スプレッド」ではなく、利回りの絶対値を重視する市場参加者の影響であ ろう。こうした状況下で、住宅金融支援機構が月次で発行する MBS の 10 年国債流通利回りに対 1 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 するスプレッド(「名目スプレッド」 1 )は、大きな金利低下局面を含む過去2年を振り返っても、 0.38%から 0.54%の間で驚くほど安定的に推移してきている。機構 MBS と国債利回りの関係は 依然として保たれていると考えられる。 日銀の「イールドカーブ・コントロール」政策の要旨 日銀が 9 月に導入した「イールドカーブ・コントロール」政策は、「10 年物国債金利が概ね現状 程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国債の買入れを行う」もので、国債の平均残存期間の定 めは廃止し、指値オペ(日本銀行が指定する利回りによる国債買い入れ)を導入するものである。 更には、資金供給オペの期間を最長1年から最長 10 年へと延長した。今後当面の間、10 年国 債利回りをゼロ%近辺に維持するという日銀の意思表示であると考えられる。そして、各年限の 市場金利が日銀が意図する水準から上方に乖離する際には、「指値オペ」による国債買い入れや 資金供給オペによって、強力に誘導することを示唆している。(下方に乖離する際の誘導手法に ついては必ずしも明らかにはされていないように思える。) この政策が決定された時点では、日銀のホームページには、「日本銀行の金融調節を知るため の Q&A」として、「中央銀行は、人々の予想や将来の不確実性を思いのままに動かすことができ ません」、「中央銀行が誘導するのに適しているのは、ごく短期の金利なのです。期間が長い金利 の形成は、なるべく市場メカニズムに委ねることが望ましいのです」 2、とした解説を掲載していた。 現在では、「教えて!にちぎん」に、「かつては、『中央銀行は、短期金利はコントロールできるが、 長期金利はコントロールできない』といわれていましたが、金融政策によって長期金利をコントロ ールすることは可能なのですか?」と題する解説が掲載されており、ここでは、「マイナス金利と大 規模な国債買入れの組み合わせが、長短金利全体に影響を与えるうえで、有効であることがわ かりました」、「こうした経験も踏まえ、2016 年(平成 28 年)9 月に日本銀行は、「長短金利操作 (イールドカーブ・コントロール)」を導入しました」 3と説明している。 (調査部長 江川 由紀雄) なお、元本一括償還型の単一の国債と、毎月分割償還型の機構 MBS の利回りは、本来は、直 接に比較できるものではないが、「名目スプレッド」は、そのわかりやすさや一意に定められる(誰 が計算しても同じ値になる)ことなどから、市場参加者間のコミュニケーションツールとして使われ ている。 1 2 既に削除されており、存在しないが、URL は www.boj.or.jp/mopo/outline/wknqn3.htm であった。(筆者は手許に資料として残してある。) 2016 年 7 月 13 日の時点での www.boj.or.jp の内容については、国立国会図書館の WARP に保存されており、国立国会図 書館で閲覧できる。 http://warp.ndl.go.jp/waid/10257 3 https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b41.htm/ 2 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 3 著作権表示 © 2016 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
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