新生ストラテジーノート 第 211 号 2016 年 1 月 14 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 証券化の創意工夫と多様性に関する一考察 著名アーティストの死を悼んで証券化について論じる報道を見て デヴィッド・ボウイ(David Bowie)氏が 1 月 10 日に 69 歳で亡くなった。 Bowie 氏は、音楽ロ ヤリティ―収入を証券化した初のオリジネーターである。氏が権利を持つ “Let’s Dance” を含む 約 300 曲の音楽から得られる将来のロヤリティ―収入を裏付けに 1997 年に 55 百万米ドルの ABS が発行された。音楽ロヤリティ―収入の証券化は、 David Bowie 氏の事例に続き、いくつ かの事例が出現した。Bowie 氏の死を悼む多くの英文メディア報道記事では証券化が言及され ている 1。将来の売上げや将来のロヤリティ・ライセンス料収入の証券化は、アメリカやイギリスで いくつかの事例が出現した他、日本でも民営有料道路の証券化が行われた事例もある。クレジッ ト債権・カードローン債権の証券化において、既発の債権のみならず将来発生する債権を含めて 1 証券化の裏付資産となる形で仕組まれた事例もある。 証券化の特徴は何だろうか。「証券化とは、キャッシュフローを得られる権利として位置づけさ れる特定の資産と、優先劣後の関係にあるトランシェ構造に依拠して、資金調達を行う金融取引」、 「証券化は、特定された1つの資産(もしくは資産の集合体、すなわち、多数のプールされた資産) から、リターンとリスクの性質が異なる複数の投資対象をつくりだしてくれる 2」ものである。キャッ シュフローを得られる権利としての「資産」であれば、何でも証券化対象になりそうなものではある が、証券化しやすいものとそうではないものがある。 1 金融関係のメディアによる報道例を中心に、いくつか例をあげておく。 http://www.wsj.com/articles/david-bowie-the-man-who-sold-the-worldand-bon ds-1452542807 http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-01-11/bowie-bonds-drove-cha nges-in-markets-leading-to-esoteric-finance http://www.nytimes.com/2016/01/12/business/dealbook/how-david-bowie-cha nged-wall-street.html http://ftalphaville.ft.com/2016/01/11/2149761/a-short-history-of-the-bowie-b ond/ 2 川北英隆編著・桑木小恵子・渋谷陽一郎・高橋智彦著 [2012] 『証券化―新たな使命とリスク の検証―』 金融財政事情研究会 2 ページ 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 既存の貸付債権ばかりが証券化対象資産ではない 将来のキャッシュフローを見積もりやすいものが証券化に馴染みやすい。住宅ローン債権や既 に存在するクレジット債権であれば、そうした債権にどの程度、延滞、デフォルト(回収不能認定)、 繰上げ返済が生じるかを推定することによって、ある程度の幅をもって、予想を立てることができ る。近年証券化されている資産の大半はこうした特徴を持つ金銭債権である。将来においてキャ ッシュフローが得られる権利または財産(権)として、ほとんどの証券化商品の裏付資産になって いるものが貸付債権に代表される金銭債権(金銭の給付を受ける権利)である。また、ほとんどの 証券化取引において、債権譲渡が行われる。そうした特徴に着目すれば、将来債権も証券化の 対象になり得るだろうし、出来上がりの投資・運用対象が証券化商品とは呼べない形の「債権譲 渡ファイナンス」 3の形態も様々なものがあっていい。実際、そうした実例は過去にいくつもある。 日本における証券化は、1990 年代前半からリース・クレジット債権を中心に発展し、1990 年 代末頃から 2000 年代にかけては、住宅ローン、不動産担保ノンリコースローン、不良債権、総合 商社の売掛債権、遊技場や駐車場の売上げ(いわゆる事業の証券化)、有料道路や航空会社の 将来の売上げなど、様々な資産が証券化対象資産として取り込まれ、証券化商品の多様性もみ られた。また、2004 年の信託業法改正によって、受託できる財産権の限定列挙が外れたことも あり、証券化市場関係者によって知的財産を用いたファイナンスが試みられ、一部に実現した事 例もある。しかし、近年では、日本で組成される証券化商品の裏付資産は、住宅ローン債権とクレ ジット債権が中心となっている。日本の証券化市場では、昨年、オリックスが中小企業向け貸付債 権の証券化を行った他、日本政策金融公庫が 5 年ぶりのシンセティック型中小企業債権 CLO の 組成(2016 年 3 月発行予定)に向けて準備中である。こうした事例の積み重ねと証券化ノウハウ の復活と維持の先に、柔軟な発想と創意工夫による証券化手法(または高橋正彦氏のいう「債権 譲渡ファイナンス」手法)の新たな応用と発展が期待できるであろう。そうした創意工夫が報われ る時代が再来する時期はいつになるだろうか。 (調査部長 江川 由紀雄) 3 「債権譲渡ファイナンス」は、高橋正彦氏が創造した概念である。 高橋正彦 [2015], 『証券化と債権譲渡ファイナンス』, NTT 出版 2 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 3 著作権表示 © 2015 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
© Copyright 2024 ExpyDoc