新生ストラテジーノート 第 231 号 2016 年 7 月 12 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 バーゼル委、STC 要件充足証券化商品の資本賦課最終規則を公表 リスクウェイトのフロアは 10%、債務者集中 1%上限 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、2016 年 7 月 11 日付で、“Revisions to the Securitisation Framework” (「証券化の枠組みの改訂」)と題する文書を発表 1した。この文書 は 2014 年に改訂されていたバーゼル合意テキストを再改訂する新しいテキストを含んでいる。 新規則は 2018 年 1 月から適用すると冒頭に明記されている。バーゼル委員会のテキストがその まま各国における銀行の自己資本比率規制を含む健全性基準規制になるわけではない。日本の 金融庁は、バーゼル委が定めた導入日をターゲットとして、国内の銀行等の自己資本比率規制と して導入するべく、今後、告示の改訂作業や Q&A の策定作業に着手するものと予想される。 この枠組みは “Basel III securitisation framework” (バーゼル3における証券化の枠組み) と説明されており、言い換えれば、現行の証券化エクスポージャーの扱いはバーゼル3ではなく、 暫定的なものまたはバーゼル 2.5 の延長線上という立場をとっている。 改訂内容は、STC 要件として挙げられている全ての要件を満たす(これを “STC-compliant” と呼んでいる)証券化エクスポージャーについて、そうではないもの対比、適用するリスクウェイト を軽減するものとなっている。また、ABCP については、対象外とされているが、これは、ABCP に ついては STC 要件を用いた資本賦課軽減を行わないということではなく、近日中に、追加的に ABCP に限定した STC 要件の策定が行われる可能性を示唆しているものと思われる。 リスクウェイトのフロアは、STC 要件を満たすものについては 10%とされた。満たさないものは 15%のままである。証券化の枠組みの全体像は 2014 年 12 月に既に公表されている最終規則 から何ら変わるところはない。資本賦課(またはリスクウェイト)決定に用いる方式は、(1) SEC-IRBA と呼ばれる裏付資産に対する内部格付手法における資本賦課といくつかの変数を用 いて計算式によって求める手法、(2) SEC-ERBA と呼ばれる適格格付機関(格付会社)の格付 けを参照してリスクウェイトを決定する手法、(3) SEC-SA と呼ばれる裏付資産に対する標準的 手法における資本賦課等を基に計算式によって求める手法の優先順位となっている。もっとも、 最優先方式とされている SEC-IRBA は、内部格付手法採用行であり、かつ、裏付資産に対して 当局(金融庁)から利用を認められている行内モデルを有しており、その行内モデルで資本賦課を 決定できるに足りるだけの裏付資産に関するデータを入手できている場合に限られるため、それ 1 BCBS, Revisions to the securitisation framework, 11 July 2016 http://www.bis.org/bcbs/publ/d374.htm 1 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 が利用できる事案は限定的であろう。多くの場合に、 SEC-ERBA を利用することになろう。その 場合、対象となる証券化エクスポージャーがシニアトランシェで格付けが AAA であれば、マチュリ ティに関係なく、リスクウェイトは 10%となる。現行規則では、格付会社の格付けを参照してリスク ウェイトを決定する方式は、内部格付手法と標準的手法とでは、まったく異なるテーブルを参照す ることになっているが、そのような区別はなくなる。 全ての日本の証券化商品が STC 要件を満たせる訳ではない 資本賦課軽減の要件として挙げられている 16 項目にわたる STC (simple, transparent and standardised) 要件は、それぞれ、それほどハードルの高いものではないが、かといって、全て の証券化商品が満たせるようなものにはなっていない。日本で一般的に出回っている証券化商品 を踏まえると、たとえば、要件 D15 として挙げられている債務者集中 1%上限や、要件 D16 の裏付資産の標準的手法における加重平均リスクウェイト条件要件(とくに、住宅ローンについて) は、満たせないものが多々あるように思える。 自己資本比率規制上、資本賦課軽減の対象とするためには、個々の証券化商品に照らして、 ひとつひとつの要件を満たしているか否かを投資家が判定し、全ての要件を満たしていることを確 認せねばならない。この点について、BCBS は、2015 年 11 月の意見募集の段階では、証券化を 行う者(オリジネーター、スポンサー、その他適切な関係者)による “written attestation” (書面 による宣誓)を判断材料として投資家が判定することを提案していたが、このような記述は最終テ キストには載っていない。個々の銀行がそれぞれ個別に判定せねばならないことは、最初は多少 混乱も生じるだろう。一部の要件については、判定材料が投資家の立場では容易に入手できない ものがある。しかし、判定材料となる情報さえ全て揃えることができれば、判定自体は難しい作業 ではない(ほぼ単純作業になる)ため、簡単な事務作業として金融機関内部の事務フローとして定 着する可能性があろう。今後、要件を満たすか否かを投資家の立場で容易に判定する上で資す る情報を証券化取引の関係者が投資家に対して提供する慣行が広まる可能性もあろう。 証券化の枠組みの新規則は 2018 年 1 月に導入とされている。残存期間が1年半以上残って いる証券化商品は多々あろう。まずは、それらが、今回確定した STC 要件の全てを満たすかどう か確認してみてはどうだろうか。 (調査部長 江川 由紀雄) 2 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 3 著作権表示 © 2016 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
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