新生ストラテジーノート 第 183 号

新生ストラテジーノート 第 183 号
2015 年 4 月 24 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
自己資本比率規制におけるソブリンの信用リスクの問題
バーゼル銀行監督委員会が 2015 年~16 年の検討テーマに挙げてはいるが
国債のリスクウェイトはゼロではなくなるのかと不安を抱く地域金融機関の運用担当者の声が
筆者の耳に聞こえてくる。銀行勘定で保有する国債が自己資本比率算出上影響してくるルートと
しては、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)のリスクアセット化が実現した場合に加え、バーゼル委員
会でソブリンリスクの信用リスク化または各国裁量廃止が決定され、かつ、日本の当局がそれに
例外を設けずに国内ルールとして導入する可能性のふたつが考えられる。
現状は、銀行勘定の金利リスクについては、バーゼル合意では第 2 の柱で扱うこととなっており、
自己資本比率の計算には影響しない。日本では、一定の手法で金利リスクを計量し、それが自己
資本に対する一定割合を超えると「早期是正措置」の対象になる。これを第 1 の柱に取り込み、
EaR 等で計測し、リスクアセット化する検討が進んでいるようではあるが、具体的な提案が表面
化していない。
ソブリン債などのソブリン向け信用リスクについては、現行の標準的手法では、バーゼル合意
では、格付会社の格付けに応じたリスクウェイトを課すことを原則としつつ、各国当局に例外を設
けることを認めており、日本の金融庁は日本国政府及び日本銀行向けの円建てのエクスポージャ
ーのうち円建てで調達されたものについてリスクウェイトを 0%とする規定 1を設けている。もし、こ
の規定がなければ、格付けを参照するとすれば、国債の格付けが AAA ないし AA であれば、リス
クウェイトは 0%、A であれば 20%等となる。
バーゼル銀行監督委員会が 1 月 23 日に公表した 2015 年から 2016 年に掛けての行動計
画 2の中に、「ソブリンリスクの規制上の扱いの見直し」(reviewing the regulatory treatment
of sovereign risk)が挙げられている。ただ、それを説明する文章は、わずか 2 文だけである。
1
金融庁 「銀行法第 14 条の 2 の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本
の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(平成 18 年金融庁告示第 19 号)」
第 56 条第 2 項
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Basel Committee on Banking Supervision, The Basel Committee’s work programme
for 2015 and 2016 http://www.bis.org/bcbs/about/work_programme.htm
1
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全文を引用する。
“The Committee has initiated a review of the existing regulatory treatment of
sovereign risk and will consider potential policy options. The review will be
conducted in a careful, holistic and gradual manner.”
(筆者による意訳「委員会はソブリンリスクの規制上の扱いについてのレビューを開始している
ところ、今後、可能性のある政策上の選択肢について検討を行う。レビューは、慎重で包括的
に、かつ、ゆっくりとした形で行われる。」)
これだけでは、今後、どのような議論が展開されることになるのか、まったく方向性が見えない。
ただ、早急に結論を出そうとはせずに、時間を掛けて検討するであろうという時間軸は見える。想
像するに、ギリシャ国債のデフォルト(債務交換)により、ギリシャのみならず EU 域内の多くの銀行
が損失を被ったことを踏まえれば、自国通貨建て(ユーロ圏については、ユーロ建て)であろうと、
OECD 加盟国であろうと、国債を信用リスクがないものとみなして扱うのは適当ではないという意
見があるのであろう。いっぽうで、多くの国々で、国債は、金融システムの潤滑油のように金融機
関と中央銀行によって大量に利用されているという実態がある。
中央銀行のオペ対象として、中央銀行に限らず、金融機関相互のレポや有担保取引の担保と
しての利用など、様々な目的に国債が利用されている。国債には信用リスクがないとして扱うこと
は、こうした利用実態を踏まえれば、むしろ自然であろう。銀行が国に対してどの程度のエクスポ
ージャーを有しているのかは、自己資本比率に反映させなくても、銀行監督当局は把握できてい
る。
仮に国債の信用リスクを (名目的な値を超える水準の)資本賦課の対象にすれば、理論上、
資本賦課があり得ない中央銀行向けエクスポージャーとのバランスが議論の対象となる。当座預
金であれ、銀行券であれ、中央銀行の負債は通貨なので、デフォルトは(外貨建てでない限り)理
論上あり得ない。中央銀行向けエクスポージャーに 0%以外のリスクウェイトを適用することは、
理論的に、説明が難しい。日本銀行はリスクフリーの扱いのままとして、日本政府に対する与信
は信用リスクを計測してリスクアセット化するとなると、果たしてそういう扱いが妥当なのかという
議論が沸き起こることは必至であろう。
国債の扱いに関心が集まる背景
ところで、なぜ国債の扱いに関心が集まるかというと、国内の金融機関、なかでも地域金融機
関の多くがこれまで国債中心の資金運用を行ってきているからだと見ている。地域金融機関の資
金運用スタイルは、典型的には、日本国債のラダー運用をメインに、社債やクレジットリンク債など
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の主に円建てのクレジット商品をスポット的に組み合わせる。積極的な資金運用を行う金融機関
であっても、多くの場合に、日本国債が運用の柱である。国内金利が順イールド(年限が長いほど
高い)である限り、ロールダウン効果を享受できることもあり、国債での運用は、相応に収益をもた
らしてきた。しかし、今年 2 月頃以降は、中短期ゾーンの金利が大きく跳ねたこともあり、単純な日
本国債での運用で安定的に収益を実現することが困難になってきている。残存年限が極めて長
い超長期国債ばかりを組み入れるラダーファンドや、日本国債に代えて、やはり、自己資本比率
規制上はリスクウェイトが 0%の扱いとなる米国債を組み入れたファンドで資金運用を行う動きも
みられる。こうした金融機関にとっては、日本国債の扱いのみならず、米国債の扱いも気になると
ころであろう。果たして今後もリスクウェイトが 0%の扱いが続くのか、と。
こうした不安に対して確たる回答は用意できない。ただ、(1) バーゼル委員会内部における議
論に今後おそらくは紆余曲折があり、短時間で明快な結論が出るようなテーマではないこと、 (2)
国内基準行に対する自己資本比率規制では、日本の金融庁は、必ずしもバーゼル合意をそのま
ま当てはめてはいない(たとえば、流動性比率規制は国内基準行には導入しなかった)こともあり、
バーゼル委員会でリスクアセット化が決まったからと言ってただちに国内基準行の自己資本算出
方法に影響するものではないことを指摘しておきたい。
(調査部長 江川 由紀雄)
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資本金
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主な事業 :金融商品取引業
設立年月 :平成 12 年 12 月
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