(2016/3/22)債券バブルとの付き合い方について

新生ストラテジーノート 第 224 号
2016 年 3 月 22 日
調査部長 江川 由紀雄
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債券バブルとの付き合い方について
初めて経験する異常な円金利環境―資金運用担当者の心構え
バブルが発生しているかどうかは、崩壊した後にしかわからないと主張する人もいる。しかし、
バブルを、資産の価格が本来的な価値を超える水準に上昇しており、それをわかっていながら、
値上がり期待(既に高すぎる価格になっている資産を更に高く買ってくれる人がいるだろうという
期待)を背景にそれでも買う人がいる状態と表現するなら、日本国債には現在そうしたバブルが
生じている。かつて 2003 年春頃に生じていた状況を債券バブルと呼んでいた市場関係者は多か
った。その状況をはるかに凌駕するようなバブルが生じており、それが続いている。
保険商品や企業年金の設計に用いられる予定利率、銀行が預金を受け入れる際に預金者に
支払う利息(預金金利)等は、現状、何れも、プラスの値になっている。こうしたプラスの利回りを
予定または約束して顧客や加入者から集めた資金の運用なので、保険会社であれ、年金基金で
あれ、銀行であれ、できるだけそれよりも高い利回りで運用したいと考えるであろう。
機関投資家や金融機関の動機を考えれば、マイナス利回りまたはほぼゼロ利回りの債券に需
要が集まることは不自然だということは明らかである。債券は、将来のキャッシュフロー(元利払い
の金額と時期)が決まっている(コールオプション等が付されていない単純なケースを想定)もので
あるところ、マイナス利回りということは、将来にわたって得られるキャッシュフローの総額よりも高
い価格が付いているということである。マイナス利回りの債券を購入して、満期まで持ちきれば、
確実に損が出る。
しかし、マイナス利回りの国債であっても、タイミングよく日銀トレード(日銀に売る取引)を利用
することで、銀行や証券会社は、短期的に利益をあげることができる。どんなにマイナス利回りに
なっても、淡々と国債を買い続ける日本銀行が存在する。日銀を相手に売り抜ければマイナス利
回りでも利益が出る。こうしたことを背景に、日本国債の価格(利回りといってもよい)は、合理的
には説明が困難な領域で推移していると考えるべきであろう。(需給によって決まっている価格な
ので、いかなる価格であっても「合理的」だという主張もあり得る。)
好ましくないバブルではなく、意図をもって創出されているバブル
このバブルは、日銀の金融政策が背景にあるので、日銀が意図的に作り出しているバブル相
場だと言ってよい。その点で、1989 年の不動産・株価バブルは、政策との関係では、好ましくない
ものとして、日銀が何度も公定歩合を引き上げることによって、叩き潰そうとし、実際に、潰れたが、
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これとはまったく異質である。この政策は、現在もなお実施され続けている。
日本国債にバブルが生じており、現状の国債利回りは、衝撃的な水準になってはいるものの、
現在がバブルの絶頂だとは考え難い。もっとも、バブルの絶頂まで、あとどれだけ国債の価格上
昇(利回り低下)の余地があるだろうか。もうそれほど上昇余地(利回り低下余地)は残っていない
可能性はある。ただ、バブルの「絶頂」が近いということを示唆しようとするものではない。
日本国債の需要は、日銀の政策によって人為的に作り出されているわけだが、日銀の量的・質
的緩和政策は永遠に続くものではない。日銀総裁が交代した直後に打ち出した「2年・2倍・2%」
の異次元緩和開始(2013 年 4 月)からほぼ3年が経過しており、黒田総裁の任期(5年)は残り2
年となっている。
日銀の政策によって意図的に作り出されているバブルなので、その崩壊も、おそらくは、日銀の
行動に密接に関係したものがきっかけになるであろう。日銀の政策の失敗が広く認識される状況、
日銀が打ち出す政策等がネガティブな方向でのサプライズとして市場に受け止められる状況、日
銀が量的・質的緩和政策の出口を模索する状況などが考えられる。こうしたバブル崩壊のきっか
けが、将来のどのタイミングで生じるかは、予断を許さない。
バブルとの付き合い方
投資家の立場からのバブルとの付き合い方は、バブル相場が収益機会をもたらすところは追
及しつつも、バブル崩壊による被害を抑制することを意識しながら、投資なり資金運用に臨むべき
ということであろう。負債のデュレーションにマッチングさせるための超長期債への投資には合理
性はあろうが、そういう状況にない投資家が利回りを追求するために超長期債へ傾斜することは、
バブルはすぐには崩壊しないとしても、将来にわたり中長期的に継続するものではないであろうと
いうことを踏まえれば、危うさを伴う。まずは、国債以外である程度の利回りが規定できる分野へ
の運用先のシフトが考えられる。
(調査部長 江川 由紀雄)
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