シリーズ:財政健全化の論点整理⑦ ~社会保障の需要

EY Institute
11 March 2015
執筆者
シリーズ:財政健全化の論点整理⑦
~社会保障の需要と負担の増加
社会保険料の負担増
財政健全化の目標として、国と地方の基礎的財政収支があげられている。そのため、国の予
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・
予測
► 産業関連分析
算(一般会計)に加えて、特別会計や地方財政についても考える必要がある。内閣府『国民経済
計算』をみると、地方の基礎的財政収支の赤字幅は少なく、むしろ黒字となる年も多かったこと
がわかる。
その一方で、特別会計の支出規模が大きいことが注目される。その大半は社会保障に関係す
る支出だ。特別会計には、一般会計からの財源に加えて、社会保険料収入がある。その中で、
60兆円を超える社会保険料が注目される(2012年度、国立社会保障・人口問題研究所『社会
保障費用統計』)。社会保険料のうち被保険者の負担は32兆円であり、2012年度の所得税収
(14兆円)を大きく上回っている。これらにより、社会保険料の重要性が認識できるだろう。
納める側からみれば、税も社会保険料も負担に変わりない。しかし、その役割は大きく異なって
いることに注意が必要だ。社会保険料は、年金など、特定の目的のためにだけ使われているの
で、その収支は明確になっている。また、保険料を納めることでサービスを利用できるため、必要
性に応じて利用できるというメリットがある。
こうしたことを踏まえて、財政健全化を考える上で、社会保険料について考える必要がある。
高齢化に伴う社会保障需要にどう対応するか
今後、高齢化が進む中で、財政健全化を進めていく上では、医療・介護制度の財源確保が一
つの焦点になる。そのときに、これまで以上に、社会保険料の負担が重要になる。
まず、年金については、04年の改革によって、収支を考えた上で保険料率の上限が定められ
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た。それに向かって、これまで年金保険料は毎年引き上げられてきた。年金財政を支える100兆
円超の積立金もある。
その一方で、医療・介護制度には、年金のような多額の積立金がない上、税収の補てんへの
依存度を高めていることが知られている。そのため、年金に比べて、医療・介護制度は財政問題
を抱えているといえる。さらに、20年代には団塊の世代が75歳を迎えるようになることで、医療・
介護費が増えると見込まれている。そのため、効率化や重点化とともに、その財源の確保が喫
緊の課題となっている。そこで、注目されるのが社会保険料である。前述のように、使途が明確
であるため、社会保険料の負担増は比較的受け入れやすいとみられる。
また、日本の社会保険料は、国際的にみれば必ずしも高いものではないことに注意が必要だ。
確かに、12年のGDP比でみた社会保険料は11.3%と、高齢化が進んでいない米英に比べれば
高いものの、ドイツ(12.7%)やフランス(15.2%)よりも低い水準にとどまっている。もちろん、後発
薬の使用を増やしたり、介護報酬を見直したりするなど、効率化や重点化の取り組みが、社会保
険料引き上げの前提である。しかし、効率化が不十分だといって、引き上げを先延ばししている
と、医療・介護などの社会保障サービスの劣化や財政健全化への取り組みが遅れる恐れがあ
る。
このため、医療・介護サービス内容と費用負担を勘案して、社会保険料を見直していくことが必
要だろう。
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図 税・保険料負担(2012年)
(GDP比%)
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出典:OECD, Revenue StatisticsよりEY総合研究所作成
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