EY Institute 17 March 2015 シリーズ:個人消費の論点① ~想定以上の消費の減速 注目される個人消費の動向 執筆者 鈴木 将之 日本経済の先行きを見通す上で、GDPの約6割を占める個人消費の動向が重要だ。以下でみ るように、これまで消費の伸び悩みが経済成長の足を引っ張ってきた。しかし、2015年にはその 重しが外れ、個人消費の回復に向かう可能性が高い。 EY総合研究所株式会社 経済研究部 エコノミスト <専門分野> ► 日本経済の実証分析・予測 ► 産業関連分析 新年度が始まるのに先立ち、本シリーズでは今後の個人消費を見通す上でのポイントに焦点 をあてる。 14年の消費の減速 14年第3四半期(7-9月期)の経済成長率は、前期比年率▲2.6%と2四半期連続のマイナス となった(内閣府『四半期別GDP速報』)。 その一因として、消費税率引き上げ後に、個人消費の回復が遅れたことがあげられる。個人消 費は、14年第1四半期(1-3月期)に前期比2.2%と、消費税率引き上げ前の駆け込み需要に よって伸びたものの、第2四半期(4-6月期)に同▲5.0%と反動減で大きく落ち込み、第3四半 期は同0.3%、第4四半期(10-12月期)は同0.5%の伸びにとどまった。このように、夏場以降も 消費の回復力は弱く、想定以上の減速となった。 5%に消費税率を引き上げた1997年と比べると、14年の個人消費の反動減の方が大きいこと がわかる(内閣府『消費総合指数』)。消費税率の引き上げ幅が、97年の2%に対して、14年の 3%の方が大きいことは事実だ。しかし、それ以外にも反動減が大きくなった原因がありそうだ。 消費減速の原因 消費が想定外の減速になった原因として、何が考えられるのだろうか。 Contact EY総合研究所株式会社 03 3503 2512 [email protected] まず、12年末から13年にかけて、すでに消費が回復していたことがあげられる。アベノミクス への期待から、日経平均株価が12年11月からの半年間で約6割も上昇したことによって、高額 商品や外食などを中心に消費が盛り上がった。この資産効果によって、個人消費が実力よりも 上振れしていた分だけ、消費税率引き上げ後の反動減による下振れが大きくなった。 この個人消費の回復の遅れには、賃金上昇など購買力の増加が伴わなかった影響も大きかっ た。13年の賃金は前年比0.0%と横ばい、14年も同0.8%の上昇にとどまった(厚生労働省『毎月 勤労統計調査』)。確かに賃金は上昇に転じたものの、消費税率引き上げを含む物価上昇に追 いつかなかった。その結果、物価変動を含んだ実質的な購買力が低下して、消費の回復の足を 引っ張ることになった。 また、13年の消費の回復が、消費者マインド改善によるところが大きかったこともあげられる。 消費者マインドは12年末から急回復し、消費の後押しに貢献したとみられる。実際、消費者マイ ンドを表す消費者態度指数は、12年10月の40.0から半年後の13年4月には44.5へと上昇して いた(内閣府『消費動向調査』)。株価上昇のニュースが景気回復のシグナルと、消費者に認識 されている影響が大きいようだ。しかし、急速な消費者マインドの回復だったために、前述のよう に消費税率引き上げを含む物価上昇に賃金上昇が追い付いていないことが認識されるようにな ると、消費者マインドは悪化し、消費も元の堅実さを取り戻してしまった。 さらに、14年の夏場にかけて、生鮮食品をはじめとした身近なモノの価格が上昇したことも、消 費の低迷に追い打ちをかけた。為替レートが12年10月の1ドル=約80円から20円以上円安に 転じたことによって、輸入食料品価格が上昇していたことに加えて、14年初めの大雪の影響など も重なったことで、夏場に生鮮食料品価格が前年同月比9.8%(14年9月)と上昇していた(総務 省『消費者物価指数』)。 EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EYについて EYは、アシュアランス、税務、トラ ンザクションおよびアドバイザリー などの分野における世界的なリー ダーです。私たちの深い洞察と高 品質なサービスは、世界中の資本 市場や経済活動に信頼をもたらし ます。私たちはさまざまなステーク ホルダーの期待に応えるチームを 率いるリーダーを生み出していき ます。そうすることで、構成員、クラ イアント、そして地域社会のために、 より良い社会の構築に貢献します。 EYとは 、ア ーン スト・ アンド ・ ヤン グ・グローバル・リミテッドのグロー バル・ネットワークであり、単体、も しくは複数のメンバーファームを指 し、各メンバーファームは法的に独 立した組織です。アーンスト・アン ド・ヤング・グローバル・リミテッドは、 英国の保証有限責任会社であり、 顧客サービスは提供していません。 詳しくは、ey.com をご覧ください。 EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグ ローバルネットワークを通じ、さま ざまな業界で実務経験を積んだプ ロフェッショナルが、多様な視点か ら先進的なナレッジの発信と経済・ 産業・ビジネス・パブリックに関する 調査及び提言をしています。常に 変化する社会・ビジネス環境に応 じ、時代の要請するテー マを取り 上げ、イノベーションを促す社会の 実現に貢献します。詳しくは、 eyi.eyjapan.jp をご覧ください。 © 2015 Ernst & Young Institute Co., Ltd. All Rights Reserved. 本書は一般的な参考情報の提供のみを 目的に作成されており、会計、税務及び その他の専門的なアドバイスを行うもの ではありません。意見にわたる部分は個 人的見解です。EY総合研究所株式会社 及び他のEYメンバーファームは、皆様が 本書を利用したことにより被ったいかな る損害についても、一切の責任を負いま せん。具体的なアドバイスが必要な場合 は、個別に専門家にご相談ください。 EY Institute 個人消費は回復に向かう こうした原因から伸び悩んできた個人消費は、15年には回復に向かう可能性が高いと考えら れる。なぜなら、以上にあげた消費の重しが外れるからだ。例えば、引き続き賃金が上昇して、 購買力は回復に向かうとみられる。また、原油価格の低下などから、消費者物価指数の上昇幅 が縮小しており、消費者の負担感も軽減されつつある。 こうした視点から、本シリーズでは、まず14年の消費が伸び悩んだ原因について、物価や賃金 動向から整理する。その中で、特に個人消費を下支えする購買力に焦点を当てる。また、それら を踏まえて、今後の消費主導の経済成長を目指す上での課題や個人消費の先行きについて考 える。 図 過去2回の消費税率引き上げ前後での消費総合指数の推移(2005年=100) 1997年:5%への引き上げ時 (2005年=100) 100 (2005年=100) 116 2014年:8%への引き上げ時(右軸) 消費税率 引き上げ 98 114 96 112 94 110 92 108 90 106 88 104 102 86 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1995/2012年 1996/2013年 1997/2014年 出典:内閣府『消費総合指数』よりEY総合研究所 02 シリーズ:個人消費の論点① ~想定以上の消費の減速
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