シリーズ:供給制約を打ち破れ④ ~設備投資の増額

EY Institute
17 April 2015
執筆者
シリーズ:供給制約を打ち破れ④
~設備投資の増額なくして成長なし
伸び悩む国内設備投資
内閣府によると、2014年の設備投資は69.4兆円となり、4年連続で増えたことになる(内閣府
鈴木 将之
『四半期別GDP速報』2014年10-12月期・第2次速報)。しかし、その水準はリーマンショック前
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
の5年間(03-07年)平均の70兆円に届いていない。
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
成長戦略の枕ことばが「民間投資を喚起するため」とされるほど、設備投資は重視されている。
なぜ、設備投資が重要なのかといえば、設備投資が経済成長に多面的な影響を及ぼすからだ。
まず一つ目は、設備投資自体が最終需要であるので、設備投資の伸び悩みは短期的に経済成
長率を鈍化させることになる。二つ目は、設備投資の蓄積である資本ストックとして、供給サイド
から中長期的な経済成長に影響を及ぼすことがあげられる。つまり、設備投資は、需給両面か
ら、また短期・中長期的に、経済成長に影響を及ぼすのだ。
さらに、設備投資の景気への影響が大きいこともあげられる。設備投資は69.4兆円と、国内総
生産(GDP)の約14%を占めているものの、個人消費の約60%に比べて、規模が小さい。その一
方で、設備投資の増減率のバラツキ(標準偏差)を計算すると、個人消費の1.2%に対して設備投
資は5.8%だった。つまり、設備投資はGDPに占める割合は小さいものの、振れ幅が大きいため、
景気に対して大きな影響を及ぼしている。そのため、設備投資の動向を捉えることが、景気の先
行きを考える上で重要だといえる。
海外設備投資は増加基調
なぜ、これまで国内の設備投資は伸び悩んできたのだろうか。金融緩和政策によって金利が低
水準に抑えられており、企業が資金調達コストとみなす「物価を調整した金利」、すなわち「実質
金利」は低位で推移しており、設備投資が後押しされる環境にある。しかし、企業からみた投資の
Contact
EY総合研究所株式会社
03 3503 2512
[email protected]
収益性の見通しが低下してきたことが、設備投資の足を引っ張っているようだ。実際、企業から
みた「業界需要」見通し(成長率)をみると、一貫して低下してきたことがわかる(内閣府『平成26
年度企業行動に関するアンケート調査結果』)。1990年度には+4%を超えていた次年度の「業界
需要」見通しは、13年度に+1.2%まで低下している。また、今後5年間の「業界需要」見通しは平
均+1.3%にとどまっており、依然として企業の見通しは厳しいままだ。つまり、いくらコストが低下
しても、収益性の見通しの悪化から投資の採算が立たないことが多いため、国内の設備投資が
増えにくいといえる。
それに対して、海外投資は堅調に増えてきたことが注目される。製造業の現地法人設備投資
比率(=現地法人設備投資額÷(現地法人設備投資額+国内法人設備投資額))は、12年度に
25.8%となり、5年前の07年度の19.5%と比べても上昇している(経済産業省『海外事業活動基
本調査』)。国内法人企業の設備投資が伸び悩む一方で、現地法人の設備投資が増える姿は対
照的だ。この理由として、海外の採算性が高いことがあげられる。製造業の売上高経常利益率
をみると、12年度の国内法人の4.1%に対して、現地法人は4.6%と高いことがわかる。特に、
リーマンショック後に、その傾向が強まっているようだ。
設備投資において国内を選択できるか
国内外のいずれで、企業が設備投資を行うかという選択が、日本経済の潜在成長率を左右す
るようになっている。
90年代後半以降、企業の国内設備投資は減価償却費を下回ってきた。その一方で、収益の
確保を狙って、製造業を中心に生産拠点が海外に移転されたり、海外需要を獲得するために海
外進出が進められたりしてきた。こうした中で、国内の設備投資の優先順位は下がってきた。企
業価値の向上への取り組みが注目を集めていることを踏まえると、今後、収益が見込める海外
に投資する企業の姿勢がさらに強まっているとみられる。
かいり
言い換えると、グローバル化の中で、日本企業と日本経済の成長の乖離を縮める取り組みが
課題になっている。こうした中で、国内外の経済環境が、国内の設備投資を後押しする方へ徐々
に変わりつつあるようだ。
まず、生産拠点の移転先の中国などでは賃金が上昇しており、労働コストの節約という魅力が
低下している。その一方で、国内では物価が上昇に転じ、物価変動を調整した実質賃金が低下
した分だけ競争力が回復している。また、輸出産業の6重苦にあげられた円高や法人税率の高
しんちょく
さなどの課題も緩和されつつあり、貿易協定の議論にも進捗がみられている。
また、成長戦略は70兆円まで設備投資を回復させることを目指している。その実現のために
は、企業が国内に設備投資のかじを切れるような環境の整備が不可欠だ。例えば、アジア諸国
並みへの法人税率の引き下げによって、日本の立地競争力を高めたり、設備投資減税によって
投資コストを引き下げたりすることだろう。この中では、日本国内の投資採算性を高めるという視
点が欠かせない。円安や法人税率の引き下げによって問題の一部は解消されつつある一方で、
企業にとっては省エネ・省電力対策が課題として残っていることも事実だ。
さらに、人手不足を緩和するための設備投資も必要だろう。製造業を中心にこれまで労働コス
トを節約するための省人化投資が行われてきた。今後は、人手不足に応じた省人化投資が必要
になる。特に、対面での販売が基本となるサービスなどの非製造業での省人化投資が課題にな
るだろう。これらの取り組みを強化していくことが、供給の天井を打ち破るためには欠かせない。
EY Institute
02
シリーズ:供給制約を打ち破れ④
~設備投資の増額なくして成長なし
図 実質GDP成長率見通しと実質長期金利の推移
出典:総務省「消費者物価指数」、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」
「景気動向指数」よりEY総合研究所作成
(注)2014年の実質金利は4月から12月の平均値
図 キャッシュフロー・減価償却・設備投資の推移(全産業)
出典:財務省「法人企業統計調査」よりEY総合研究所作成
EY Institute
03
シリーズ:供給制約を打ち破れ④
~設備投資の増額なくして成長なし
EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory
EYについて
EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーな
どの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高品質
なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらします。
私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応えるチームを率いる
リーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、クライアント、
そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。
EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネット
ワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファーム
は法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、
英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、
ey.com をご覧ください。
EY総合研究所株式会社について
EY総合研究所株式会社は、EYグローバルネットワークを通じ、さまざ
まな業界で実務経験を積んだプロフェッショナルが、多様な視点から先
進的なナレッジの発信と経済・産業・ビジネス・パブリックに関する調査
及び提言をしています。常に変化する社会・ビジネス環境に応じ、時代
の要請するテーマを取り上げ、イノベーションを促す社会の実現に貢
献します。詳しくは、eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
© 2015 Ernst & Young Institute Co., Ltd.
All Rights Reserved.
本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務及びその他の専
門的なアドバイスを行うものではありません。意見にわたる部分は個人的見解です。EY総合
研究所株式会社及び他のEYメンバーファームは、皆様が本書を利用したことにより被ったい
かなる損害についても、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、個別
に専門家にご相談ください。