シリーズ:個人消費の論点④

EY Institute
20 March 2015
執筆者
シリーズ:個人消費の論点④
~高まる年金の存在感
年金収入は50兆円超
個人消費を考える上で、賃金はもちろん、家計の可処分所得全体(給料や年金などの収入合
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
計額から、税金や社会保険料などの負担額を引いた手取り)をみることが重要だと考えられる。
なぜなら、収入源として年金の存在感が大きくなっているからだ。
年金給付費は、現在では50兆円を超えている。65歳以上人口が全体の25%を占めるなど、高
齢化が進んでいるからだ。その規模を雇用者報酬(給料)と比べると、年金給付額は、雇用者報
酬の5分の1に達する計算である(内閣府『国民経済計算』、国立社会保障・人口問題研究所『社
会保障費用統計』)。それに加えて、高齢者世帯の主要な収入源であることもあり、家計の可処
分所得を支える大きな柱といえる。
年金に支えられる可処分所得
家計の可処分所得の推移をみると、給料が景気に大きく左右される一方で、年金給付額は、
高齢化を背景に着実に増えてきており、安定していることがわかる。なぜなら、給料は好況時に
残業代やボーナスが増える一方で、不況時にはそれらが減るためだ。それに対して、年金給付
額は不景気だからといって、減額されることはない(初めて年金を受け取る段階での給付額は過
去の賃金上昇率に応じて、毎年の年金給付額は物価上昇率に応じて変化する)。つまり、これま
で不景気になっても、年金があったおかげで家計の消費が下支えされてきたともいえる。
もちろん、年金給付額も調整される。前述のように、毎年の給付額は物価に応じて変動するた
め、間接的には景気の影響を受ける。物価が景気の体温とみなされるため、不景気ならば物価
の上昇幅が縮小し、その分年金額も伸びなくなるからだ。また、2015年度には、物価上昇率より
も年金給付額の伸び率を抑える「マクロ経済スライド」が初めて発動される。
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しかし、今後も高齢化が進むことを踏まえると、年金給付額自体は増え続けると想定されてい
る。また、年金給付額に回される予定の年金積立金が100兆円以上もあるため、これからも年
金は消費の下支え役として期待できるだろう。
社会保障の役割と消費
その一方で、年金・健康保険料など、社会保険料負担が増えてきたことも事実である。年金保
険料の引き上げについては、04年の改革によって上限が定められ、それに向けて毎年のように
引き上げられている。また、健康保険料などは、今後も増える見込みである。このように、社会保
険料の負担増が、今後の家計の可処分所得の重荷になる可能性がある。
ただし、社会保険料の増加を一概に負担増とはみなせない理由もある。例えば、子ども世代か
らみれば、社会保険料の負担は親世代の生活を間接的に負担するコストにすぎないことに注意
が必要だ。見方を変えると、子ども世代には、社会保障制度によってさまざまなリスクを日本全
体でプールできるメリットがあることになる。
仮に、年金制度がなければ、親世代が十分な生活費を持っていない場合に、子ども世代が直
接負担することになる。それに対し年金制度があれば、年金保険料を負担することによって親世
代の年金が担保される上(親世代が年金に加入して保険料を納めたことが前提)、子ども世代も
将来の自分の年金が担保されることになる(もちろん年金給付額自体は、年金保険料の支払期
間や支払総額に応じる)。
また、医療や介護サービスなどは、通常の製品やサービスの消費とは異なり、所得の多寡で
はなく、必要性に応じて利用できるものだ。医療や介護制度があることで、病気などのリスクを軽
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ます。私たちはさまざまなステーク
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率いるリーダーを生み出していき
ます。そうすることで、構成員、クラ
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より良い社会の構築に貢献します。
減できるので、いざというときのために過度に貯蓄をしておく必要がない分だけ、消費が増えると
期待される。
このように、高齢化が進む中で、個人消費の先行きを考えるためには、50兆円を超える年金な
どを含む、可処分所得全体の動きにも注目する必要がある。
図 可処分所得の変化
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