EY Institute 26 March 2015 シリーズ:個人消費の論点⑧ ~変化する消費スタイルの取り込み 消費スタイルにあった潜在需要の掘り起こし 執筆者 鈴木 将之 EY総合研究所株式会社 経済研究部 エコノミスト 前回みたように、消費を起点として経済の好循環を生み出すためには、消費をどのように捉え るのかが重要になっている。 特に、消費額を増やしていく上で、消費スタイルの変化を捉えた潜在需要の掘り起こしが必要 不可欠だ。潜在需要を掘り起こす上で注目されるのは、高齢者、女性の消費力増大や、単身者 世帯数の増加である。 <専門分野> ► 日本経済の実証分析・予測 ► 産業関連分析 高齢者の消費 今や4人に1人が65歳以上となった日本において、高齢化の消費に及ぼす影響は大きい。 高齢化に伴って、例えば、医療・介護費などが増えている。医療・介護といえば公的保険制度を 想定しがちであるものの、健康関連消費やサービスも増えてきたことが注目されている。 ただし、高齢化イコール医療・介護とみると、消費の実態を捉えきれないことも注意が必要だ。 なぜなら、年金などをはじめとして一定の所得や、貯蓄がある一方で、健康で消費意欲の高い高 齢者も増えているからだ。こうした高齢者では、旅行など娯楽関係への支出も多いことが知られ ている。特に、孫を含めた3世代消費が増えていることも事実だ。さらに、食費などについても、 量よりも質を求める傾向が強まっているため、消費の厳選が進んでいるといえる。 つまり、高齢者消費とひとくくりにできないほど、消費が多様化しているのが実態だ。そのため、 高齢者消費を取り込むためには、それぞれのニーズにあった商品・サービスを展開することが重 要になる。例えば、健康などの面から品質を高めたり、使いやすいように食料品などを小分けに したり、宅配機能を強化したりすることだろう。 Contact EY総合研究所株式会社 03 3503 2512 [email protected] 女性の消費 次に、女性の消費については、就業率の上昇とともに、所得も高まっているため、消費者として の存在感が大きくなっていることが注目される。 その中でも一般的に、男性に比べて女性の消費では、衣食住のうち外食や酒類など食費が抑 えられているなど、消費パターンが異なっていることが特徴的だ(総務省『全国消費実態調 査』)。例えば、外食について、男性が月2.4万円であるのに対して、女性は1.1万円だった(単身 世帯のうち勤労者世帯)。酒類の購入額も男性の2,700円に対して女性は1,200円だった。そ の一方で、住居費(男性3.3万円、女性4.2万円)、家具・家事用品(男性3,400円、女性5,100 円)、衣服(男性8,900円、女性12,000円)に加えて、旅行(男性1,900円、女性2,700円)な ど、趣味への支出が多い傾向があるという特徴もある。 つまり、女性の消費をターゲットにした場合には、男性の消費とは異なる製品・サービスのライ ンアップにしなければ、消費を引き出すことはできない。言い換えると、これまでは十分な消費を 引き出せてこなかった可能性が高い。女性の消費を中心に据えることが欠かせない要件の一つ といえるだろう。 単身者世帯の消費 さらに、単身者世帯の消費動向も注目される。なぜなら、人口が減少に転じてからも、単身者 世帯が増えているからだ。単身者世帯も2010年の1,679万世帯から30年の1,872万世帯へ と、30年頃までは増えると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将 EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory 来推計』2013年1月推計)。 EYについて EYは、アシュアランス、税務、トラ ンザクションおよびアドバイザリー などの分野における世界的なリー ダーです。私たちの深い洞察と高 品質なサービスは、世界中の資本 市場や経済活動に信頼をもたらし ます。私たちはさまざまなステーク ホルダーの期待に応えるチームを 率いるリーダーを生み出していき ます。そうすることで、構成員、クラ イアント、そして地域社会のために、 より良い社会の構築に貢献します。 立っている。例えば、世帯主65歳以上の単独世帯数は、10年に498万世帯から30年には730 EYとは 、ア ーン スト・ アンド ・ ヤン グ・グローバル・リミテッドのグロー バル・ネットワークであり、単体、も しくは複数のメンバーファームを指 し、各メンバーファームは法的に独 立した組織です。アーンスト・アン ド・ヤング・グローバル・リミテッドは、 英国の保証有限責任会社であり、 顧客サービスは提供していません。 詳しくは、ey.com をご覧ください。 単身者世帯というと、若年世代を想定しがちだが、実は近年、高齢単身者世帯の増加が目 万世帯まで増えると見込まれている。その消費を引き出すためには、単身者向けの小分け商品 を多く用意したり、配送サービスやいわゆる御用聞きなどのサービスを拡充したりすることが必 要だろう。 また、若年世代を中心に、インターネットや通販など、販売ルートが変わってきたことに加えて、 消費の時間帯も多様化していることも、消費の先行きを考える上では見逃せない変化だ。スマー トフォンなどを利用して、時間帯を選ばない消費が増えているためだ。今後、スマートフォンやイ ンターネットを使いこなす高齢者が増えてくることから、こうした視点からの消費はさらに拡大する と見込まれる。 このように、多様なライフスタイルにかなった消費行動の提案が、潜在的な需要の掘り起こしに は欠かせなくなっている。 図 消費支出の世帯主年齢別の要因分解 EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグ ローバルネットワークを通じ、さま ざまな業界で実務経験を積んだプ ロフェッショナルが、多様な視点か ら先進的なナレッジの発信と経済・ 産業・ビジネス・パブリックに関する 調査及び提言をしています。常に 変化する社会・ビジネス環境に応 じ、時代の要請するテー マを取り 上げ、イノベーションを促す社会の 実現に貢献します。詳しくは、 eyi.eyjapan.jp をご覧ください。 © 2015 Ernst & Young Institute Co., Ltd. All Rights Reserved. 本書は一般的な参考情報の提供のみを 目的に作成されており、会計、税務及び その他の専門的なアドバイスを行うもの ではありません。意見にわたる部分は個 人的見解です。EY総合研究所株式会社 及び他のEYメンバーファームは、皆様が 本書を利用したことにより被ったいかな る損害についても、一切の責任を負いま せん。具体的なアドバイスが必要な場合 は、個別に専門家にご相談ください。 EY Institute 出典:総務省『家計調査』よりEY総合研究所作成 02 シリーズ:個人消費の論点⑧ ~変化する消費スタイルの取り込み
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