シリーズ - EY総合研究所

EY Institute
17 February 2015
執筆者
シリーズ:原油安の影響①
~原油価格の低下の原因とは?
原油価格の低下の原因
原油価格が、2014年6月にピークをつけてから、年末にかけてのわずか半年間で、5割以上も
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・
予測
► 産業関連分析
低下している。その影響は、金融市場から広がり、徐々に実体経済にも及んできている。
原油価格が低下した主な原因は、需要が伸び悩んでいるにもかかわらず、供給が維持された
ことによって、需給バランスの崩れが強く認識されるようになったことだ。需要側では、14年に中
国や欧州などを中心に景気に先行き不透明感が強まり、原油需要が弱含んでいた。そうした中
で、世界エネルギー機関(IEA)が、15年の世界石油需要の見通しを引き下げるなど、先行きの
需要の停滞感が市場に強く意識されるようになった。
また、供給側では、シェール革命によって米国の原油の供給能力が高まってきたことがある。
14年11月の石油輸出機構(OPEC)の総会が、原油価格の安定ではなく、原油生産量の確保を
優先したことをきっかけに、供給過剰感への懸念が一層高まった。
さらに、日米欧の金融政策の方向性の違いが、原油市場へのマネーの供給と為替レートの二
つの経路から、原油価格の低下の一因になった。米国では、量的緩和政策(QE)が終了し、今年
半ばに向けて利上げが視野に入っている。それによって、これまで原油など国際商品市場に流
入していたマネーが逆流する可能性が高まっている。
それに対して、日本と欧州では金融緩和政策が進められている。このような金融政策の方向性
の相違から、将来的な金利差の拡大が意識されるようになっており、米ドル高のトレンドがつづ
いている。その結果、主に米ドル建てで取引される原油の価値が低下しており、それが原油安に
拍車をかけたとみられる。
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原油価格の低下の影響
原油価格が低下した影響は、金融市場に広がった。原油価格の急落をきっかけに、投資家は
リスク回避的な姿勢に転じた。そのリスクオフの姿勢によって、株式が売られる一方で、安全資
産とされる円や債券が買われた。円は一時よりも円高で推移し、金利は一段と低下した。
また、為替レートへの影響については、実需の見通しの影響もある。原油価格が低下すること
で、今後、日本の貿易赤字の縮小が予想される。原油価格の低下は、輸入代金を減らすので、
輸入業者などの米ドルの実需が減ることになる。それは、結果として、為替市場で、円安・ドル高
のトレンドを弱めることになる。
その一方で、原油価格の低下は、実体経済にも影響を及ぼしつつある。例えば、原油価格が
低下すれば、ガソリン代なども下がるので、消費にはプラスの効果が期待できそうだ。実際、日
本の消費者物価上昇率(除く生鮮食品)は、14年12月に前年同月比2.5%(消費税の影響を除く
と同0.5%)まで縮小している。
確かに、一部の企業には原油価格の低下に伴う評価損などの悪影響があるものの、原油輸入
国である日本経済にとってコスト節約という恩恵が大きくなり、全体として、プラス効果になりそう
だ。さらに、ガソリンなどのコスト削減から、家計や企業の購買力が高まり、消費や投資などの需
要拡大につながる可能性もある。
世界経済においても、原油価格低下の影響が広がりはじめた。例えば、原油輸入国では、物
価上昇圧力が低下しはじめている。例えば、ユーロ圏の消費者物価指数は、15年1月に▲0.6%
と、09年以来のマイナス圏内で推移している。その他には、原油価格の低下によってインフレ圧
力が低下していることもあって、オーストラリアのように、政策金利を引き下げて景気を刺激する
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動きもみられる。
また、グローバルな視点からみれば、原油輸入国から産油国への所得の移転が緩和されるこ
とを意味する。原油輸入国では、原油価格が下がった分だけ、購買力が回復するなど、景気に
プラスの影響が予想される。それに対して、産油国では、輸出額の減少や財政収支の悪化など
から、景気へのマイナスの影響が懸念されている。総じてみれば、原油価格の低下は、短期的
に産油国の景気悪化やオイルマネーの新興国からの流出などによって、世界景気を冷やすもの
の、原油輸入国の景気回復が進むにつれて、世界経済全体としてはプラス効果の方が大きくな
る可能性が高いと考えられる。
本シリーズでは、以上のような点から、原油価格の低下の影響について考える。
図 NY原油先物の推移
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出典:日本経済新聞社よりEY総合研究所作成
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シリーズ:原油安の影響①
~原油価格の低下の原因とは?