シリーズ:財政健全化の論点整理⑥

EY Institute
10 March 2015
執筆者
シリーズ:財政健全化の論点整理⑥
~法人税率の再引き下げへ
成長戦略の目玉の一つ
今回は、基幹税の一つであり、その改革が注目を集めている法人税について考える。
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
2015年度税制改正大綱では、成長志向に重点を置いた改革として、法人税の引き下げが明
記された。それによると、法人実効税率(標準税率ベース)は、34.62%から32.11%へと▲2.51
ポイント引き下げられる。もちろん、法人税率の引き下げといっても、財政健全化という課題もあ
るため、租税特別措置の見直しや法人事業税の外形標準課税の拡大など他の財源確保と合わ
せたものになっている。
今後の焦点は、来年度以降の法人税率の引き下げだ。成長戦略では、法人実効税率の20%
台までの引き下げを目標としているからだ。法人税率引き下げが、成長戦略の象徴的な役割を
担うようになっていることもあり、その動向が注目されている。
企業負担のバランスが課題
日本の税制度をみると、法人税以外の税や支出が小さいわりに、企業の税・社会保険料負担
は重い傾向があることがわかる。GDP比でみた日本企業の法人税と社会保険料の雇用主負担
をOECD諸国と比べると、平均に近いところに位置している。その内訳をみると、法人税よりも社
会保険料負担が大きいことが、特徴としてあげられる。これにより、法人負担の見直しでは、法
人税に加えて、社会保険料まで含めた負担構成を視野に入れて、バランスをとる必要があると
考えられる。
その参考として、北欧諸国の負担構成をみると、国によって大きく異なっていることがわかる。ノ
ルウェーは法人課税全体の割合が大きく、特に法人税負担が目立っている。それに対して、フィ
ンランドでは、社会保険料負担の割合の方が大きくなっている。また、デンマークでは、法人税負
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担が軽いものの、個人所得税の負担が重くなっており、租税・社会保険料全体ではデンマークの
負担が最も大きくなっている。
これにより、負担構成を考えるときには、租税と社会保険料のいずれを重視するのか、また、
法人所得と個人所得のいずれを重視するのかという選択の問題に行き着くのだろう。つまり、そ
の国において何を重視するのか、そして何を受け入れられるのかに、負担構造は依存するの
だ。
日本の現状をみれば、アジア諸国との競争条件を踏まえれば、もう一段の法人税率引き下げ
が欠かせないといえるだろう。その一方で、高齢化などによって社会保障サービスへの需要が
増えていることを踏まえれば、社会保険料の引き下げは現実的な選択肢ではない。そのため、
企業負担については、少なくとも、社会保険料負担は維持しながら、法人税負担を引き下げるこ
とになるだろう。法人税率引き下げを受け入れるためには、法人税減税によって増えた企業収益
を原資に労働者への配分(=賃金)も増えるという波及効果が必要になる。実際に、政労使三者
協議などを通じて、法人税率引き下げと賃上げがひもづけられて議論されてきた。
このように、法人税を考える上では、日本企業・経済の成長や、労働者の所得増を促すような
税制度がますます重要になっている。
図 企業の税・保険料負担(2012年)
(GDP比%)
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社会保険料雇用主負担
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
ノルウェー
フランス
チェコ
エストニア
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