シリーズ:財政健全化の論点整理④

EY Institute
06 March 2015
執筆者
シリーズ:財政健全化の論点整理④
~消費税率の再引き上げは不可欠
消費税率引き上げ先送りに
今回からは、国の予算(一般会計)のうち歳入(収入)に目を向けてみよう。
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
昨年、注目を集めた10%への消費税率引き上げは、2017年4月に先送りされる見通しとなっ
た。8%への消費税率の引き上げ後、消費の回復の遅れもあり、実質GDP成長率が7-9月期まで
2四半期連続のマイナスとなったことなどから、先送りとなった。
物価上昇の中で消費税率が引き上げられたことで、14年4月から8月までの間、生活実感に近
いとされる消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)が前年同月比で4%を上回っていた。そ
れに、賃金上昇が追いつかず、購買力が低下した結果、消費の回復が遅れた。
また、年金受給世帯への消費税率引き上げの影響も大きくなっている。なぜなら、年金給付額
は50兆円を超えており、勤労世代の給料(雇用者報酬)の250兆円の5分の1強にまで増えてい
るからだ。その背景には、65歳以上人口比率が25%を超えており、いわゆる年金世代が増えて
いることがある。
就業者数の減少などを踏まえて、年金給付額を物価上昇率以下に抑えるマクロ経済スライド
が、15年度から発動されることになった。それによって、物価上昇ほど年金給付額が増えなくな
るため、消費税率を含む物価上昇の影響の緩和を図りながら、消費税率を引き上げる工夫が必
要だろう。
欧州の例をみると、小幅に消費税率を引き上げることで、影響を緩和してきた。今回の引き上
げは、15年度までに基礎的財政収支(GDP比)を、10年度の赤字水準から半減させるという目
標に対して帳尻を合わせるために、5%から8%への引き上げとなったという事情がある。今後も、
小幅に消費税率を引き上げるなど、消費税率を含む物価上昇の影響を小さくする工夫をしなが
ら、20年度までに基礎的財政収支(GDP比)の黒字化という目標の達成に向けて努力する必要
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だろう。
景気ではなく構造的問題への対応策
本来、消費税率引き上げは、財政健全化と社会保障の拡充という構造的な問題への対応策で
ある。そのため、リーマンショックのような景気後退を除いて、短期的な景気循環に左右されずに
実施することが望ましい。
もちろん、税率引き上げの悪影響の緩和を考えれば、景気が良いに越したことはない。しかし、
経済成長の実力を表す潜在成長率が0.5%強の日本では、そもそも高い経済成長率は実現しに
くい。仮に、高い経済成長率を条件に課すならば、景気を過熱させなければならず、短期的に
は、むしろ悪影響の方が大きくなりかねない。
10%への消費税率引き上げが17年に先送りになったものの、今度は景気判断条項が課され
ない。財政健全化を進める上で、その点は望ましいものの、17年時点の経済環境がどのように
なっているか分からないため、不確実性が高まったといえる。言い換えると、政府には、消費税
率引き上げと、17年の経済環境の改善という二つの宿題が課されたことになる。
また、仮に、10%まで消費税率を引き上げても、国際公約である20年度までの基礎的財政収
支の黒字化は難しいのが実情だ。しかも、消費税率引き上げを17年に先送りしたことで、20年
度の基礎的財政収支の黒字化に向けた対策の猶予期間が3年しかなくなってしまった。つまり、
20年度までの目標達成のためには、歳出入改革のスピード感が以前にも増して求められる。
(%)
30
25
20
15
10
5
スウェーデン
デンマーク
イタリア
イギリス
フランス
ドイツ
中国
EU指令の
下限値
0
オーストラリア
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韓国
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こうしたことを踏まえると、6月に予定されている財政健全化計画では、従来よりも一歩踏み込
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出典:財務省「諸外国における付加価値税の標準税率の推移」よりEY総合研究所作成
(注) 日本は2014年4月時点、その他の国は2014年1月時点。
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