シリーズ:個人消費の論点⑤;pdf

EY Institute
23 March 2015
執筆者
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
シリーズ:個人消費の論点⑤
~回復の兆しが見え始めた消費者マインド
夏場に悪化した消費者マインド
2014年の消費の回復を遅らせた一因は、消費者マインドの弱さにある。これまでの消費者マ
インドの動きを振り返ると、12年末からの景気回復局面で、日経平均株価がわずか半年の間で
5割以上も上昇した影響などから、消費者マインドが急回復した様子が確認できる。実際、12年
10月に40.0であった消費者態度指数は、13年4月には44.5まで上昇した。12年末から13年
はじめにかけて連日のように株価上昇のニュースが流れたこともあって、景気回復への期待感
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
が高まっていた。
また、13年の夏場にかけても消費者マインドは44~45前後で推移するなど、良好な状態が保
たれており、消費の下支えにつながったとみられる。その後、14年4月の8%への消費税率引き
上げが視野に入り始めると、消費者マインドは徐々に悪化したものの、14年4月の37.0を底に
回復に転じた。
しかし、消費者マインドは、7月の41.5をピークに再び悪化に転じてしまった。この悪化は、5%
に消費税率が引き上げられた1997年とは、事情が異なっているようだ。
97年の12月にマインドが大幅に悪化した主な理由は金融危機だった。また、消費税率引き上
げ後から金融危機が発生するまでの間、消費者マインドは持ち直す動きを見せていたことが注
目される。
それに対し、14年のマインド悪化の一因は、前回までにみたように、物価上昇に賃金上昇が追
いつかなかったことで、物価変動を調整した実質的な購買力が減ったことだと考えられる。また、
夏場には、生活に身近な生鮮食料品の価格が上昇したこともあって、物価上昇の負担感が強く
意識されるようになった。さらに、長年のデフレによって、消費者が物価上昇に慣れていない面も
あったようだ。
Contact
EY総合研究所株式会社
03 3503 2512
[email protected]
14年末から消費者マインドは回復へ
14年末になって、ようやく消費者マインドは反転の兆しを見せるようになった。14年11月の
37.7を底にして、15年1月の39.1まで2カ月連続で改善している。ちょうど11月に10%への消費
税率引き上げが延期される見通しが強まったことがそのきっかけになったのだろう。
また、物価上昇率が縮小してきたことも、消費者マインドの改善につながったとみられる。夏場
から1月末にかけて、原油価格の低下によって、ガソリン価格などが低下してきた。特に、自動車
の利用頻度が多い地方の消費者にとって、その恩恵は大きいと考えられる。
さらに、冬季のボーナスが増えたことも、消費者マインド改善の一因だろう。それに加えて、15
年の賃金について、企業が賃上げに前向きな姿勢を見せていることも、消費者マインドの回復に
とって好材料といえるだろう。15年3月期には、多くの上場企業の経常利益が過去最高を記録す
るなど、今年のボーナス増への期待も大きいことも消費者マインドの改善に一役買っているよう
だ。
以上のように、消費者マインドが好転する材料が、昨年末から増えてきている。その時に重要
な役割を果たすのは、やはり消費者マインドの裏付けとなる賃金上昇だ。期待先行で上昇した
12年末から13年とは異なり、15年は、物価上昇率の幅が縮小していることから、賃金上昇を実
感できる可能性が高まっている。このように、裏付けを伴って消費者マインドの改善が続けば、
EYについて
EYは、アシュアランス、税務、トラ
ンザクションおよびアドバイザリー
などの分野における世界的なリー
ダーです。私たちの深い洞察と高
品質なサービスは、世界中の資本
市場や経済活動に信頼をもたらし
ます。私たちはさまざまなステーク
ホルダーの期待に応えるチームを
率いるリーダーを生み出していき
ます。そうすることで、構成員、クラ
イアント、そして地域社会のために、
より良い社会の構築に貢献します。
EYとは 、ア ーン スト・ アンド ・ ヤン
グ・グローバル・リミテッドのグロー
バル・ネットワークであり、単体、も
しくは複数のメンバーファームを指
し、各メンバーファームは法的に独
立した組織です。アーンスト・アン
ド・ヤング・グローバル・リミテッドは、
英国の保証有限責任会社であり、
顧客サービスは提供していません。
詳しくは、ey.com をご覧ください。
EY総合研究所株式会社について
EY総合研究所株式会社は、EYグ
ローバルネットワークを通じ、さま
ざまな業界で実務経験を積んだプ
ロフェッショナルが、多様な視点か
ら先進的なナレッジの発信と経済・
産業・ビジネス・パブリックに関する
調査及び提言をしています。常に
変化する社会・ビジネス環境に応
じ、時代の要請するテー マを取り
上げ、イノベーションを促す社会の
実現に貢献します。詳しくは、
eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
今後消費の回復も勢いづくと期待される。
図 過去2回の消費税率引き上げ前後での
消費者態度指数(一般世帯・季節調整値)の推移
47
1997年:5%への引き上げ時
2014年:8%への引き上げ時
消費税率
引き上げ
45
43
41
39
37
35
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
EY | Assurance | Tax |
Transactions | Advisory
1995/2012年
1996/2013年
1997/2014年
98/15
年
出典:内閣府『消費動向調査』よりEY総合研究所作成
© 2015
Ernst & Young Institute Co., Ltd.
All Rights Reserved.
本書は一般的な参考情報の提供のみを
目的に作成されており、会計、税務及び
その他の専門的なアドバイスを行うもの
ではありません。意見にわたる部分は個
人的見解です。EY総合研究所株式会社
及び他のEYメンバーファームは、皆様が
本書を利用したことにより被ったいかな
る損害についても、一切の責任を負いま
せん。具体的なアドバイスが必要な場合
は、個別に専門家にご相談ください。
EY Institute
02
シリーズ:個人消費の論点⑤
~回復の兆しが見えはじめた消費者マインド