シリーズ:原油安の影響⑧

EY Institute
26 February 2015
執筆者
シリーズ:原油安の影響⑧
~貿易赤字の縮小
貿易赤字拡大
原油価格が低下したことによって、貿易収支が改善に向かう可能性が高い。
2014年の貿易赤字額は▲12.8兆円であり、そのうち原油などを含む鉱物性燃料の収支の赤
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
字は▲26.2兆円だった(財務省『貿易統計』)。原油価格の低下によって、この赤字幅が縮小す
るので、全体の貿易収支も改善に向かうとみられる。その時の焦点の一つは、11年から続く貿
易赤字から脱却できるかどうかだろう。
鉱物性燃料の収支では大半を輸入が占めているため、鉱物性燃料の輸入に注目すると、輸入
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・
予測
► 産業関連分析
額は27.7兆円と前年から0.9%増えていたことがわかる。ただし、その増加の主因は、円安など
によって価格が上昇したことであり、輸入数量はむしろ減っていた。
現在の原油価格の低下が貿易に及ぼす影響を試算してみよう。前提条件として、15年1月末
の原油価格と為替レートが年末までつづくと想定する。その場合、円建てのWTI原油先物価格
は前年から▲43%下落する。過去の円建てWTI原油先物価格と、鉱物性燃料全体の価格指数
の関係を踏まえると、鉱物性燃料の価格指数は▲37%下落する計算になる。これは、09年に円
建てのWTI原油先物が同▲44%下落したときに、鉱物性燃料の価格指数が▲37%下落していた
のと、ほぼ同じ割合である。また、鉱物性燃料の輸入数量を据え置くと、鉱物性燃料の収支は約
10兆円改善することになる。これに14年の鉱物性燃料以外の収支を加えると、貿易収支全体
の赤字幅は▲2.6兆円となり、黒字への転換に近づく。また、鉱物性燃料以外の財の収支が、
14年の13兆円から16兆円の黒字へと増えれば、貿易収支全体でも黒字に転換する計算とな
る。
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貿易黒字への転換の可能性は
鉱物性燃料以外の財の黒字幅が16兆円というのは、12年とほぼ同水準である。14年の貿易
収支の内訳をみると、輸送用機械は13.9兆円の黒字であり、12年よりも1.2兆円黒字幅が増え
ていた。また、化学製品も0.5兆円増の1.0兆円と、黒字幅は倍増している。その一方で、電気機
器は1.1兆円の黒字となったものの、黒字幅は12年よりも▲1.8兆円減っている。また、12年に
比べて、14年には食料品や一般機械など多くの製品で、輸入額が増えている。もちろん、この
間、為替レートが対ドルで80円から105円へと20円以上も円安になった影響は大きいものの、
輸入財へのシフトが着実に進んでいる様子もみられる。
また、一部には国内回帰の動きがみられるものの、それは現在の為替水準において、国内で
生産した方が収益性がよいという、経営判断に基づくものが多いようだ。中国などの人件費増な
どの影響もあるものの、本格的な国内回帰という動きとは言い難い。海外現地でのサプライ
チェーンが拡大している上、これまでの先行投資もあるため、企業では地産地消の傾向が強まっ
ている。これを踏まえると、為替レートが円安に転じたからといって、単純に国内に生産を戻すと
も限らない。
見方を変えると、再び円高が進めば、国内生産を減らして海外生産を増やすということだ。ま
た、円安が進むと国内生産や輸出が増えるものの、それによって貿易赤字が縮小すれば、その
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分円高圧力が高まるという、揺り戻しの動きがあらわれる可能性もある。そのため、一方的に貿
易赤字が縮小して、黒字に転じるという姿は想定しにくい。
これらを踏まえると、原油価格の低下は日本の貿易赤字を減らすことが期待される。また、年
間を通じて貿易収支が黒字に転じるためには、原油価格の先行きとともに、輸出がどこまで回復
するかが注目点になると考えられる。
図 貿易収支の推移
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