青森県における心身障害児の高校入学・就学に関する実態

弘前大学教育学部紀要 第5
9
号 :7
5
-8
3(
1
9
88年 3月)
Bu
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.5
9:7
5
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9
8
8
)
青森県におけ る心身障害児の高校入学 ・就学に関す る実態
A St
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安
藤
治*
房
Fus
aj
iAndo
(
1
9
8
7
.1
2
.2
2 受理)
論
文
要
旨
本研究は青森県内の高校を対象に,障害生徒の入学,就学実態を明らかにす ることを 目的 とした。
5校52名の障害生徒が在籍していること, さらに入学 ・復学問題を経験した
調査の結果,県内の高校には2
高校 も含めれば,約 6割の高校が障害生徒の就学問題を経験していることが明らかになった。
また,入学者選抜試験において障害を配慮している学校は23
校,就学上障害を配慮している高校は1
8
校あ
0
校あ り, 8校について制限
った。一方,入学者選抜試験において障害についての制限を設けている高校が1
の内容を把握す ることができた。
Ⅰ.緒
言
現在,心身障害児 (以下,障害生徒 とす る)の後期中等教育は,主 として特殊教育諸学校高等部で保障 さ
れているが,学校教育法は,高等学校 (以下, 高校 とす る)に 「特殊学級を置 くことができる」(
第7
5条)
1
と規定しているように,高校での障害児教育を明確に位置付けている。現実には,高校に特殊学級が設置 さ
)
れていない ものの,多数の障害生徒が就学 していると思われ る。しかし,高校における 「障害生徒のための
2
)
施設 ・設備の準備は著し くお くれている」し,就学の実態はほ とん ど把握 されていない。本調査は,以上の
点を踏 まえて青森県における障害生徒の高校入学 ・就学実態を把握す ることを 目的 とした。
I
l.方 法
1.予備調査
(
1
)対
象
9
校。
青森県内公立 ・私立高校 (
分校,定時制を含む)8
(
2
) 手続 き
質問紙法。往復はがきに より,障害生徒の在籍状況,過去 5年間での障害生徒の入学 ・復学問題の発生状
況,入学試験における制限,の 3項 目について回答を求めた。
(
3
)期
間
1
9
8
6年 9月1
0日に発送 し, 9月3
0日に回収を終了した。
2.本調査
(
1
) 調査 内容 と対象
予備調査にて回答の得 られた青森県内の公 ・私立高校 (
分校,定時制を含む)8
1
校を対象に,それぞれ該
当す る (
予備調査の結果に もとづいて)調査用紙を送付 し,回答を求めた。具体的な調査 とその対象校数は
以下の通 りである。
<調査 A>障害生徒の在籍状況
*弘前大学教育学部 心身障害学科教室
De
pa
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la
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s
a
kiUni
v
e
r
s
i
t
y
76
安 藤 房 治
校 校 校 校
訪 49 15 8
<調査 B>過去 5年 間に発生 した入学,復学 問題
<調査 C>入学者選抜試験 に おけ る配慮事項
<調査 D>入学者選抜試験に おけ る制限
<調査 E>障害生徒 の入学 ,復学 につ いての今後 の方針
(
2
) 手続 き
上記調査用紙 をそれぞれ該当校に郵送 し,回答 を求めた。
(
3
)期
間
1
9
8
6
年1
0月1
5日に発送 し,11
月1
0日までに回収 を終了 した。
Ⅲ.結
果
1.予備調査
対象校8
9
校 中8
1
校か ら回答が得 られた (回収率9
1
.
0
%)
。障害生徒が在籍 してい るか ど うか の質問に 対 し
0
校
て 「い る」 と回答 した高校 は4
(
4
9
.
4
%)であ り,「いない」 と回答 した のは4
1
校 (
5
0
.
6
%)であ った。
,
過去 5年 間で障害生徒 の入学や復学 について問題にな った ことが あ るか ど うか の質問に対 し て 「ある」
5
校
と回答が あった のは2
(
3
0
.
9
%)で,「ない」 と回答があ ったのは5
6
校 (
6
9
.
1
%)であ った。
なお,現在障害生徒 の在籍がな く,かつ これ まで入学 ,復学 の問題が起 きた ことがない と回答 した のは3
2
校
(
3
9
.
5
%)であった。
入学者選抜に おいて心身 の障害に よる制限を設けて 「い る」 と回
表 1 本調査 の回収状況
答 した高校が 1
5校 (18
.
5
%)で,「いない」 と回答 した高校が6
6
校
(
8
1
.
5
%)であ った。
2.本調査
回
収
調査 名
本調査 の回収状況 は表
1に示 した よ うに, <調査 A>6
3
.
4%,
<調査 B>5
2
.
0
%, <調査 C>7
3
.
5
%, <調査 D>6
6
.
7
%, <調
5
.
3
%であ った。
査 E>7
1
) 調査 A
在籍 してい る障害生徒につ いて2
5校か ら5
2
名のデ ータが得 られ
表 2 障害生徒 の学科別在籍数
聴
覚
男 l女
視
覚
男 l女
(単位 :人)
計
男 l女
0
1
0
1
1
∫
0
1
0
∫
0
J
0
∫
1
1
0
L
0
男 l女
71 2
5
000
11
1
000
0
1
1
00
家
政 1 0 t 2(
1
)
1 0I 1
(
I
)
1 0101 0∫ 0 1 0 1 0
商
業 1 0 i o】 0 I 0 A
醍
負
農
業
建
築 lo
01 0! 01 1 J 0
情報処理 1 0
計
5
2
77
青森 県における心身障害児の高校入学 ・就学 に関す る実態
た。その結果は表 2の通 りである。
障害の内訳を見 ると,肢体不 自由,聴覚障害生徒の在籍が多 く,病 ・虚弱,視覚障害生徒がそれに続いて
いる。言語,情緒障害はわずかであ り,精神薄弱はまった くなか った。
本調査では,個 々の生徒の障害の内容や程度の記述を得た ことに よ り,障害の状況 も把握す ることができ
1名の内, 3名は上肢 または指に障害があるものの,筆記や手作業が少 々遅い程度であった。
た。肢体不 自由2
0名,その内義足,松葉杖を使用 している者がいずれ も 2名で,車椅子を使用してい
下肢に障害のある者が1
る者はいなか った。四肢に障害のある老2名,脊柱湾 曲症 2名,半身の障害のある老 4名 (うち 1名は休学
中)であった。出身校種別に見 る (
表 3) と,養護学校中学部か らの入学者 6名中 5名は,下肢に障害を有
す る者 であった。
表 3 障害生徒の出身校種別在籍数
肢
体
l 聴
覚
言 語
(
単位 :人)
l 情
計
緒
0
1
2
表 2,表 3注) ( )内の数字は,重複障害者数で内数。重複障害の場合,それぞれの障害で数えられて
る。 とえば,表 3の 「中学
いるので,重複障害生徒数を減 じた数が合計の数値 となっている。た
校特殊学級」出身生徒 2名の うち, 1名は聴覚 と言語の重複障害生徒であることを示してい
8名の内,補聴器を使用して もほ とんど聞こえず,言語障害 も併せ持ち,意思の疎通が困難
聴覚障害生徒1
な程度の難聴生徒は特殊学級出身の 1名だけであった。ほ とん どの者は,補聴器の使用に よ り日常会話に支
障のない軽度お よび中等度難聴生徒であった。 また,知能の遅れを伴 っている者はな く,かえって学業成績
8名中1
5名は中学校普通学級か らの入学者 であった。
の優れた老 さえあった。 また,1
視覚障害を有す る生徒 6名中 3名は,片限のみの失明または低視力であ り,他眼に異常がな く日常生活を
支障な く営んでいる。 2名は重度弱視で,授業等 では弱視 レンズを使用 しているが, 日常生活ではあま り支
障はない。 6名共普通学級出身であった。
0名は通常学級か ら入学 した者 と養護学校か ら入学 した老 とが半 々であった。現在,治療
病弱 ・虚弱生徒1
血友病, レック
のため休学中の 2名 (ネフローゼ症候群,神経性多発性 円形脱毛症)を除いては,後遺症 (
リング- ウゼソ病)のため運動制限があ り体育等を見学す る他は,特に 日常生活に支障をきたしていない。
言語障害を持つ者については,聴覚障害の部分で述べた 1名の他,軽い手の障害を重複している者が 1名だ
けであった。調査用紙に特記事項がない ことか ら, 日常生活には大 きな支障がない もの と思われ る。
最後に,情緒障害生徒 1名の事例では,高校入学後交通事故のため脳を損傷し,著 し く集中力を欠 くよ う
になったが,教師の配慮に よ り大 きな支障な く学校生活を送 ることができていた。
2
) 調査 B
過去 5年間,障害生徒の入学について起 きた問題は,現在在学 している障害生徒が入学 した際の問題を除
いて, 7校か ら 8例の報告があった (
表 4)
。復学については, 2校か ら 2例の報告があった (
表 5)
。
入学の際問題 となった事例は,難聴 2名 (内 1名は片眼球欠損を重複),肢体不 自由 3名 (内車椅子 使 用
者,松葉杖使用者が各 1名),病 ・虚弱 4名 (内ぜん息 3名,水頭症 1名)であった。以上の 9名の中 で 入
学が許可 されなか った者は,水頭症 (虚弱)の男子 1名のみであった。 この例 は,体育を見学にし,学校生
活 も教育上の配慮があれば十分可能であるとの判断で受験は許可 されたが,結果的には学力が及ばず不合格
となった。 また,入学 はした もののぜん息の 3名は,いずれ も病状悪化のため,入学後 1年以内に退学また
は養護学校へ転校 した。
7
8
安
藤
房 治
表 4 過去 5年間の入学者数 (
在籍者を除 く)
計
ミ
ニ
-聖等
聴
商
業
J0 i
病 ・虚
F肢
則
学
科性
体
肢
男 l女
1 1 2 1 0 r 3
l
※
体
1
通
覚
女
普
表 5 過去 5年間の復学
老数(
在籍者を除 く)
業
商
1 1 1 0
計
6 1 2
1 l
r 1 l 2 1 1 ∫ 3 I 0
、
2
計
※視覚障害を重複
表 6 入学試験 での障害-の配慮
回
7
答
;
3
教室 ・座席の配慮
困難な科 目免除
教師がその場 で配慮
音量 ・話し方
教科書拡大
クラスで協力
1
3(
3
6.
1
)
ィ . され て いない
(
されていない
)内は%
答
表 9 障害生徒用施設 ・設備
N(
校)
.
3
2(
8
8.
9
)
見学 レポ- ト・審判
座席位置
特別 カ リキ ュラム
4
4(
l
l.1
)
(複 数 選択
)
3
2 6
1 1
1 2 1
択)
内容(
複数選
可 能 な範 囲だ け
教師がその場で配慮
ィ.されていない
118(50.0)
( )内は%
表 8 履習困難科 目での配慮
回
1
8(
5
0.
0)
75 3 2 1 1
内容 (複数選択)
設定
口頭 説明
教室 ・座席 の配 慮
特製 机の使用
洋式 便所設 置
拡大 鏡使用
容
7. されている
6
242111
室
N(
校)
2 (3.9)
. され て い る
別
表 7 授業 での障害への配慮
内 ; 身障着用 トイレ
てす り
容
童
ス ロープ,段差解消
ィ.ない
1
4(
l
l
.
1
)
( )内は%
2
3
2(
8
8
.
9
)
計
3
6(
1
0
0
.
0
)
( )内は%
在学中に事故等 で障害を負った場合の復学問題についてであ るが, 3名中 2名は,下肢障害のため松葉杖
を使用しなが らも復学が認められ,無事卒業 している。
3
) 調査 C
この調査は,過去 5年間に障害生徒 の入学を認めている高校を対象に,入学や就学にあた っての配慮等の
実態を調べた ものである。結果は,表 6- 9に示 している。
入学者選抜試験においての配慮は,2
3
校 (
6
3
.
9%)でなされている。配慮の内容は,別室の設定 (
1
2校)
青森県における心身障害児の高校入学 ・就学に関する実態
7
9
が最 も多 く, 口頭で試験問題を説 明した り (4校),座席 の位置を配慮をしている (2校)高 校 があった。
また,特製机,洋式便所 の設置,拡大鏡の使用な ど設備 ・備品面 での配慮 もされている高校 もあった。
3
校 (
3
6
.
1
%)あったが,その理 由は 「今 までその必要がなか った」 ことが
特に配慮をしていない高校が1
あげ られている。
次に,授業 での配慮についてであるが,配慮 している高校,していない高校が共に1
8校 であ った。配慮は,
教室を一階にす る,座席 を前にす るとい う内容が最 も多か った。弱視者のための拡大教科書 を作成 している
高校 もあ った。その他 の例 では,難聴生徒のために,教師が生徒の方を向いてゆ っ くり大 きな声で話すな ど
の教師の配慮や, クラス全体 で協力して移動 の介助をす る例があった。特に,配慮 していない高校は,前問
と同様理 由はその必要がない とい うことであった。
体育や音楽,美術等 の受講 困難な科 目におけ る障害生徒-の配慮についての回答 では,配慮 している高校
は,3
2
校 (
8
8.
9%)あ った。配慮の内容 は,可能な範 囲だけや らせた り,実技を免除 して見学 レポー トや審
半胴こ代 えた りす る例が多か った。 また,教師がその場 で配慮 しなが ら指導 している高校 も多か った。
特別な施設 ・設備の有無については,お よそ 9割の高校 では施設 ・設 備は全 く無か った。 4校に有 ったの
は,身障着用 トイレ (4校),ス ロープの設置 または段差の解消 (1校),手す り (2校)であった。
障害児に対す る健常児の態度についての回答 では,およそ半数の高校 では,障害生徒だか らといって特別
視せず,健常生徒 と変わ らない態度 で接 しているよ うであった (
表1
0
)
。 さらに1
0
校 (
2
7
.
8%) では特 に 好
表1
1 健常生徒-の影響
表1
0 障害生徒に対す る健常生徒 の態度
回
答
I
N(
校)
9
20
0
0
カ.拒否的
0
辛.その他
2
無回答
4
3
6 (
1
00
.
0
)
計
)
オ.非協力的
相手を思いや る心
弱者- のいたわ り
努力 しよ うとす る心
択
-.無関心
ア.あ ると思われ る
選
ク.健常生徒 と変わ らない
(2
.
8
)
(
2
5
.
0
)
(
5
5
.
6
)
( 0)
( 0)
( 0)
(5.
5)
(
l
l
.
1
)
答
容
その他
ィ.あるとは思われない
無
回
答
計
5(
1
3
.
9
)
3
6(
1
0
0.
0
)
答 の中には,「障害児個 々の性格に よ り,周囲の態度
1
5(
41
.
7)
」
数
の内容
選 択)
5 5 4 2 6
複
(
「
ア
自信が出た
努力していた
明る くな った
意欲的になった
その他
も異な る」であるとか,「個人に よって異 な り一概に
は言えない」 とい うもの もあった。
健常生徒が障害生徒 と共に学ぶ事か ら何 らかの影響
を受けているか ど うかについて回答 を求めた結果 は表
1
1で示 した。影響を受けていると 「思われな い」(
4
7
.
2
%)が 「思われ る」(
3
8.
9%)を上回 っていた。「思わ
1
6(
4
4.
4)
ィ.見 られない
回
P 1
7(
4
7
.
2
)
拒否的 といった態度 はない。 しか し, 「その他」の回
ア.見 られた
無
I 1
4(
3
8.
9
)
意的 または協力的に接 している。無関心,非協力的,
答
回
N(
校)
( )内は%
( )内は%
表1
2 障害生徒 の変容
声
8 2 24
1
ィ.特に協力的
回
(
複数
ア.特に好意的
%
答
【
5(
1
3
.
9
)
れ る」 と答 えた1
4
校 の中では 「相手の立場を考え よう
とす る思いや りの心が育 って きている」 とい う答 えが
多か った。続いて 「協力す ること ・努力す ることの大
切 さを感 じて きている」 ことがあげ られている。 「障
( )内は%
害者問題や福祉問題-の関心が高 まった」 とい う回答
8
0
安
藤
房
治
表1
3 入学者選抜におけ る制限
障
害
の 程
度
等
色盲 (色弱は可)
視
制限を設 けている学科
( )内は学科数
建築(
2
)
,機械(
1
)
,電気(
1
)
,農業(
1
)
, 畜産(
1
)
, 酪農(
1
)
,
園芸(
1
)
,生活(
2
)
,漁業(
1
)
,機 関(
1
)
,無線通信(
1
)
,
水産製造(
1
)
両眼 とも各 々,矯正視力 0.
3未満
l機械(
1
)
,電気(
1
)
,建築(
1
)
両眼 とも各 々,矯正視力 0.
4未満
l建築(
1
)
日常生活に支障がある
l生活(
1
)
,酪農(
1
)
聴
力
学 習 ・実習に支障があ る
1
)
,無線通信(
1
)
水産製造(
が困難
日常会
話に支障がある
学習 ・
実習に支障がある
戸漁業(
1
)
,機関(
1
)
,建築(
1
)
,酪農(
1
)
,生活(
1
)
,普通(
1
)
強健 でない
戸漁業(
1
)
,機関(
1
)
日常会話
農業(
1
)
,畜産(
1
)
,園芸(
1
)
,生活(
1
)
請
水産製造(
1
)
,無線通信(
1
)
全教員に よる協議
肢
指ま
たは中指)喪失。 ;機械 ,電気 ,建築(1)
ある
漁
,機
,水産製
(作業 ・実習 ・実験 ・
体育等を含む) 酪農
1,電気(,建築
利 き手の指 (人差 し
実習 ・体育等に支障が
r学習
学習 (
体育 ・実習を含む)が 困
難
(
1
)
(
1
)
業(
1
)
()
関(
1
)
1
)
造(
1
)
, 無線通信(
1
)
,生活(
1
)
,
(
1
)
l農業(
1
)
,畜産(
1
)
,園芸(
1
)
,生活(
1
)
青森県における心身障害児の高校入学 ・就学に関する実態
8
1
もあ ったが,一方 では 「
一 部に排斥的行動をす る生徒が 出て来た」 とい う回答 もあ った。 「思われない」高
校 か らは 「健常 児 と何 ら変わ らないため,特に障害 児か ら受けた影響 とい うものはない」 とい う意見 もあっ
た。
前 問 とは逆 の,障害生徒が高校 T・
学 ぶ中で何 らかの変容があ ったか ど うかにつ いての回答 で は,変 容 が
41
.
7
%) と 「見 られない」 とす る高校 (
4
44%)がほぼ同数 であ った (表 1
2
)
0
「見 られた」 とす る高校 (
「見 られた」 とす る中では,「自信を持つ よ うにな った」や 「明る くな った」「何事 に も努 力 し よ うとした」
な どの回答が見 られた。全般 的に,人間開 床が広が り, 明るさや強 さが増す等 の変容が見 られてい る。 しか
し,養護学校中学部か ら入学 して きた病 弱児 2名 (
共 にぜ ん息)は,通学 の困難や集 団生活- の不適応等か
ら病状が悪化 し,再 び養護学校-転校せ ざるを得なか った例 もあ る。
特 に変容が 「見 られなか った」高校 の中には 「小,中か ら普通学級に所属 してい るため特 に高校に入 って
か らの変容 はない」や 「本人 も周 りも障害 児 として意識 してお らず,特 に変容 はない」 との回答があ った。
4
) 調査 D
これは,入学者選抜において心身の障害に関す る制限を設 けてい るかを調べた ものであ る。1
0
校か ら回答
があ ったが, 2校 は制限の内容が 明確 でなか ったため, 8校 1
7
学科につ いての結果 を示す (
表1
3
)
0
制限を設 けてい る学科 のほ とん どは職業科 であ った。
4学科 は,すべ て色弱は認め るが色盲 は認めない と
障害別に見 ると,色覚異常について制限を設 けてい る1
い う規準を設 けている。視覚障害,聴覚障害,言語障害,病 ・虚弱,肢体不 自由につ いての制限 で は,「
学
習 ・実習に支 障があ る老」は認 めない とい う規準が共通 して設 け られ ていた。他 の例 をあげれば,機械科や
電気科や建築科等においては,「著 し く視力が低 い老」,漁業科 と機 関科に おいては聴覚障害,病 ・虚弱につ
いての制限があ った。精神薄弱につ いては 4学科 (同一校)で 「学 力が入学規準に満たな い老」 とあった。
中∼重度 は入学 を認 めない学科が 4学 科あ った。
5) 調査 E
これ は,高校側 の障害生徒 の受け入れに関す る今後の方針につ いて回答 を求めた ものであ る。結果 は表 1
4
に示 した。
今後障害児が入学 を希望 して きた場合,「
学 力が達 していて も,障害 の状態に よって検討す る」高校 が 5
8
校 (
9
5
.
2%)であ った。「どの よ うな障害があ って も,学 力が達 していれば入学 を許可す る」 と回答 し た 高
校 は 1校 であ った。 しか し,「
学 力は ど うであれ,障害 のある ものは認 めない」 とい う,障害を理 由に 門 前
払 いをす る高校 はなか った。
衰1
4 入学者 ・復学老- の今後の対応
回
答
IN(校)
次 に,在学 中に事故や病気等のために障害を負 った
場合の対応につ いての回答 では,「障害 の状態 に よっ
4校 (
8
8.
6
%) と最 も多 く,「ど
て検討す る」高校が 5
の よ うな障害があ って も復学 を認 め る」 とい う高校が
ィ.障害 の状態 で検討
ウ.不許可
-.そ の他
i5
8(
9
5.
2)
0( 0)
1(1
.
6)
無 回答
5校 であ り,入学者 の選抜 の場合 よ りも受け入れ姿勢
を示す高校が多か った。 この間に対 して も,「
復学 は
認めない」 と答 えた高校 はなか った。
最後に,障害 児が特殊教育諸学校以外 で教育を受け
計
l
61 (
1
0
0
.
0)
5に示 した。
ることにつ いての意 見を求 めた。結果は表 1
「とて も良い ことだ 」 8校 (
1
3
.
1
%)
,「良い ことだ」
言.
・ 霊書 。状態 で検討
ゥ.不許可
ェ.そ の他
t5
…(
'
8
…:
2'
,
1
9校 (
31
.
1
%) と,肯定的な回答 をした高 校 は 2
7校
jo( o)
(
4
4.
2%) と半数近か った。理 由には 「教 育の機会均
j 1(1
.
6)
等が保障 されているのだか ら当然 であ る」,「障害 児は
将来健常者社会 の中で生 きて行かねばな らないのであ
計
†
61
(
1
0
0.0 )
るか ら,学 校生活 の うちか ら慣れねばな らない」,「健
常者に とって障害者へ の理解 が深 め られ る」な どの意
8
2
安 藤 房 治
兄が あ った。 さ らに積極的 な意 見 としては 「障害者 のた め の設
備 ・施設 を備 えた高校 も設 置 され るべ きであ る」 とい うもの も
あ った 。
5 障害生徒が特殊教育諸学校 以
表1
外 で教育 を受 け る ことにつ いて
回
答
しか し,障害 児の就学 を 「良 し」 としなが らも,施設 ・設 備
の不備か ら 「障害 児に過重 負担 を強 いな い か」「安全性 の保 障
が で きるか」 といった危 ぐも出 されていた。 また, 「本人に と
っては良い と思われ るが,設 備 ・施設 の整備 のた め の費 用や,
教 師 にかか る負担 を考 え る と問題 が あ るのでは」 とい う意見 も
あ った。
】
i N(
校)
ィ. 良 い ことだ
8(
1
3
.
1
)
1
9(
31
.
1)
ウ. どち ら ともいえない
2
8(
4
5
.
9
)
-. あ ま り望 まし くな い
2(3
.
3
)
0( 0)
7. とて も良い ことだ
オ.望 まし くない
無 回答
2
8
校 :4
5
.
9
%) 高校
最 も多か った 「ど うらと もいえない」 (
4(6.
6)
( ) 内は%
の理 由 として,意義 は認 めなが ら も,「施設 ・設 備 の不 備 か ら
本人に とって過重 負担 とな った り,危 険が あ る」 とい うことや , 「授業や特 別活動に おいて健常 児 と同様 に
で きな い ことが,障害 児に とって精神的苦痛 にな らな いか」 とい う理 由が上 げ られ ていた。特 に職 業科 の高
校 では 「教育課程上実習や作業等 が多 く,途 中で挫折 した り,就職が難 し くはな いか」 とい った不安 を出 し
て きて い る。 また,「障害 の状態 や 性 格等個 々の場合に よって異 な り,一概 に は言 えない」点 も理 由の一 つ
であ った。 さ らに 「障害児教 育 も充実 され て きてお り,専 門的立場か らの判断が妥 当 ではな いか」 とす る意
見 もあ った。
「あ ま り望 まし くな い」 とす る 2校 につ いて も, その理 由は 「施設 ・設 備 の不備,指導 で きる教師が いな
いため,安全 で適切 な教 育 を保 障 で きない」 ことであ った。
Ⅰ
Ⅴ.考 察
1.障害生徒 の在籍状 況
0校 に5
2名の障害生徒が在籍 してい る ことが 明 らかにな った。 この数値
調査 の結果 ,現在青森 県 内の高校 4
は,筆者 の調査前 の予想 を上 回 る ものであ った。
青森県 国民教育研究所 は, 県 内の盲 ・聾 ・養護学校 中学部 お よび中学 校特殊学級卒業生 の進路調査 を行 い,
3
)
高校- の進学 者数 を調査 した。 同調査 に よれば ,1
9
8
4年 3月現在 で, その数 は養護学校 中学部か らの進学者
3名,中学校特殊学級か らの者 が 4名 であ った。合わせ て進学 者 は1
7名 であ り,仮 に同数程度 の進学 者が
が1
4名 とな る。 この数 は,本調査 の在 籍生徒数 にほぼ匹適す る。 しか し,中学
毎年あ った とすれば ,3年 間 で5
校特殊学級卒業生 (精神薄弱) で私立高校 に進学 した生徒が ,1
9
8
3年 3月 で 8名 ,1
9
8
4年 3月 で 4名い るに
もかかわ らず,本調査 では精神薄弱生徒 の在籍 はゼ ロであ った。 また, 県 内の盲,聾学校 か ら高校へ の進学
9
8
4年 3月に限 ってみればゼ ロであ るに もかかわ らず ,本調査 では高校に は聴覚,視覚障害生徒が在 籍
者 は1
してい る ことがわか った。 した が って, 国民教 育研究所 に よる高 校進学 者調査 の数 と本調査 での高校在 籍生
徒数 とは同一 とは言 えな い。
在 籍 してい る障害生徒数 を学科別に見 ると,普通科が 8割 を 占め圧倒的に多 い。 これ は,高校に設 置 され
てい る学科 では普通科が最 も多 いので当然 な結果 で もあ ろ うが,調査 Dで も分か る よ うに,普通科に比べ て
職業科 の方が入学 者選抜 に制限を設 けてい る高校が多 く,障害生徒 の入学 ,就学が 困難 であ るた め ではな い
か と考 え られ る。
次 に,在 籍 してい る障害生 徒 の障害 の種 祭 と程 度につ いて検討 してみ る。
県 内の高校に は,聴覚 障害,視覚障害,病 弱 ・虚弱,言語 障害,情緒 障害 の障害 を持つ生徒が在 籍 して い
た。身体 障害生徒がほ とん どであ り,精神薄 弱の生徒 は在 籍 していなか った。高校 の入学者選抜 は主 として
学 力を規準に して行われ るので当然 の結果 であ るとも言 え よ う。 しか し,先 の青森 県 国民教 育研究所 の調 査
は,少数 であ るが精神 薄 弱特殊学級 の卒業生 が進学 して い る ことを 明 らかに してい る。 また,調査 Dで もわ
か る よ うに,精 神薄 弱生徒 の入学 ,就学 は全面的 に認 め られ ていないわ け ではな く,受 け入れ方針 を とって
い る高校 もあ った ことに注 目した い。
青森県における心身障害児の高校入学 ・就学に関する実牒
8
3
在籍生徒の 8割が,中学校卒業者であ り,障害の程度は,中学校での学習が可能な,障害の軽い生徒が多
いことが伺える。た とえば,最 も在籍数の多い肢体不 自由生徒の場合でも,松葉杖使用者 2名,義足装着者
1名で,車椅子使用者は無かったO回答を見 る限 り,ほとん どが身体の一部だけの障害で,体育を見学す る
以外は,それほど学校生活に支障をきたしてはいない。 また,聴覚,視覚,言語,情緒の障害生徒 も, 日常
会話に困難がない程度に コ ミュニケーシ ョンが成立している生徒が大半であった。
障害の軽度の生徒が多いことは,調査 Cか らも考えられ る。つま り,入学者選抜試験や授業において障害
生徒-の配慮をしていない高校が少な くな く,その理 由も 「必要がない」 とされていることか ら,重度の生
徒は受け入れ られてはいないと考えられ る。
2.障害生徒の受け入れ体制について
2
3
校)が配慮してお り,ま
まず,入学者選抜における配慮については,回答のあった高校の内 6割以上 (
1
8校)が何 らかの施設 ・設備面での配慮をしてお り,障害生徒の受け入れについ
た,授業について も半数 (
ては前向きの姿勢が とられていることが うかがえる。 しかし,高校全体 (
8
9
校)か らみればその比率は高 く
はない。
今後の障害生徒の受け入れの方針については,調査 Eの結果に見 られ るように,障害があるか らとい う理
由だけで入学 を拒否す るとい うことはな く,障害の状態等個 々の場合に よって検討す るとの方針をとってい
る高校がほ とんどであった。在学生が障害を負った場合の復学に対す る方針 も同様 であるが, どんな障害を
負って も復学を認めるとい う回答が若干増加した.健常生徒 と共に学ぶ ことが可能であると判断され る場合
は受け入れ るし,それは両者に とって有意義であるとは認めなが らも,障害生徒が特殊教育諸学校で教育を
受けることが良いか どうかについて 「どちらともいえない」が半数近 くを占めていた。「どちらともい え な
い」理 由の一つ として,施設 ・設備の不備があげられてお り, また調査 Cの結果か らも分かるように,障害
生徒のための特別な施設 ・設備はほとんどの高校で配慮 されていないことが,「どち らともいえない」 の 回
答が多 くを占めた理 由ではないか と考えられ る。
(
追記) 本調査の実施に当た りご協力いただきました県内の高校関係者に深 く感謝申し上げます。 また,
資料整理にあた っては熊谷ちはるさん (昭和6
1
年度養護学校教員養成課程卒業)の助力があったの
で,記 して感謝申し上げます。
(
注)
1
)た とえば,昭和5
9
年度で,盲 ・聾 ・養護学校高等部 と高校 との間の転出入は,全国で 2
,
5
0
3名余にのぼ
っている (
文部省初中局特殊教育課 :特殊教育資料,昭和60年度)0
2)近津経史 :高等学校に学ぶ障害児,障害児教育実践体系 ・6,p.
2
5
2
,1
9
8
4
0
3)青森県国民教育研究所障害児教育研究委員会 :すべての障害者に豊かな生活 と労働の保障を-障害児学
級 ・学校の進路実態 と私たちの要求- ,1
9
8
5
。