Page 1 Page 2 京都大学医療技術短期大学部紀要別冊 健康人間学 第

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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在宅療養高齢者の生活の場の特性
谷垣, 靜子; 松田, さおり; 上野, 加寿子
京都大学医療技術短期大学部紀要. 別冊, 健康人間学
(1999), 11: 29-34
1999
http://hdl.handle.net/2433/49568
Right
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Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
京都大学医療技術 短期 大学 部紀要別冊
健康 人間学 第 1
1
号 1
9
9
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在宅療養高齢者の生活の場 の特性
谷垣
静子,松 田 さお り*,上野加寿子 **
*京都 大学医学部付 属病 院
**前京都 大学医療技術短期大学部
A Study on Living SituationsorElderly Outpatients
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は
じ
め
そ こで,本研 究 で は,在宅療養 の高齢 者 の心
に
理状 態 と,店 室 における特性 を調査 ・分析 し,
寝 た き りの高齢 者 に と って,居 室 は生活 の場
在宅療 養高齢 者 の居室環境 を考 え る うえで の基
であ る。 寝 床 を中心 と した高齢療養者 が生 活 の
礎 資料 を得 る こ とを目的 と した。
場 を どように捉 えて い るか を知 る こ とは, その
1.方
人 ら しい生活 を大切 に した看護 を実践 す る うえ
で 重 要 で あ る。 そ の 人 ら しさ を重 視 す る こ と
法
0名,平均 年齢
対 象 :65歳以上 の在宅療 養者 1
83.
8歳 (
7
2-90歳)
は, そ の 人 の 生 活 の 質 を高 め る とい わ れ て い
日常生 活 自立 度 :ラ ンク C 2- 1名,他 は ラ
る。 しか し,在宅療 養高 齢者 が どの ように生 活
ンク A∼B,全 員意識の混濁 はな し
環境 を認知 してい るか を明 らか に した研究 は少
な い。
調査期 間 :平 成 8年 6月 4 日∼ 7月29日
生活範囲が 限 られ たな かで,快 適 な療養生活
調査 内容 ・方法 :①属性 ,② 部屋 の照 度,③
を過 ごす には,物 理 的環 境 側面 と心 理 的環境 側
部屋 の大 きさ等 ,④心理 テ ス ト (
筆者 らは,金
面 が あ る と考 える。 どち らの側 面 も相亙 に関連
井 ら に よ りそ の 有 用 性 が 示 唆 され て い る 1
)
してお り,様 々な環境要 因が あ る と思 われ る。
STAIを使 用 した),(
9室 内雰 囲 気 評価 法 と し
特 に,在宅療 養高齢 者が 居 室環境 を評価 す る場
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以 下 SD 法
合 の特徴 に,療養者個 々 人 の個 別的 な 「
生 活体
と略す) を使 用 した。1
2評価 項 目を用 いて ,7
験 」 に基づ くこ とが あげ られ る。
段 階評価 と した。 同時 に, ラ ダー リング法 に よ
京都 入学医療技術 短期 人学 部
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1月30日受付
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寝 た き り判 完
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年
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齢
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住 宅 周 囲 山 を切 り開 い 公 団, マ ン 坂 の 多
い,住 簡 素 8
な
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窓
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居 住 年 月
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宅地
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づ いて い る
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きれ い に片づ
雑ブ
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が 見 えーるス こぢん
道 と家
妻と
40
二人
八畳
雑然
公園
裏 の家
食
る器 や洗 濯物 が あ
は け られ て い る
80 人
妻 と二
50
妻と
二人
40
6人家族
60 人
娘 と二
四畳 半
八畳
八畳
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娘 夫 婦50
の 3人
50 人
娘 と二
0 人
次 男3
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妹 と二 人
居室 の大 き さ
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家 族 構 成
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表 2 状 態 不安 と各項 目 との 関係
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る聞 き取 りを実 施 した。
相関係数
居 心 地 の よ い -ノ
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,
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心 地 の悪 い
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安 ら ぎの あ る
-0.
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楽
し
る
静
か
な - う
る
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家族 構 成 は ひ と りを除 き, ふ た りあ る い は独
-0.
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居で あ る。
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1
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2.状 態 不 安 (
sTAH と項 目 の 関 係 (
表 2参
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-0.
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照)
-0.
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状 態 不 安 と 「落 ち着 きの あ る」 (
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),
くつ ろ げ な い
い 一 暗
果
1.対 象者 の属 性 (
表 1参 照 )
-0.
1
71
い - つ ま ら な い
く つ ろ げ る
明
安 ら ぎの な い
2.結
落 ち着 きの あ る - 落 ち着 きの ない
広 々 と し た - 狭 く る し い
-(
)
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安 ら ぎの あ る」(
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(
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5), 「くつ ろ げ る」(
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す っ き り した
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静か な」 (
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05)の項 目 との相 関 が
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認 め られ た。
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(
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3. 項 目 と居 住 年 数 の関係
束 縛 さ れ た
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に ぎ や か な
開
放
白
的
山
ごち ゃ ご ち ゃ した
寂
な - 閉
な
し
鎖
的
屠住年数 と 「
居 心 地 が よい 」 「
安 ら ぎの あ る」
の項 目 (
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)
.
05) との相 関 関係 が認 め られ た。
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表 3 居 室 の評価 構 造
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入
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りが
出 外的環
境
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居 心 地 の 良 い
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安 ら ぎの あ る
7
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々 と し た
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楽
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くす る
持
明
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か
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明
静
音
7
7
6
7
7
健康 人間学
4.居室 の評価構造 (
表 3参照)
ラダー リングにお いて表現 されたすべ ての評
価項 目の内容 を分析 し,評価項 目間の因果 関係
を示すマ トリ ックス を作成 した。
3.考
察
1.項 目別得点 と状 態不安
状態不安 の得点 と有意 な関連
の関係
の認 め
落 ち着 きの あ る」 で あ った。不
目は, 「
られた項
ルが低 い高齢者 の ラ ダー リングで は,
安 レベ
活 してい る環境 に対 して,「
安 らぎの 自分が生
つ ろげ る」 「
届 心 地 の よい」 と
あ る」 「く
てお り, その理 由 と して は, 自い う感情 を抱 い
間であ るため 自分 の思い通 りに分 固有 の生活空
うのが 中心 であ った。 また,今 で
回 きるため とい
者の多 くは,硯在 の住宅 に長年住 調査 した高齢
うこ ともあ り,住 み慣 れた環境 に んでいる とい
って
これ らの感情 を抱 くことにつ なが あ
った こ とも
レベ ルが高
え一方,不安
られ る。
いる と考
活 してい る環境 に対 して い高齢者 は, 自分が生
つ ろげな い 」 「
,「
安 らぎの な い 」 「く
いてお り, その理
落 ち着 け ない」 とい う感情 を抱
ちになれ
さい, ゆ っ くりした気持
由 と して
は,隣の部屋 が うる
しい とい った理 由が 中心 であ った。
ない,
こ やか ま
して考 え られ るこ とは,隣の部屋 の
の要 因 と
が良好で な く,家族 関係 に対 す る思 者 との関係
ような感情 を抱 く結 果 を招 いたので いが, この
い うこ とで あ る (
図 1参 照)。不安 はないか と
い高齢者 の中に,車 の音が うる さい レベ ルが低
い とい った騒音 に対 し,不満 を述べ ・やか ま し
が,その こ とが店室環境 の評価 に大 る人 もいた
い高齢
てはいなか った。 また,不安 レベ ルの高
き く影響
し
第 11
号
1
999
谷垣静子,他 :療養生活の場の特性
隣 り合わせ に住 んでいる。
評価得点が高いことがわか った。在宅療養高齢
A さん と E さんを比較す ると,一 日をベ ット
者 の居室の評価 は物理的な側面や視環境 だけを
上で過 ご してい る点で は同 じであ るが,「
落ち
考 えるのではな く,そ こに住 む家族や友人,あ
着 きのある」 とい う点で は相違がある。 その大
るいは他人 との交流や人間関係が影響 している
きな要因は,家族が介護 をどう受 け入れている
ことが示唆 された。
か という点である。 また,家族人数 (
介護の協
今回の調査では,属室評価 を物理的 ・視覚的
力体制) に も差 が あ る。独 りで抱 え込 んで い
な角度 か ら分析 を試みたが,評価の根底 には人
る A さんの妹 と,役 割 分担 を決めて介護 にあ
間関係があ り,その上 に物理的 ・視覚的な点が
たっている Eさんの家族 とでは,心理的に も身
影響 していることがわか った。 また,高齢者の
体的にも負担 とい う点で差がある。A さんの場
場合,長い年月を経て順応 し,住み慣 れた環境
合,姉妹関係が以前か ら悪か った とい うもので
をつ くり出 していることが わか った。
はない。病状 の悪化 と妹 さんの持病が重なって
北 川は3)病 や障害 を持 とうが,他者 か らの援
こ じれていったのである。徐 々に身体機能が低
助 を必要 としょうが,高齢者 は, 自分の生 きて
下 してい く中で は,介護 力の強弱がその後の家
きた時代や社会文化の中で培 って きた価値や知
族関係の善 し悪 して決定 しかねない。 この よう
忠, ネ ッ トワークを駆使 して,以前 と変わ らな
なことか ら,介護力のアセスメン トは重要であ
い自分 自身であ り続けようとしているのである
る 島内2)は在宅ケアにあた り家族の 日常 的な
と述べている。 暮 らし続 けて きた場所で在宅療
生活力量や問題対処力 を具体的にとらえること
養 を願 う高齢者の多 くは,そこで生活 し続 ける
。
は必須条件であると述べ ている 介護力が低 い
ことで, 自分 らしさを主張 しようとしているの
と思われるところには,早期か ら社会資源 を導
ではないだろ うか。 自分 らしさの主張 こそ,坐
入す ることも考 えるべ きである。 また,家族関
きている証なのか も知れない。
。
係 を過去 に帰 り修復す る ことは国難であ り,立
在宅療養の環境 をよ り良い ものにす るには,
ち入るべ きことで もない 。 しか し,要介護者の
家族 ・近隣者 との人間関係 を円滑かつ良好に保
日常生活の基本的ニー ドを満たす ことで,心穏
持す ることが人事である。在宅の居室 は,長年
やか とな り,介護者 に対 して も素匿になれるこ
にわたってその人が生活 して きた場であ り,そ
ともある。 要介護者の 「あ りが とう」の一言が
の人が生活 しやすいように:
「夫 されている。 看
介護者の心 を穏やかにす るのである。
護者 はそのことをよく認識 した うえで,療義者
2.評価項 目と居住年数 との相関関係
とともに生活環境改善の方策 を検討す る必要が
屠心地
項 目別得点 と居住年数 の関係で は, 「
あると考 える。 また,人の出入 りは,看護者 も
が よい」 「
安 らぎがあ る」 に相関関係が認め ら
その
れた。住み慣 れた場所 は居心地が よく,安心 し
れることな く,社会交流 を含めた対応が望 まし
て暮 らせ る場所であるといえる。高齢者が よ く
い。
一
員であることを認識 し,処置だけに追わ
言 う 「この まま, ず っ とこの家 に住 み続 けた
5.結
い」 という希望 をかなえ ることは,その人を最
後 まで豊かな気分で暮 らせ る生活空間を保障す
論
1)状態不安の得点 と 「
落 ち着 きのある」の
ることになるのではないか と考 える。
P<0.
001
)相関関係があ っ
項 目の関に有意 な (
3. 屠室の評価構造
た。
全対象者 自身の言葉で表現 されたすべての項
2)居住 年数 と 「
展心地が よい 」 「
安 らぎが
目内容 を分析 し,因果関係 をマ トリックスに し
あ る」 の項 目に相関関係 (
P<0.
05)が認 め ら
た (
表 3)。 この結果か ら, 「自分の思 うとお り
れた。
にで きる」 「
住 み慣 れて い る」 といった内容 で
3)居室の好的印象の理由の多 くは 「
住み慣
3
3
健康 人間学
第 11
号
れている」 「自分の思 う通 り出来 る」 「
人の 出入
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999
会雑 誌 , 1
995‥1
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3),3卜37
りがある」であ った。
2) 島 内 節 =在 宅 ケ ア と家 族 の 支 援 ・ 保 健 の科
989:31(
8),5
03507
学, 1
引用 ・参考文献
3) 北 川公子 :生 き方 の質 を保 証す る高齢者 看 護 ・
ナ - シ ン グデ ー タ, 1
997.
・1
8(
8), 1
620
I
) 金井利 子他 :心 理 テ ス トの高齢者用簡 易化 に開
4) 秋 山哲 男 :高齢 者 の住 まい と交通 .東京 :日本
す る検討
S「
1
1
AIを中心 に
評 論社 , 1
993
. 口本看 護研 究 学
34 -