マイクロ波メスの肝手術への応用 - 日本消化器外科学会

日消外会議 16(12)12074∼
2080,1983年
マ イク ロ波 メスの肝手術 へ の応用
千葉大学第 2外 科
竜 崇 正
山本 宏
山本 義 一
佐藤
渡 辺 義 二
長 島 通
稚 井 貞仁
尾 崎 正彦
有 我 隆 光
小 高 通 夫
博
CLINICAL EXPERIENCD OF MICROWAVE TISSUE
COAGULATOR FOR HEPATIC SURGERY
Munemasa RYU,Yosh、
i WATANABE,Masahiko OZAKI,Hiroshi YAMAMOTO
Toru NAGASIIMA,Takamitsu ARIGA,Yoshよ
azu YAMAMOTO,
Sadahito USUI,Michio ODAKA and Hiroshi SATO
The Second Dept.of Surgery,Chiba Univ.School of Medicine
マ イク ロ波 メス とは マ イク ロ波組織凝 固装置 の一 般名であ り,最近登場 した新 しい手術機 器 で あ る。
マ イク ロ波 メスの肝組織 に対す る組 織学的変化,お よび肝手術 に対す る有用性 につ いて検 討 した,マ
イク ロ波 メス80W60秒 で肝 は径 1.5cmの 範 囲で凝 固 され る。そ の組織所見 は針状電極刺 入部位 は炭 化
す るがその範 囲 は狭 く,全 体的 に肝小葉構造 お よび sinusoidの消失,肝 細胞境 界 が不 明瞭 とな り互 い
に密着 した細 胞集 団 とな ってい る。そ して 中 の直径3111trn程
度 までの血管 は壁 の構造 もよ く保 たれ 内腔
に血 栓形成 をみ とめ る。 マ イ ク ロ波 メスを用 い11例に肝切除 を施行 し,最 少 の 出血 で安全 に肝切 除 が
施行で き非常 に有用 で あ った.ま た切 除不能肝痛 3例 に対 して凝 回療法 を施行 したが,切 除不能例 に
対す る新 しい治療法 とな る と思われた 。
索引用語 !マ イク F波 ,肝 痛,肝 切除
[よじめ に
マ イク ロ波 メス とは マ イク P波 組織凝 固装置 の一 般
名 で あ り,マ イ ク ロ波 の生 体組織 へ の集束照射 に よっ
て発生す る熱 エ ネル ギ ー と減 菌性 を局所的 に高度 に利
用 した組織凝 固装置 で あ る。和 歌 山医大消化器外科 の
回伏 らに よ り開発 された新 しい手術機器 で あ り,脆 く
て含有血液量 の多 い実質臓器 の手術 に有用 で あ るこ と
)。われわれ も1982年3月 よ り肝
が報告 されてい る1ン
手
術 に積極的 に マ イク ロ波 メスを使用 してい るので,わ
れわれの使用経 験 につ いて報告す る。
I.マ イク ロ波 メスの概 容
マ イク ロ波組織凝 固装置 (マイ ク ロ波 メス)は ,マ
イク ロ波 が組織 内 に照射 され る と組 織 自身 が発熱 し凝
固 され る内部 誘電加熱 を利用 した手術機器 で あ る。 モ
ノポ ー ラ型針状電極 を生体組 織 に刺 入す る と,組 織 が
凝 固 され るが マ イ ク ロ波 の特性 か ら熱 エ ネル ギ ーの及
ぶ範 囲 が限局約 で あ り,刺 入部位 か ら離れた部位 では
変化 が及 ばないので安全性 に もす ぐれ てい る.
装置 は本体 と手術用 ハ ン ドピー スにわ かれて い る。
本体 には マ イク P波 出力 を調節す るダイヤル と,照 射
時間 を調節す るタイマ ーがつ いてぃて,両 者 を 自由に
コン トロール で きる よ うにな ってい る。 ハ ン ドピー ス
の先端 に モ ノポ ー ラ型針状電極 が接続 され, この針状
電極 を直接組 織 に刺 入 して マ イク ロ波 を照射 して使用
す る。針状電極 は15mm,30mm,50mnの
3種 類 の長
さがあ り, 目的 に応 じて使 いわ け る こ とがで きる。
この装置 は マ イ ク ロ波 メス と一 般的 に呼称 されて い
るが,凝 固装置 で あ り,切 る能力 は無 いので,凝 固 し
た後 は ペ アンや, メ ス な どで 改 めて切離す る必要 が あ
る。
H.マ イク ロ波 メス による肝 の組織学的変化
モ ノポ ー ラ型針状電極 を肝 に刺 入す る と,50W30秒
1983年12月
31(2075)
図 1 1 . 5 c m の モ ノポ ー ラ型 電極 を刺 入す る と, 8 0
W 6 0 秒 で直径1 . 5 c m 深 さ1 . 5 c l n の
範 囲 が凝 固 され,
8 0 W 3 0 秒では直径l c m の 範囲 が凝固 され る。
図 2 マ イク ロ波 メスに よる犬肝 の組織学的変化.凝
固 された部位 は以下 の 3層 に大別 され る。針状電極
に接 した最 も内側 は,肝 組織 が完全 に炭化 している
が,そ の範囲 は非常 に狭 い (a),そ の外側 の層 では
組織 は炭化 しないが肝小葉構造 は完全 に失 なわれ,
肝細胞 の凝固壊死 と凝固 された肝組織 と肝組織の間
の空間形成 が著明 で ある (b).凝 固部位 の大部分を
しめ る外 側 の 層 で はや は り肝 小 葉 構 造 の 消 失,
sinusoidの
消失,肝 細胞 は互 いに癒合す るよ うに密
着 して境界 が不 明瞭 となってい る。 しか し核 は よく
保たれてい る (c)。また肝組織間 の間隙 が著明であ
る。
では刺 入部位 を中心 に直径 lcmの 範 囲 が凝 固 され,80
W30秒 では1.2cm,80W60秒
では1.5cmの 範 囲 が凝 固
され る(図 1)。 針状電極 の先端 よ り深 くは凝 固 され な
いため凝 回 の深 さは針状電極 の長 さを変 える こ とに よ
リコン トロール で きる。
凝 固肝組織 の組織学 的変化 につ いて,雑 種成犬 の肝
に対 して80W60秒 で凝 固 した例 で検 討す る。凝 固 され
図 3 肝 細胞 の凝固壊死をみ とめ るが,そ の中 にあ る
血 管 は壁 の構造 は よ く保たれてお り,内 腔 に血栓形
成をみ とめ る.
た肝組織 は針状電極刺 入部位 よ り外側 に向 って三 層 の
組織学的変化 がみ られ る。針状電極 が刺 入 された最 も
内側 では,肝 組織 は肝細胞, グ リソン鞘 も含 め 完全 に
炭化 してい るがその範 囲 は非常 に狭 い (図 2a),そ
外側 は2∼3mmの
の
層 で,肝 小葉構造 は全 く消失 し,肝
細胞 は完全 に凝 固壊死 とな ってお り,凝 国組織 の間 の
間際 が著 明 とな ってい る (図 2b)。 しか しその 中 に散
在す る小血管 は,壁 の構造 もよ く保 たれてお り破綻 せ
ず 内腔 に血 栓形成 を認 め るのみであ る(図 3)。 その外
側 は凝 固 された肝組織 の大部 分を しめ る層 で あ り,肝
小葉構造 は失 なわれ,sinusoidも 消失 し,肝 細胞 は互
いに癒合 してその境界 が不 明瞭 とな ってい る。 しか し
III.マ イク ロ波 メス による肝手術 の手技
核 は よ く保 たれてい る。凝固 された肝細胞集 団 の間 に
1.肝 切除術
空洞様 の間隙 が認 め られ る (図 2c).非
術中超音波検査 (術中 US)で 切除範 囲を決定 し,そ
凝田部位 との
境界 は 明瞭 であ る。
れ に沿 って針状電極 を刺 入 してい く.通 常80W60秒 で
上 の大 い血 管 に針状電極 を刺 入 した 所 見 で
1,5cmご とに針状電極 を刺入 し,切 除予定線 を完全 に
は,血 管壁 が破綻 し,出 血 が著 朔 で ,内 腔 の血 栓形 成
凝 固 してお く.門 脈 主区域枝や主肝静脈枝 に刺 入 しな
は軽度 で,完 全 に内腔 を凝 固閉鎖 で きな い所 見で あ っ
い よ う術 中 USで 十分確認す る必要 が あ る。
3mm以
た。
切除予定線 に沿 って完全 に凝 固 した ら,ペ ア ンの先
を用 いて肝実質 を こす るよ うに して離 断 をすす め る。
32(2076)
マイク ロ波 メスの肝手術 へ の応用
血 管 は破 壊 され ず に露 出 され るのでlmm程 度 の 細 い
ものは切離 し,2∼ 3mmの やや太 い ものは結繁 して切
離す る。血 管 内腔 は血 栓 が充満 してお りその まま切離
日消外会誌 16巻
12号
図 5 凝 固療法術中エコー像.凝 固前 の低 エコーの癌
腫が高エコーに変化するので凝固範囲を USで 確認
することがで きる。
して も出血 しないが,後 出血 を完全 に予防す る とい う
ため には結熱 してか ら切離 した 方 が無難 で あ る。深部
では凝 回 が不 十分 とな りやす いので,肝 離 断 をすすめ
てい く中で,再 び凝 国 が不十 分 な部位 へ 針状電極 を刺
入 して凝 固す る,
門脈 区域枝や主肝静脈近辺 の操作 には十分 な注意 が
必要 で あ る。太 い血 管 を盲 目的 に穿刺 す る こ とに よ り
血管 が破壊 されて思わぬ大 出血 を来 した り,逆 に温存
す べ き血 管 を凝 固閉鎖 して しま う可能性 が あ るか らで
あ る。われわれは この近辺 の操作 では マ イ ク ロ波 メス
は用 いず,manualで 門脈 区域枝 や ,肝 静脈 を露 出 し
て,切 除予定領域 へ の血 管 のみをていね いに結繁切離
す るよ うに してい る。
最少 の 出血 で肝切 除をす る コ ツは,忍 耐強 く,切 除
予定線 に沿 って完全 に凝 固 してか ら肝離 断をすす め る
こ とで あ る。 もし出血 させ てか らマ イ ク ロ波 メスを用
いて も,マ イ ク ロ波 の エ ネル ギ ーが血 液 に 吸収 されて
癌全体 を凝 固す るのは容 易 だ が,多 発例 では術 中 US
を十 分 に利用 して,深 部 の も含 め す べ ての癌腫 を くま
な く凝 回す る必要 が あ る.癌 腫 が凝 固 されたか ど うか
の判定 には術 中 USが 有用 で あ り,低 エ コー域 の癌 腫
しまい十 分 な止血 効果 が得 られ な いか らであ る。
が 高 エ コーに変化 す るのでその確認 は容易で あ る (図
肝部 分切除 で あれ ば,肝 切離 のみ に関 しては マ イク
ロ波 メスを用 い る ことに よ り,出 血 させず に施 行す る
5)。
こ とがで きる.
の治療成績 向上 が期待 で きる。
2.肝 腫瘍 に対す る凝 固療法
肝機能上 の制約や,癌 腫 の進展範 囲 に よ り切 除不能
と判 断 された場合 は,マ イク ロ波 メス に よ り癌腫 を凝
固す る ことがで き る。術 中 USで 癌腫 の部位 を確認 し,
癌腫 を穿刺 して くまな く凝 固す る。単発性 の癌腫 では
また 持続動注療法 と併用す る こ ともで き, よ リー 層
癌 の破裂 に よる腹腔 内出血 に対 して もマ イク ロ波 メ
スで凝 固す る ことに よ り止血 で きる。こ の際 は まず肝
十 二 指腸靭帯 を テ ー ピング して肝 へ の血 流 を遮 断 して
おいて,出 血 部位 を巾広 く凝回す る こ とに よ り完全 に
止血す る ことがで きる。
IV.マ イク ロ波 メスの臨床応 用
図 4 凝 固部位 の大部分をしめる組織像であ り,肝 小
業構造および sinusoidの
消失 がみ られ,肝細胞 は癒
合 して,そ の境界が不 明瞭 となっているが核は比較
的 よく保たれている。
1.肝 切除 (表 1)
マ イク ロ波
1982年3月 か ら1983年 1月 まで に11211に
メスを用 いて肝切 除 を施行 した 。疾患別 には肝細胞癌
7例 ,転 移性肝癌 4例 で あ る。術式 は部 分切除 8例 (肝
表 1 マ イク ロ波 メスに よる肝切除術式
19823∼19831 千 大三外
疾
術
式
肝細胞癌
部
分 切 除
左外側区域切除
2 区 域 切 除
計
患
例 致
転移性肝癌
2・
1 ・
1
7
4
・原発巣同時切除
1983年
12月
33(2077)
細胞癌 6例 ,転 移性 2f/1),左外側区域切除 1例 (転移
性), 2区 域切除 2例 (肝細胞癌,転 移性,各 1例 )で
表 2 凝 回療法施行例
千大 三外
ある。全例安全 に切除 で き,術 後 出血 な どの合併症 は
認 めていない。 .
症例 1.55歳 ,女 性,肝 細胞癌
ICG R15,52.7%, ICG Rmax O.21, ヘ
症 例
疾
式
思
S状 緒陽酒
1
肝転移 ("3)
パ プラスチ
ンテス ト38%,Total bilirubin 2mg/dlと
c ritical con‐
2
ditionにあ る肝細胞 癌症例 であ る。 血 管造影 で後 下 区
腫瘍 をみ とめ,X線
域 に直径 3cmの hyper vascularな
CTで も後下 区域 に径3cmの low density areaを
認め
る。 当院第 1内 科 で血 管造影 の際 に肝動脈 よ りMMC
マ イ ク ロ カ プセ ル20mgを one shot動 注 した。one
shot動 注後 40日 目に マ イ ク ロ波 メス を用 い 肝 部 分 切
除 を施行 した。右関胸経横 隔膜的 アプ ローチに よ り肝
72 ♀
肝 転 移 (H2)
(直陽覆術後)
胃
3
ゾ 饗・
パ
瓶
肝臓宿破 裂
凝 固病 法
に
止血採国
湧
夏)●
て多
正)
み還
序) ・
(多 ラ
て多
た。 出血 のほ とん どは開胸,横 隔膜切 開 に伴 な うもの
で あ り,肝 離 断 に関 してはほぼ無血 的 に施行で きた。
に達 し,術中 USで 癌腫 の位置 を同定 し,マ イ ク ロ波 メ
スを用 いて核 出に近 い形 で肝部 分切除 を施行 した (図
術後経過 は 良好 で, 6カ 月を経過 した現在 ,再 発 の徴
候 な く健在で あ る。 マ イク ロ波 メスを用 いたため に肝
の遊離操作 もせ ず,経 胸的 アプ ロー チに よ り直線的 に
6).手 術 時間 2時 間40分で,,出血量 は計230mlで あ っ
肝 へ 達 して,最小 の手術侵襲 で切除 で きた症例 で あ る.
図 6 マ イク ロ波 メスによる肝部分切除術.術 中 エ
コーで癌腫を見出 し,切 除範囲を決定 し,マ イクロ
波 メスで凝固 した後肝切除を施行 した。出血量230
ml手 術時間 2時 間40分であった。
61.マ イクr波 メスで凝固中
62.切 除後断端
2.凝 固療法 (表 2)
3例 に凝 固療法 を施行 した 。症例 1は S状 結腸癌 お
よびその肝転移 (H3)で あ り, S状 結腸切除 と肝左外
側 区域切 除を施行 し,残 存す る肝転移巣 を マ イク ロ渡
メスで凝 固 し,合 せ て持続 動注療法 を施行 した。6カ
月を経 た 現在健在 で あ る。症例 2は 72歳女性 で直腸癌
術後肝再発例 で あ る.癌 腫 が肝両葉 に及 がため,術 中
USで 癌腫 の位置,数 を確認 して,確 認 で きる全 ての癌
腫 を マ イ ク ロ波 メス で 凝 固 して 手 術 を終 了 した (図
7).凝 国 した範 囲 が広 か った に もかかわ らず,術 後経
過 良好 で あ り3カ 月現在健在 で あ る。 この よ うな凝 固
療法 だ けで な く肝癌破裂 の腹腔 内 出血 に対 して も有用
で あ った 。症例 3は 胃癌 と肝細胞癌 の 同時性重複痛 で
あ り,肝 細胞癌 のの破裂 に よ り腹腔 内出血 を来 してい
た 。し か しマ イク ロ波 メスを用 い る こ とに よ り,破 裂
部位 を広 く凝 固 し止血す るこ とがで きた。
V . 考
察
現在肝手術 においては従来 よ り広 く用 い られて いた
電 気 メス に加 え,超 音 波 外 科 用 吸 引 装 置 (CavitrOn
つ, レ ーザ ー
Ultrasonic Surgical Aspirator CUSA)。
メスDいな どの新 しい手術 機器 が使用 されてい るが,こ
こに さ らに マ イク ロ波 メスが登場 したわ けで あ る。こ
れ らの新 しい手術機器 を用 い ることに よ り,肝 切 除 が
安全,確 実 な手術 として確立 で きれ ば,非 常 に有意義
で あ る と考 える。し か しこのため には これ らの手術機
器 の長所,短 所 を知 り,十 分 に使 い こなす必要 が あ る。
現在最 も一 般的 に広 く使用 されて い るのは電気 メスで
マ イク ロ波 メスの肝手術 へ の応用
34(2078)
日消外会誌 16巻
12号
図 7 肝 癌凝固療法 (H2・
直腸癌術後肝再発).術 中エコーで痛腫を見出 し,ユ コT下
に確認できる全ての癌腫を凝固した。GBi胆 襲
あ る。電気 メス は0.3∼10MHzの 周波数 を用 い,出 力
200∼500Wで ,ハ イポ ー ラ型手術電極 で使用 されてい
る。電気 メスは取扱 い も容易であ り,肝 被膜 の切開や,
す ぐれて い るが止血 力 には問題 が あ る ことを報告 して
い る。丸 山的は さらに Nd一 YACレ ーザ ース カル ペ ル
1∼2mm程
す ぐれ てお り,肝 切除 に も有用 で あ る と述 べ てい る。
わ れわ れ は Nd‐YAGレ ーザ ー ス カル ペ ル の使 用経 験
度 の血 管 も凝 固閉鎖 で き,切 開力 と凝 固力
の両者 にす ぐれた手術機器 で あ る。しか し2mm以
上の
の有用性 につ いて強調 し,切 開速度 は遅 いが止血力 に
血 管 には止血 効果 が な くな り,ま た組織 の炭化 を来す
た め 術後脱 落 して後 出血 を きた す危 険性 もあ る。。 ま
は無 い。
た 対極板 が必要 で 時 として熱傷 の発生 も認め られ,電
肝組織 とともに凝 固閉鎖 して止血 す るの とは全 く異 な
波障害 に よ り他 の手術機器 に影響 を与 えるな どの欠 点
り,肝 実質 を吸収 除去 し,血 管や胆管 な どを損傷 せ ず
に露 出す る こ とので きる手術機器 で あ る。CUSAは 肝
もみ とめ られて い る。
レーザ ー メ ス は,炭 酸 ガ ス レーザ ー と Nd‐YAG
ー
レ ザ ー ス カル ペ ル を用 い る場合 が あ る。 Kaplanゆは
炭 酸 ガス レーザ ー メスの長所 につ いて,1)非 接触性 の
外科 手 術 がで きる。2)無 血 手術 がで きる。3)殺 菌作
CUSAは
レーザ ー メスや電 気 メス の よ うに血 管 を
静脈 や 区域 門脈枝 な どの主要脈管 を安全 に露 出す る こ
とが で き肝切 除 に きわ めて有用 で あ る。.ま た 肝 門部
で操 作す る ことに よ り胆管 3次 分枝 まで露 出す ること
も可能 で あ り,肝 門部胆管癌 の胆管切 除 に も有用 で あ
用 が あ る。4)顕 微鏡 手術 へ応用 して正確 な操作 がで き
る。 しか し肝硬変例 では肝実質 ともにに血 管 も吸引損
る。5)創 傷 の治癒 がはや く,術 後 の腫脹 や赦痕 が少 な
い。 6)術 後 の疼痛 が 少 な い。 7)ほ かのモ ニ タ ー装置
よ りか え って出血 が増 し,
傷 されて しまい,CUSAに
肝硬変 の肝切除 には全 く無効 で あ るめ.
へ の電気的干渉 が無 い。 な どの利点 をあげてい る。 し
しか しこの よ うな肝硬変例 の肝切除 に も,マ イク ロ
メス
を用 いれば,最 少 の 出血 で肝切 除 がで き, きわ
波
か しわれわれの経験 では肝切除 において止血 力 は電気
メスに もお と り,lmm程
度 の血 管 も全 く閉鎖 で きなか
た 。 また い った ん 出血 す る と血 液 に エ ネル ギ ーが 吸収
めて有用 で あ る。
マ イ ク ロ波 メス80W60秒 で は直 径 1.5cmの 範 囲 が
されか えって大 出血 とな る こと も考 え られ ,肝 切除 に
は 有 用 とい え な い と考 え る。丸 山のも炭 酸 ガ ス レー
凝 固 され るがその組織学的変化 は三つ の層 に大別 され
ザ ー メスは体表 の手術 に有用だ が,そ して切 開力 には
胞 もグ リツン鞠 も全 て炭化す るがその範 囲 は非常 に狭
る。針状電極 が刺 入 された部位 に接 した肝組織 は肝細
1983年12月
35(2079)
く,そ の外側 の2∼3mmの 層 は肝小葉構造 の消失,肝
潤 は なか った ことよ り,根 治切 除 とな る可能性 が強 い
細胞,グ リツン輸 も凝 固壊死 とな ってい る。さ らにそ
と考 える。
の外側 の凝 固 された組 織 の大部 分 を しめ る層で は小葉
さらに肝切除 におけ る利点 は,不 必要 に肝 を遊離す
構造 の消失,sinusoidの消失,肝 細胞 の境界 が不 明瞭
る必要 がないため,遊 離操作 に伴 な う出血 が な くな り
とな り互 いに密着 した 集 団 とな ってい る。し か しこれ
結果的 に最少 の 出血量 で肝切 除 が可能 とな った こ とで
らの変化 に もかかわ らず3mm程 度 まで の血 管 壁 の構
あ る。 さ らに術 中 manipulationによる癌 細 胞 の術 中
散布 の危険性 も少 な くな り, よ リー 層 の根治性 の 向上
造 は破綻 せ ず に保 たれ ,内 腔 に血 栓形 成 をみ とめ る.
す なわ ち マ イ ク ロ波 メ ス の す ぐれ た 止 血 力 は,1)
sinusoidの消失 お よび肝細胞 が密着 した 集団 とな るた
めに実質 か らの出血 が無 くな る。2)3mm程
度 までの
血 管 は 内腔 に血 栓 が形成 され るために閉鎖 され る。 の
が期待 で きる.
切除不能例 に対す る凝 固療法 が,は た して有効 な治
療法 として定着 し うるか は今後 の 問題 で あ る。し か し
切除不能肝癌 に対 して副作用無 く,直 接凝 国 で きる こ
2点 に よるもので あ る と思われ る。
とは非 常 な利点 であ り,化 学療法 との併用 に よ り治療
症例呈示 した ご と く硬 変合併肝癌 の critical condi・ 成績 の 向上 につ とめた い。凝 固療法 を施行す るに も,
tionにあ る例 で も230mlと 非常 に少 な い 出血 で安全 に
術 中 USを 十 分 に利 用 して 凝 固す べ き癌 腫 の 見 出 し
肝切除 が施行で きた。し か も この 出血 も開胸 ,横 隔膜
や,十 分凝 固 で きた か な どの判 断を して, く まな く癌
腫 を凝 固す るよ うにす べ きで あ る。
切開 に伴 な うもので,肝 離断時 にはほ とん ど出血 が な
く,マ イク ロ波 メス に よ り最少 の 出血 で肝切 除 が可能
で あ った .こ の よ うに マ イク ロ波 メスは止血 力 が非常
にす ぐれてい るが,肝 癌破裂 に対す る止血 に も有用 で
V I . 結 論
マ
肝手術 におけ る イ ク ロ波 メスの有用性 につ いて報
告 した。 そ の利 点 を ま とめ る と
あ る。 田伏 つも肝癌破 裂 に よる腹腔 内大量 出血 に対 す
るマ イク ロ波 メス に よる止血成 功例 を報告 してい る。
るため,最 少 の 出血 で肝切除 がで きる.
マ イク ロ波 メスの肝手術 にお け る有用性 の 1つ は後
出血 の危 険性 が 少 な い点 で あ る。 田伏 'は この 点 に 関
が凝 固 され る。 とくに硬 変合併肝癌 の部分切 除 におい
して組織 の炭化変性 が少 な いため術後脱落 の危険 が無
い こ とをあげてお り,わ れわれ も同意見 で あ る。 また
定 され る。
肝切除 に際 しては針状電極刺 入部位 を結 ぶ線 で切除す
るので,残 在肝 断端 には7∼8mmの
巾 で凝 固 された 肝
組織 が残存す る こ とにな る。 この点 も後 出血 の危険 が
少 ない大 きな理 由にな る と思われ る。 さ らにわれわれ
は,露 出 された血管 の大 めの ものは結繁 してか ら切離
1)止 血力 にす ぐれ3mm程 度 の血 管 も凝 固閉鎖 で き
2)針 状電極 の刺 入部位 を中心 に直径 1.5cmの 範 囲
て癌遺残 の危 険性 に有効 に対処す る こ とがで きる と推
3)止 血 力 が す ぐれ てい るので無用 の肝遊 離 が 避 け
られ,癌 細胞 の術 中散布 の危 険性 が減少 し根治性 の 向
上 が期待 され る。
4)切 除不能例 に対 して凝 固療法 が施行で きる,な ど
で あ る。
わ れ わ れ は硬 変 の 合 併 して い な い肝 切 除 に は
してお り, これ らの血管 は血 栓 のため に閉鎖 されて い
るが, この よ うにすれ ばなお一 層後 出血 の危 険 はな く
C U S A , 電 気 メスを, 硬変例 には マ イ ク ロ波 メス と電気
な るもの と考 えてい る。
メスを併用 してい る。こ れ らの新 しい手術機器 を用 い
また残 存肝 に7∼8mmの 凝 固 された組 織 が残存 す る
こ とは,surgical margin近
辺 に癌遺残 の恐れ が あ って
る ことに よ り, 安 全性 と根治性 の 向上 が期待 され, 非
常 に意義 あ るもの と考 える。こ のため には各機器 の特
も,す で に凝 固 され てい る可能性 が 強 く根治性 の 向上
が期待 され る。われわれ の経験 した5cm以 下 の肝細胞
癌 27例の うち 7例 ,26%に 被膜外 へ の浸潤 がみ とめ ら
長 を知 り, 目的 に応 じて適宜使 いわ け る必要 が あ る こ
とを強調 した い。
れてお りsurgical marginを
十分 とる ことの必要 性 を
しめ して い るり。 しか し肝硬変 の高度 な例 で は切 除範
1)Tabuse K: A new operative procedure of
hepatic surgery using a Hlicrowave tissue
coagulator.Arch Jpn Chir 48 1 169-172, 1979
2)田 伏克惇,勝 見正治 :マイクロ波組織凝固法 によ
る陣部分切除術一陣妻腫 に対す る臨床応用―.日
外宝 50:113-117,1981
3)竜 崇 正,渡辺義二,佐藤 博 :超音波外科用吸引
囲 に限界 が あ り,核 出 に近 い切除 しかで きな い例 も多
い。 しか しマ イク ロ波 メスを用 いれ ば核 出に近 い切除
を して も残存肝 に7∼8mmの 凝 固 された肝組織 が あ る
ので,そ してわれわれ の経験 で はlcm以 上 の被膜外浸
文
献
36(2080)
装置 一CUSAシ
マ イク ロ波 メスの肝手術 へ の応用
ステム.肝 ・胆道手術 へ の応用.
総合臨 31:2375-2379,1982
4)磯 野可一 ,佐藤裕俊,小 池良夫 ほか :胸 部食 道癌 の
切除郭清術式 (CUSAを 用 いての リンパ節郭清),
弓二a, 35: 1219--1227, 1981
5)Kaplan I: The sharplan carbon diOxide laser
in clinical surgery: 7 year's expe五ence. frhe
biochemical laser: Technology and clinical
application,Goldman,L,Springer Verlag,New
Yrok 1981,89-97
6)丸 山難 二 ,岩 崎 甫 ,笹 子三 津留 ほか :一 般 ・
消化
日消外会議 16巻 12号
器 外 科領 域 に お け る レーザ ー メ ス. 手 術
1415--1422, 1982
36:
7)Tabuse K, Katsurni M: Application of a
microwave
tissue
coagulator to
hepatic
surgery.‐The heFnOStatic erects on spontane‐
ousr urpture of hepatoma and tulnor necrosis‐.
Arch Jpn Chir 50:571-579, 1981
8)竜 崇 正,渡 辺義二 ,尾 崎正彦 ほか :手 術 の要点 と
新 工夫 一肝癌 ―.肝 癌 に対す る行 中 エ コー ガイ ド
肝部分切除術.日 臨外医会議 44:469-472,1983