PDF 1196704 bytes - 日本消化器外科学会

日消外会誌 13(1):35∼
44,1980年
摘出胆嚢 における化生 の臨床病理学的検討
― 特 に胆裏癌組織発生 の背景 と して一
! 古 賀道弘教授)
久留米大学第 2 外 千
1(i任
平
井
貞
朗
CLINICOPATHOLOCICAL STUDY ON WIETAPLASIA
IN RESECTED GALLBLADDER
一 AS A BACKGROUND OF HISTOGENESIS OF GALLBADDER CANCER―
Sadaaki HIRAI
Thc 2nd DcPartmCnt of Surgery,Kurume Univcrsity School of Mcdicine
(PrOf htliChihiro Koga)
有石胆褒炎103例,無 石正常胆嚢 10例,胆 嚢癖20例についての 化生 とその癌化について 臨床病理学的校
索を行 った。その結果有石例はテ ープ緑変例 (庶糖分解酵素 の発見)13例 (12.6%),偽幽「
1腺55例 (53.4
%),杯 細胞33例 (32.0%),EC細 胞12例 (11.7%), PanCth細胞 3例 (2,9%)の 出現を見, 無石例は
偽幽門腺,杯 細胞 が各 1例 (10.0%)で あった 。分化型胆嚢癌 16例中腫瘍内に12例 (75.0%)の 杯細胞が
み られ,さ らに腸型吸収上皮 の存在す るものが あった 。化生 と分化型癌 は諸検査 に共通性が あ り,正 常胆
襲粘膜→慢性l巳
嚢炎 (含結石)→ 腸上皮化生→分化型胆襲癌 (腸型癌)を 生 じうる可能性が考察 で きた 。
索引用語 :腸 上皮化生 ,熊 糖分解酵素,腸 型吸収上皮,分 化型胆裏癌 (腸型癌 )
I)は じめに
胆襲 は解削学的 に痛 が進行 しやすい構造を してお り,
治癒可能な時期 に症状がな く一旦症状 が出た ときは進行
は久留米大学第二外科 に
いて検討を行 った。なお胆裏)お
おいて摘 出 し諸検査 ができた20例について検討 した.
III)検査方法
例 であることが多い。早期診断 には血清や尿な どに よる
摘 出胆嚢 はただちに肝床部面 にて頚部 から底部へ の切
特異的な検査法 の発見が理想的 であるが,そ の方法がな
い現在 において著者は摘出胆嚢 において肉眼的,生 化学
的,組 織学的,電 顕学的に検索 し,胃 においては一般的
開を加え電顕用切片を採取 した後生理的食塩水に よる充
1)らの
方法 に したがいテステープ
分な洗浄を施行 し田中
な所兄である腸上皮化生の考え方を胆裏 に導 入 し,庶 糖
分解酵素を発見 した ,ま た,そ れ ら化生粘膜 と胆嚢府の
撮影後 10%ホ ルマ リンに 固定 し数 日後 10∼30枚 の 胆裏
関連性について も検討 し興味あ る結果を得 たので,こ れ
が早期胆褒痛診断法 の糸 口になれば幸 いである。
II)検 査材料
に よる腸上皮化生 の生化学的検索を行 った。そ して写真
短軸 に平行な 階段切片を 作製 し鏡検 した 。 染色はまず
Hematoxylin―
Eottn染 色を 行 い 必要 に 応 じて pehOdiC
acid―
SchifF(PAS染 色), Alcian‐
bluc(AB染 色), PAS‐
1977年11月よ り1978年8月 までに久留米大学第二外科
A B 竜 染色, M a s s O n ―
F o n t a n a , C r i m e l i u等
s法
の染色 も行
り
。
の
の
った なお摘 出胆豪 粘膜 変化を今永 , に 準 じ肉眼
及び関連病院 において有石胆裏炎 の診断 の もとに摘出 さ
的 に正常 よ り高度胆嚢炎までその病変 の度合で I ∼Ⅳ度
れた胆襲103例 (男性43例,女 性60例,平 均年齢51.0歳)
に分類 し諸検査を施行 した。
I V ) 検 査成績
対照 として 他疾息 で 合併切除 された 無石正常胆嚢 10例
(男性 7例 , 女 性 3例 , 平 均年齢59.0歳)計 113例につ
A ) 肉 眼的分類 ( 表 1 )
36(36)
表1 摘
肉眼分類 1
摘 出胆嚢 におけ る化生 の 臨床病理 学的検討
出胆 裏粘膜 の 肉眼的分類 103例
平均年齢
(歳)
3
( 2 , 9 )
テス テ ー プ
緑色 変 化
13(12.6)
3:10
58.9
炎症軽度型
軽 い炎症性変 化
56
(54.4)
偽幽P5隈
55(53.4)
2: 3
55。0
炎症高度 型
強い炎症性変化
粘膜軽度脱 落
27
( 拓. 2 )
杯 細 胞
33(32.0)
I: 2
57.0
EC細
正常粘膜 な し
完全線維 化
17
(16.5)
ユ
2(11.7)
1
57.8
0: 3
50.0
2: 3
51.0
正 常
工度
皿 度
IV度
男 : 女
検 出例 数
粘膜は殆ん ど正 常
I皮
型
粘膜欠損型
1号
表 2 異 所性粘膜検 出頻 度 と年 令
症例数
(%)
眼的形状
肉
日消 外会 誌 1 3 巻
胞
P a m e t h 細胞
1977.11-1978 8
3(2.9)
全 症 夕」
写 真 1 テ ス テ ー プ に よ る生 化 学 的 検 索 , 胆 裏 底 部
が 禄 変 ( 熊糖 分 解 酵 素 )
103
1
E o C 細胞( 陽ク ロム親和細胞) 1 9 7 7 . 1 1 ∼ 1 9 7 8 . 8
( ) %
表 3 肉 眼 的 分 類 と異 所 性 粘 膜 との対 比
1(33.3)
杯 細 胞
EC細
度例
7
Ⅳ︲
6
E 5
偽幽門腺
度例
度例
テステープ
緑色変化
H 度
27を
利
3(5,4)
10(37.0)
33(58.9)
19(70.4)
2(11.8)
13(23.2)
17(63.0)
3(17.6)
6(10.7)
6(22.2)
胞
Paneth細 胞
E . C 細 胞( 陽クロム親和細胞)
( ) %
諸検査 に先 だ ち まず 胆嚢 粘膜 の内眼的所見 を表 1 の よ
うに定 めた 。軽 い炎症性変化 の 正度 が5 6 例 ( 5 4 . 4 % ) と
1977.11∼ 1978. 8
化は1 3 例 ( 1 2 . 6 % ) に 見 られ 女性に多 く, 年 齢 は3 0 歳代
2 例 , 5 0 歳代 4 例 , 6 0 歳代 4 例 , 7 0 歳代 3 例 平均年齢
5 8 . 9 歳であ った ( 表 2 ) . 肉 限所見 と 対比す ると, と く
最 も多 く, 対 照群 1 0 例は I 度 3 例 , I 度 7 例 で 皿, I V 度
は な か った .
B ) テ ス テ ー プに よる生化学的検討 ( 写真 1 , 表 2 ,
に Ⅱ度 では2 7 例中1 0 例 ( 3 7 . 0 % ) が 変色 した ことになる
( 表 3 ) . 変 色 の程度 は 濃 く変化す るものか ら 淡 く変色
3, 4)
す るものまでみ られ, そ れが混在 した り単独 に も存在 し
ていた。変色部位 についてみ ると胆嚢全体 にびまん性 に
庶糖分解酵素 の存在す る部位 にお こ るテ ー プの緑 色変
表 4 異 所性粘膜 の部位 別症例 数
1全 体
頚 部
14
(255)
杯 細 胞
8
8
(24.2) (242)
EC細
2
2
)
( 1 6 . 7 )( 1 67 。
(23)1 0
・
3
3
3
( 9 , 1 () 9 . 1 () 9 . 1 )
5
1
1
1
( 4 1 . 7 )( 8 . 3 ) (8,3) (83)
.
0
6
ユ
(33.3)
2
E . C 細 胞( 陽ク ロム親和細胞)
( ) %
3
Paneth細 胞
1
(30)
合 計
1
2
( 7 . 7 , (15,4)
6
2
22
4
4
( 1 0 . 9 )( 3 . 6 ) (40.0) ( 7 , 3 ) ( 7 . 3 )
7
胞
0
底 部 1 頚体部 体底部 頚底 部
.
偽幽門腺
体 部
5
2
5
(38.5) ( 1 5 , 4 )
3
テ ステ ー プ
緑色変化
0
1977.11-1978. 8
37(37)
1980年 1月
写真 2
ると考えられ,そ の部か ら偽幽門腺管腔を作 りつつあ る
未分化な 幽門腺 を しば しば 認 めた (写真 2上 ),こ の幽
門腺化生 の過程を PAS染 色, Alcianblue染色 お よび
PAS‐
AB重 染色 によって 観察 げた。 正常粘膜は PAS,
AB染 色 においてともに染色性 を もち, そ の重染色 では
青色 に染 まる彼細な粘液頼粒 を もつが腺 寓部へ進むに し
たがいその染色性は AB染 色性が低下 し,逆 に PAS染
色性が増強 し,腺 寓部 では 胞体内に PAS強 陽性 の粘液
顆粒 を もつ た 細胞 がみ られた (写真 2下 ).そ してその
腺笛部周囲には,PAS強 陽性 の偽幽円腺 がみ られた 。
2)杯 細胞 (写真 3,4,表
1)光 顕的に検索
2,3,4)
頻度は表 2に 示す ごとくであった .肉 眼的分類 との対
比 では杯細胞 を認めた33例中皿度 は17例 (51.5%)と 最
も多 く次 いで I度 が13例 (39.4%)で IV度は 3例 と少 な
く 1度 には認めなかった 。全症例 については表 3に 示す
ごとく偽幽門腺 と同様 に高度炎症例 の皿度 に多かった 。
写真 3
E 染 色)
上 偽 幽F 弓
腺管を作 りつつある. 未 分化 ( H ‐
A B 重 染色. 腺 寓部 では P A S 染 色性が増強
下 PAS‐
X 100
認 め る5例 以外 は巣状孤立性の ものか ら,斑 状に融合 し
たものまでさまざまであったが体部だけに変色をみた症
例 はなかった (表 4)。 なお対照群には 1例 も テー プの
変化 を認めなか った 。
C)異 所性粘膜 の形態 と分布
1)粘 液腺化性 (偽幽門腺)(写 真 2,表 2, 3,4)
胆襲頚部 においては正常胆襲 においても頚部腺 と呼ば
れ る粘液腺が存在す るがそれ とは別に偽幽門腺がみ られ
た .頻 度は表 2の ごとくであ り50∼70歳代 の女性に特 に
多い傾向を示 した .肉 眼的分類 との対比では偽Ltl門
腺55
例中 I度 に33例 (60.0%)と 多 く,次 い で 正度 に19例
(34.6%), I度 1例 ,Ⅳ 度 2例 であ った .全 症例 で比
較す ると表 3の ごと く皿度 にその頻度が高 く炎症高度症
例においてその発生頻度 が高い結果 であった .な お対照
群 では偽幽門腺 は 1例 (10.0%)で 頚体部 に軽度 に認め
られた未熟なものであ った 。部位別 では表 4の ごとく底
部 に多 く体部 に少 い傾 向にあった 。
正常粘膜か らこの幽門腺へ の化生 は腺笛部 よ り発生す
粘膜 は繊 毛状 か ら乳頭状 に増殖 し杯細胞 を伴 っ
E染 色 X50)
てい る ( H ‐
大 きな粘液 空胞 が核及 び 周囲細胞 を圧 排 ( P A S
染色 X 1 0 0 )
38(38)
摘 出胆妻 におけ る化生 の臨床病理学的検討
写真 4 矢 印 は小皮縁 ,所 謂腸型吸収上皮 (PAS染
色 X100)
尚対照群 では 1例 (10,0%)の みに認 め られ胆襲全体 の
小粘液滴程度 であ った.13例 のテステー プ緑変部粘膜 に
日消外会 誌 13巻
1号
写真 5 正 常粘膜形態 の波状型構造
(SEWi,象X 100)
写真 6 正 常粘膜 の六 角形 亀の甲状網 目構造
( S E M 像 ×6 0 0 0 )
は全例 に明 らかな杯細胞を認めた 。部位別は表 4に 示す
ごとくであ る。杯細胞 は部位 に差果はな く巣状 に局所的
に認め られ ることが多か ったが,び まん性に多数 の杯細
胞が広 がってい る症例 もあった 。そ して杯細胞 は単独 に
認 め られ ることは少な く33例中30例 (90.9%)が 偽幽門
腺 と合併 していた,
しか し偽幽門腺 よ りも広 く認め られ ることはな く,か
つ偽幽門腺 の強 い症例 に杯細胞 も多 く認 め ることができ
た。そのためか杯細胞 を伴 った部位 は腺管 も多 く,胆 薬
粘膜は繊毛状 か ら乳頭状に増殖 してい る例をみた (写真
3上 ).杯 細胞は粘膜表層や粘膜下層の 腺管内に 認 め ら
れ,そ の形態は胞体内に境界不明瞭な粘液滴 を思わせ る
未分化なものか ら, 明 らかに alcianbluc陽性 の 粘液空
胞は認 め るがいまだ核,お よび周囲細胞を圧排 していな
い もの,大 きな粘液空胞が核お よび周囲細胞を圧排 し冒
にみ られ るのと同様 の成熟杯細胞 までさまざまであった
(写真 3下 )。 また 3例 には PAS染 色陽性 の 小皮縁 が
強 く発達 し,胞 体 に胆嚢粘膜上皮特右 の粘液類粒を認 め
ないいわゆ る腸型吸収上皮を 思わせ る 腺管 がみ られた
(写真 4).
ti)走 査電顕的に検索
粘膜面 の形態は走査電顕による観察 で波状型 が多 く平
坦型 もみ られたが基本的 に正常粘膜は六角形 の亀 の甲状
網 目の 構造を 示 していた (写真 5,6).肉
よる観察 では
a)肉 眼分類 I度 (写真 7)
眼分類別 に
写真 7 肉 限 I 度 六角 形構造 がや ゃ形 を異 に して き
てい る。側面 に も微繊 毛が存在 ( S E M t t x 2 4 0 0 )
1980年1月
39(39)
写真 8 肉 限 T一 I度 ,上 皮細胞 が不ぞろい ,六 角
形 ,三 角形 ,菱 形,な すび形 (SEM tt x2400)
写真10 肉 限 皿度 ,粘 液産生細胞,微 繊 毛が少な く
表面 が rough(SEM tt x6000)
写真 9 肉 眼 I ― 皿度細胞 表面 の中央部 が微繊 毛を
欠いてい る。 ( S E M t t x 6 0 0 0 )
写真11 肉 眼 皿度,粘 液 は開 口分泌様式で放 出
(EM ttx14,400)
上皮は ヒダに富み,蛇 行,分 枝,吻 合に よって複雑 な
網 目模様を呈 していた。個 々の上皮はやや膨隆 し,大 部
分 は 6角 形を呈 していた。強拡大 では上皮細胞 の 自由表
面 は密生 した微繊毛 で被れ ていた 。また細胞 の側面 にも
多 くの微繊毛が存在 し,ま れに腔 に向 って著 しく突出 し
C)肉 眼的 I度 (写真 10)
micrtlvilllの
肥大あるいは 癒合, 脱落, 細 胞間 の離
開ヵ大小不同性か ら細胞が剣離す るのが認め られた 。な
おテステ ープ緑変部 は程度 の差 はあ るが微繊毛が少 な く
表面 が ざらざらした (rOugh)細胞が 多数観察 された 。
た細胞がみ られた。
b)肉 眼分類 I∼ 皿度 (写真 8,9)
各 々上皮細胞の形が不ぞろい,す なわ ち六角形 ,五 角
これ らの細胞が粘液産生細胞 であ り,粘 液頼粒 の放出状
態 もしば しば認 め られた 。放出は透過電頭 にて明らかな
形,菱 形 またはなすび形な どであ った 。また,細 胞表面
の中央部 が比較的滑 らかで微繊毛を欠 いでいる細胞 がや
なお,肉 限rv度は粘膜欠損 のため検討 しなかった。
3)腸 ク■ム親和細胞 (以下 E,C細 胞 と略す)(写
や多 く認 め られた 。恐 らく粘液産生細胞へ の転化が うか
がえ るが粘液性 の分泌顆粒 の座へ の放出は観察 されなか
真12右,表 2,3,4)
HE染 色でやや暗 い赤黄褐色に染 まる分泌顆粒 が核下
った 。
および MaS‐
基底部 に局在性 に認 め られた .Crimelius法
開 口分泌様式 であ った (写真11)
摘 出胆褒 におけ る化生 の臨床病理 学的検討
40(40)
日消外会 誌 13巻
1号
に存在す ることはなかった 。細胞 も立方状からやや九み
を帯 びた ものまでみ られ る。 また, 頼 粒 も Ecsinで 赤
写 真1 2
く赤染 し 1個 1個 が明瞭で明らかに Paneth顆 粒 と判断
で きるものか ら,Eosinで 淡 くピンク色に 一様 に染色 さ
れ,類 粒 の不 明瞭なものまで さまざまであった 。このよ
うに胆襲 内の Paneth細 胞は明 らかにそれ と確認 で きる
成熟 した ものか ら,幼 若 な形態 を示す ものまで さまざま
であ るが,む しろ後者 にその頻度 が高 か った 。
D)胆 褒癌 の化生 について (表5)
当教室 で摘 出 し検索 し得 た胆襲癌 は20例で組織学的に
分類 す ると分化型腺癌16例 (乳頭状腺痛 5例 , 管 状腺
癌 11例),低 分化腺癌 3例 ,Adenoacanthoma l例であ っ
た 。著者 は とくに分化型腺癌を中心 に臨床病理学的 に検
右 矢 印, 腸 クロム親和細胞, 黒 色の顆粒 ( M a s s O n _
Fontana染
色)
E
左 矢 印, P a n e t h 細胞, 頼粒 が E o s i n で赤染 ( H ‐
染色) X 400
討 した .
1)肉 眼像
不 明 1例 を除 く19例中隆起を示す ものは15例,残 り4
例は平坦 であ った 。組織型別にみ ると分化型癌16例中13
son‐
F ontana法 で検索 した所,両 染色 にて 黒色 の頼粒 が
染色 され EC細 胞 であることが 判明 した 。 この類粒 は
例 (81.3%)が 隆起性 とな り残 る3例 は平坦 であ った。
低分化型癌 は 1例 が不 明で 2例 中 1例 (50.0%)が 隆起
基底層 のみな らず 核上部 にも散見 された 。 この EC細
胞は後述 の Paneth細 胞 と同様,胃 お よび腸 に比べ きわ
性, 1例 が平坦 であ り分化型癌 に隆起性病変を示 す傾向
めて粗 に散在性 に存在 していた .肉 眼的分類 との対比 で
はやは り高度炎症症例 に 多かった (表 3).な お対照群
には 1例 も認め られなかった 。
4)Paneth細
胞 (写真12左 ,表 2,3,4)
Paneth細 胞は検査例 のわずか 3例 (2.9%)に 認め ら
れ,対 照群 には認 め られなかった (表 2)。 その Paneth
が強 かった.
2)組 織像
a)非 癌粘膜 の化生
非癌粘膜 の性状をみ ると杯細胞が分化型腺癌16例中 7
例 (43.8%)に み られ 1例 は低分化腺癌 の周囲にみ られ
た 。杯細胞は周囲細胞を 圧排 した ような 成熟型や PAS‐
細胞は胆嚢底部 の肥厚部, 組 織学的 には EC細 胞,杯
細胞,腸 型吸収上皮ならびに偽幽門腺 が強 い増殖 を示 し
AB重 染色に染 まる小粘液頼粒を含む ものお よび 偽幽門
腺 との鑑別が困難な例 までみ られた 。
b)腫 瘍内の化生
た部分に認め られ 1例 はあたかも adenomyomaを 思わ
せ る部 の数 力所 に小 さな集俵巣 として認め られた 。そ し
粘液空胞をもった所謂悪性杯細胞を思わせたものが12例
てそれ らは 集篠巣 ではあ っても散在 性に 孤立性 に 存在
し,小 陽 と目の腸上皮化生巣 にみ られ る様に相接 して密
表5 摘
次 に腫易 内を詳細 に検索す ると,分 化型腺癌16例では
95,0%)に 認 め られ低分化腺癌 は 1例 であった (写真
13上下)。また 分化型腺癌 には PAS陽 性に 染 まる小皮
出胆妻層20例 の検索
平均年齢
(歳)
)%
部位別症例数
組織 型
検出例数
男:女
分 化型 腺 癌
16(80。の
6:10
540
4
低分化型腺癌
3(150)
0: 3
鶴 0
1
5&6
6
腺扁平上皮癌
全 症
例
%
1: 0
20(100.0)
7:13
全体
頚部
体部
底部
l
l
l
1
0
1
5
41(41)
1980年 1月
写 真 13 上 下 共 ,腫 瘍 内悪性 杯 細 胞 (H=E染 色 上
X 400下 X 100)
化生,お よび杯細胞,EC細
胞や Paneth細 胞 よ りな る
いわゆ る腸上皮化生が起 こることを報告 してい る。腸上
皮化生は 胃においては一般的な所見 であ り,MOrsonゆ は
り “
それを前癌状態 と考え, 中村 は 分化型癌 は 腸上皮化
''と
生粘膜か ら,未 分化型癌 は 胃固有粘膜 から発生す る
い う胃癌組織発生 の概念を論 じてい る.し たがって胆襲
粘膜 に杯細胞,EC細
胞,Paneth細 胞 などの 腸上皮化
生 が発生すれば目痛 の概念 か ら考えて も当然それ らを母
地 とす る分化型癌,す なわち腸型胆襲癌 の発生が推測 で
きる.
A)胆 嚢 の化生 について
異所性組織 (腸上皮化生や粘液腺)発 見 の報告 は少な
い .果 所性組織 については 最初 AschofF(1905)1のが胆
塞底部 に炎症 を 伴 った 所見 として 杯細胞 お よび 粘液腺
を報告 してい る。その後 Nichdson(1923)1つ と Ansari
は慢性炎症 に伴 う変化 として, この粘液腺を幽
(1954)1の
門腺あ るいは Brunner腺 と 等 しいもの と考 えたが,胎
児期 の発育異常 (先天異常)を 否定す ることができなか
1つ
った。つ ぎに 」arvi(1962)1の
と Meurman(1964)
はその粘液腺を化生変化 であると報告 している。腸上皮
化生は形 態学的な立場 から刷子縁,杯 細胞,EC細 胞,
PanCth細 胞な どの出現を もって定義づけ られてい るが,
写真14 矢 印腫易 内小皮縁 (PAS染
色 ×50)
杯細胞 の 報告 はみ るものの EC細 胞や Panetll細胞,
とくに Paneth細 胞 についての 報告 はきわめて 少 い .
EC細 胞は EIsttmer(1935)19が 粘液腺 とともに未分化
上皮か ら生 じる と報告 し CessWein(1959)10ら に よ り
粘液分泌 の旺盛 な杯細胞分布域や粘液腺上皮間 に数多 く
み られ るとし 今 日まで 間接化生 に 出来す る 変化 として
考え られてい る。Paneth細 胞 は Kerrぉ ょび Lendrum
(1936)が 完全型 の腸上皮化生 として 胆襲腫場 の一部 に
存在す ると報告 して以来,腫 易 の内に存在 した りあ るい
は過誤腫 と考えられてきたが,Jarviと Lauren(1967ア
が化生機転 によ り発生す ると報告 し大腸上皮 に似 てい る
とした 。 各種異所性組織 について Laitio(1975)1のは
電顕 に よる検索を 行 い 胃におけ る腸上皮化生 の 因子 と
同様, 胆 嚢粘膜内に 腸上皮化生 があ ることを 裏づ け,
縁 が腫瘍細胞内に認 め られた (写真14).
V)考
察
胆襲粘膜 の変化 を知 ることは胆襲癌 の組織発生 お よび
早期診断 の うえにきわめて重要 と考 えられ る。今 日まで
胆襲粘膜 の変化 については多 くの光顕的,電 頭的研究が
め
ゆ
,
な されているが,最 近松峯 , 小 西 ,Delaqllerriereゆ
JttVi°
,Laitioつ,ら は胆襲炎で摘 出 した胆嚢粘膜に幽門
Kayc(1973)10は
円柱上皮細胞 の 自由表面 に 多数 の背
の高い不規則な MiCrOlrilliが
存在 したが, そ れは小腸
の吸収上皮細胞 として規則的 に配列 した刷子縁 を形づ く
らず,む しろ大腸上皮に似 てい るとした 。なお本邦 では
各種果所性粘膜組織 につい
松峯 (1978)め
,(1979)19が
て検索 し胆嚢 が十二指腸 と同 じ前腸系 に属 し腸上皮化生
と偽幽門腺が混在す ることか ら胆嚢 の化生を十二指腸化
42(42)
摘 出胆嚢 におけ る化生 の臨床病理 学的検 討
生 とし発癌母地 との関連性を考察 してい る。
B)化 生 の頻度 お よび発生部位
胆襲 に腸 と同様 の庶糖分解酵素が存在すれば腸上皮化
生を証明 したことになる.こ の 目的 でテステープを用 い
生化学的に庶糖分解酵素を証明 しえた 。この酵素 は小腸
繊毛上皮 の MiCrovilliに
結合 して 存在 してお リテ ープ
に よる検索 は粘膜表層に刷子縁を もった円柱上皮があ る
ことを示す .103例 中13例の 緑変が あ りこのことは胆襲
粘膜 には大腸上皮 ではな く小腸化生が12.6%の頻度 であ
るといえる.他 の異所性粘膜検出頻度 で 松峯めは男女間
に差を認 めず,年 齢 は著名な差 がない としてい るが,著
者 の例 においては表 2に 示す ごとくやや女性に多 く平均
年齢 は全症例 よ りも4∼ 5歳 高齢 であつた。だが対照群
日消外会誌 13巻
1号
定状態 にあ ると考えられ る。胆襲 におけ る異所性組織 は
腸上皮化生 と偽幽門腺 を一諸 に考え ることもで きるが,
胃の幽門部を例 にとってみ ると正常 では増殖細胞帯 は腺
の中央部 に位置 し,慢 性炎症反応 の結果本来 の増殖細胞
帯 の高 さの部位 に化生上皮 の増殖帯が形成 され る。杯細
胞等は上方 に成長 してい くが正常 の増殖細胞帯は次第 に
下降 してい き,急 に回有腺細胞が失われた時 などはす で
に増殖細胞帯 よ り作 り出されて下方へ細胞移動を行 って
い る幼若主細胞が増殖 して粘液細胞を作 り出す 。い った
ん分化度 の低 い粘液細胞 が形成 されれば不可逆的な変化
であ ると言われている。このように両者 は炎症 によ り発
生す るようであ り松峯ゆは 腸上皮化生 と粘液腺 が同一部
位 に分布 しやす く,一 つの巣を形 成す ることが多い し,
よ59.0歳と高齢 にもかかわ らず杯細胞お よび偽幽門腺 が
ヤ
は十二指腸粘膜 にちか く,ま た,両 者 の非併存
そ の7//態
各 1例 (10.0%)の みに存在 したにすぎず,そ れ も頚体
部 に生 じた ご く未熟 な ものであつた 。 これ らの 組織は
異所性 である点を 無視す ると 正常な 組織 と区別できな
巣 についても十二指腸 と見なす ことが可能 であると述べ
い.胃 の腸上皮化生は加齢 に伴 い幽門腺前庭部小弯側か
ら次第に胃体部お よが一定 の///式
をとるが,胆 義 におい
ては年齢 とは関係な く炎症 (含結石)の 存在 した部位に
生 じ胆襲全体に広が るものと思われ る。表 4に 示す よう
に胆襲全体, 頚部, 底部 にほぼ同頻度 に 発生 していた
が,体 部だけの発生は きわめて少な かった.な お ヨレス
テ ロージス と腸上皮化生 は両者 に炎症所見があったが一
2の
例 も同 じ部位 には存在 してお らず波多江 らも同様 の報
告 を してい る興味あ る結果であった。
C)腸 上皮化生構成成分 お よびその特徴 について
胃の腸上皮化生 と対比 して考えてみ るに胆襲 に生 じた
化生巣は 極端 に 腸型吸収上皮 お よび Paneth細胞が少
い 。 しか しそれ らとテ ープ緑変例は小腸化生 と考えても
ほかのテープ不変例 で杯細胞出現例は大腸化生 とすべ き
な のか ?,だ が正常大腸 には認め られない偽幽門腺を多
くの 症例で 伴 い大腸化生 とも異 ったものと 解 され る.
103例中小腸化生 の 構成成分か ら考えた完全型 は 3例 の
みであ り,そ のほかは構成成分 の不足 した不完全型 の腸
上皮化生 と言わ ざるをえない。この不完全型は将来完全
型 に成長す る前段階 とも考え られ るが,胆 襲全割 を施行
してもなお完全型を発見す ることがなかなかで きないの
てい る。だが発生す る場所が多少異 ってお り分化型 胃癌
は腸上皮化生 か ら発生す るとす る中村つの概念を考え る
と腸上皮化生 と偽幽門腺 を同一化生 として考えるよりも
両者を分け るべ きであ ると考え る.
胃において腸上皮化生は幽門腺領域 に発生 し,胃 底腺
領域 には 認め られていない 。 これは 胆裏 において も杯
細胞が 単独 では 認 め られ ることは 少な く, 33例中30例
(90.9%)が 幽門腺 と合併 していた結果 とはば一致
す るものであった。
偽幽門腺 は肉眼分類 I度 に19例 (70.4%)と 最 もその
頻度が高 くこのことか らも偽幽門腺 と腸上皮化生は炎症
との強 い関連性が想像 され る。 したがつて両者は細胞 の
欠損あ るいは粘膜 の変性剣離脱落な どとい ったあ くまで
も組織構造 の破壊 とい う刺激 に対 し,再 生分化異常を生
じて発生 し,抵 抗減少部 に粘液を産生す ることに よ り炎
症 を柔 らげ ようとして化生がお こると考えられた 。
D)胆 襲癌 と化生 の関係
もし胃痛 の場合 と同様 に胆襲腸上皮化生粘膜が分化型
癌発生 に 「関係 が あるらしい」 とすれば両者 には,肉 眼
像や光頭学的 に類似点を もつか も知れない。このような
観点か ら検討を加えた 。
a)肉 眼像
分化型癌 の81.3%は 隆起性病変 であ ったが, これは 胃
にみ られ る所謂腸型癌 と同 じ形態 であ る.な お潜在痛 3
は,未 分化な状態を保 ち不完全型 はそのまま型を留 め る
のではないか と考え る。 また成熟度 からみ ると EC細
例は いずれ も肉眼分類 Ⅱ度 であ り腸上皮化生 の高頻度 に
胞お よび Paneth細胞は特 に未熟な症例が多 く,密 生 し
て存在す ることは きわめ てまれである。このように胆裏
発生す る粘膜 と同 じ所見 であ った。
b)光 顕学的
の腸上皮化生 は不完全型 で未熟な症例がほ とん どで不安
もし腸上皮化生からの癌化が存在す るとすれば一般腫
1980年1月
瘍病理学 の根底 に横 たわ る基本的概念 「腫瘍 はそれが発
生 した臓器 の構造,機 能 を多少 とも模倣 してい る」 から
考 えて 両者 に 何 らかの 形態学的類似性 があ るはずであ
る.杯 細胞 は有石胆襲炎症例 (32.0%)よ りも分化型腺
癌非癌粘膜 (43.8%)や 腫瘍内 (75,0%)に 高頻度 に認
め る。そ して分化型癌 には腸型吸収上皮が認め られ,ま
だ 1例 ではあるが分化型癌周囲粘膜 のテステープ緑変例
1り
が あ り,松 峯 は17例の胆裏癌 につ いて検索 し非癌粘膜
に 8例 (47.1%),腫 瘍 内に 3例 (17.6%)の EC細 胞
を発見 してい る。この ことを考え合わせ ると分化型胆襲
癌 は腸上皮化生 か ら発生 した可能 性を考察 で きるもので
あ る。なお低分化腺癌 1例 に杯細胞を認めた 。これは進
行癌例 であ り同一腫瘍内に組織多様性があ り初期癌 の よ
うな一様な形態 を してお らず二次的な修飾像,あ るいは
時間 の経過 とともに粘膜 の腸上皮化生が進んだ とも考え
43(43)
発育 して90,9%が 偽幽門腺 と合併 していた .
⑥ Paneth細胞および EC細 胞は未熟なものが多か
った。また3例に腸型吸収上皮を思わせる腺管がみられ
た。
② 腸 上皮化生 発生 には 加齢 変化 よ りも結石等 に よる
一
炎症 が 重要 と思われ,発 生部位 に 胃の よ うな 定 の形式
は なか った 。
③ 腸 上 皮化生 の発生部位 は頚部 お よび底部 に多 か っ
た。
③ 分 化型癌 16例中非癌 粘膜 に 杯細胞 が 7711(43.8
%),腫
瘍 内 に12例 (75,0%)と
杯細胞 が 高頻度 に認 め
られ ,腸 型 吸収上皮 の存在す るものがあ った 。
① 胆 襲腸 上 皮化生 と胆襲癌 は光顕的所見 に共通性 が
あ り,即 ち正常胆襲粘膜→ 慢 性胆嚢炎 (含結石 )→ 腸 上
皮化生 → 分化型胆纂癌 (腸型癌 )を 生 じうる可 能性 が考
られ るが,そ の確 かな病原は不 明であった 。
以上 の ように腸上皮化生 と胆襲癌 は,光 顕的 に共通点
があ り中村つらが記述 しているように 化生 は 前癌状態 で
あ ると疑 うこともでき うる。ではなぜ化生 から癌化へ の
察 で きた 。
道をた どるのか 。それは胆襲腸上皮化生が特に不完全型
を と り,未 熟な細胞が多 くこの不安定状態は,特 殊な果
則助手 に深謝 ぃた します 。また電顕 的検索 に際 し終始御
所性上皮 が形成 され るとい う現象だけでな く,こ の環境
に細胞分化 の抑制や細胞回転 の元進 さらにアンパ ランス
深謝 いた します 。
(本論文 の一 部 は第20回 日本消化器病学会秋 季大会 お
な細胞回転等が生 じ癌化す るのだ と考えたい 。
VI)結
語
よび13回 日本消化器外科学会総会 等 において発表 した。)
① 有 石胆裏炎103例,無 石正常胆襲 10例胆襲癌 20例
についての腸上皮化生 とそれか らの癌化 について検索 し
,こ
.
ち
② 摘 出胆嚢粘膜を肉眼的 にその病変 の程度 に よ り正
常 よ り高度胆案炎まで I∼ IV度に分類 した。I度 が56例
(54.4%)と 最 も多かった 。肉限所見 と走査電顕所見 は
その粘膜病変程度がほぼ一致 していた。
③ テ ステー プに よる化生 を検索 し庶糖分解酵素を発
見 した。それは13例 (12.6%)に 見 られ女性 に10例と高
頻度であ り肉眼分類 正度は37.0%が 線変 した。緑変例 は
全 て杯細胞が存在 していた。対照群 は 1例 も緑変はなか
った。
④ 有 石胆襲炎103例中偽幽門腺55例 (53.4%),杯 細
胞33例 (32.0%), EC細 胞12例 (11.7%),Paneth細
ずれ も 炎症高度症例 の
胞 3例 (2.9%)の 出現を見, ヽヽ
。
に
か
皿度 発生率が高 った 対照群は偽幽門腺,杯 細胞が
各 1例 (10.0%)の 出現 であった .
⑤ 偽 幽P弓
腺 は腺筒深 く発達 し,逆 に杯細胞は上方 に
稿 を終 るにあた り御 指導 と御校 閲 を賜 わ った恩師古賀
道 弘教授 に深謝 す る と共 に ,本 研究 について直接御指導
をいただ いた本学 第 二 外科中山和道助教授並 びに内藤 寿
指導 をいただいた大分大学第 1解 剖学 島田達生助教授 に
文
献
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