地域在住 齢者の日腔内健康状態と 健康状態との関連

島根県立大学短期大学部出雲キャ ンパス
研究紀要 第 1巻 , 1-7,2007
高 身
地域在住
)い
齢者 の 日腔 内健康状 態 と
健康状 態 との 関連
松岡
文子 ・山下
概
一也
要
b
本研究 の 目的 は,地 域在住 の65歳 以上高齢者 を対象 に し,口 腔内の健康状態 がツ
身の健康状態 とどのように関連 しているのかを明 らかにす ることで ある。
調査 の結果 ,日 腔関連 QOL尺 度 で あるGOHAI総 合点 は,残 存歯数 ,モ ラールス
ケール総合点 ,SDS総 合点 と相関 が見 られ,残 存歯数 はファンクシ ョナル リーチ
開眼片足 立ち時間,握 力 , 2分 間足踏 み,UP&GOテ ス ト,MMSE総 合点 ,SDS総
,
合点 と相関 が見 られた。 また ,残 存歯数 を 2群 に分 けて分析 した結果 ,握 力,開 眼
片足立 ち時間 ,フ ァンクシ ョナル リーチ, 2分 間足踏 み,UP&GOテ ス ト,MMSE
総合点 ,SDS総 合点 において有意差 が見 られた。 これ らの ことか ら,残 存歯数 は身
体機能 とくにバ ランス機能 と関連 があることが明 らかになった。 また,認 知機能 に
も影響 を与 えることが示 唆 された。
キー ヮー ド :高 齢者 ,回 隆内健康状態 ,残 存歯数 ,GOHAI,心 身健康状態
I。
は
口腔 ケアは,誤 囃性肺炎や糖尿病 などに代表
され るように,全 身疾患 とも関連す ることが近
じ め に
近年 ,我 が国 では高齢化 が急速 に進 み ,国 立
社会保障人 口問題研究所 の調 べ によると2005年
年報告 されているが ,地 域在住高齢者 の口腔 の
健康状態 と心 身の健康状態 との関連 を報告 した
文献 は少 ない。
には65歳 以上人 口が20.2%を しめ ,2050年 には
39,6%に 達す ると推定 されている。 この よ うな
今回 ,65歳 以上 の地 域在住高齢者 を対象 に回
腔 に関す るQOLや 健 康状態 が ,心 身健康状態
高齢社会 において ,高 齢者 の生活 の 質 (以 下 Q
OLlを 維持 。向上 し,身 体的 ,精 神 的 そ して
とどの ような関連 があるかを検 討 したので報告
す る。
社会的 にも健康 な高齢者 を増 や してい くことが
Ⅱ.研 究
重要で ある。
目 的
1989年 に当時 の厚生省 (現 厚生労働省)と 日
本函科医師会 により「満 80歳 になって も20本 以
上 の 自分 の歯 を保 つ ことで豊 かな人生 を」 とい
今回 ,島 根県内の 3地 域 におけるア ンケー ト
調査 と口腔 内水分量測 定 ,残 存歯数 などの回腔
うスローガンを掲げた「8020運 動」 が提唱 され ,
現在 では国民的 な運動展開 となって いる。 また
内観察 の結果 か ら,日 腔内 に関す る満足度 や残
存歯数 などが,身 体機能 ,主 観的幸福感 ,抑 う
2000年 か ら導 入 された介護保険法 の 見直 しによ
つ状態 ,認 知機能 など心身の健康状態 とどのよ
うに関連 してい るのか を明 らかにす る。
り,2006年 度 か ら「予防重視型 システム」 へ と
切 り替 えがはか られ 「食事」 との関連 において
「回腔穣能 の 向上」 が もりこまれ ,回 腔 へ の 関
Ⅲ。研 究 方 法
心は確実に高 まって いるといえる。
本研究 は,本 学平成18年 度特別研究費の助成 を受
けて実施 した。
-1-
1・
調査対象
出雲市 A地 区・邑智郡 B地 区・隠岐淋 C地 区
松岡
文子 ・山下
在住者 で,「 物忘れ と栄養 ,脂 肪酸分析 に関す
る研究」 および「離島における保健 。医療 ・地
域 が一体 となった効果的介護予防」の研究 に参
一也
歯」 と し全 部床義歯 と部分義歯 は除外 し,残 痕
のみの 場合 や ク ラウ ンや ブ リッジな どの 補綴歯
数 も含 め カウ ン トした。
加 された65歳 以上の方で,本 研究 に同意の得 ら
れた方 を対象 とした。
定 した 。 この 数値 ∽ は30以 上 が正 常 ,29.0∼
2.調 査 方法
29.9は 境 界 ,27.0∼ 28.9は やや水 分 不足 ,25.0∼
日腔水分量 は回腔 水分計 を用 い 頬粘膜 にて測
上記 の研 究 に参加 され た方 に ,本 研 究 の依頼
26.9水 分不足 ,24.9以 下 はか な りの 水 分 不足 と
書 に基 づ き研 究 計画 を説 明 し,同 意 の 得 られ た
評価 され る。 この 数値 を回腔 乾燥 の 客観 的指標
方 に以下 の 面 接型 聞 き取 リア ンケー ト調査 と残
と した 。
存歯数調査 ,日 腔水分量調査 を実施 した 。
3.倫 理 的配慮
また ,身 体機 能評価 と して握 力 ,開 眼片足 立
調 査 協 力 に際 し,「 物忘 れ と栄 養 ,脂 肪酸 分
ち時間 ,フ ァ ンクシ ョナル リーチ , 2分 足踏 み
UP&GOテ ス トを,心 理 。社 会 的機 能 評 価 と し
析 に 関す る研究」 で 実施 してい る身体 機 能評価
てMini Mental State Examination(以 下MMSE),
した 。 ア ンケ ー ト調査 を行 うに あた って は,同
Ztlng式 抑 うつ 尺度 (以 下SDS),モ ラール ス ケ ー
意 を強要す る ことの ない ように配慮 し,ア ンケー
,
内容 を合 わせ て使用 させ ていた だ く こと を説 明
ル ,改 訂長 谷川 式簡 易知能評価 ス ケ ール (以 下
トの 自己提 出 を もって ,同 意 を得 た こ と した 。
HDSRlを 使 用 した 。 これ らは他 の研 究 に組 み
また ,研 究協 力 した後 に もデ ー タ等 の使 用 を拒
込 まれて い る調査 で あ り,重 複調査 をす る こと
否 す る ことがで き,拒 否 した ことに よる不利 益
は対象者 の 負担 を増 大 させ るため ,同 一 の もの
はない こ とを説 明 した 。
を使 用 した 。
4.分 析方法
1)ア
GOHAI総 合 点 や残 存 歯 数 と身 体機 能 評 価 尺
度 の 計測値 ,心 理 。社会 的機 能評価 尺度 の総合
ンケ ー ト調査
Genera1 0ral Heal血 璃ssessment lndex(以 下
GOHAIJは 1990年 に米 国 で 開発 され ,報 告 され
点 につ いてPearsonの 相 関係数 を用 い 分析 した 。
て 以来 ,海 外 で 広 く使 用 されて い る口腔 関連 Q
また ,男 女 による平 均値 の差 の 検 定 ,残 存歯
(0-9本 ),多 歯群
OL尺 度 で あ る。 これ は心理 社会 面 の 反 映 に優
数 を少歯群
れ ,か つ 対 象 集 団や状況 に応 じて補完 項 目や他
の 2群 に分 けた時 の 各測定値 や総合 点 に差 が あ
の 尺度 の 併 用 が可 能 (内 藤 ,2004)と い う特徴
が ある。今 回 は その 日本語版 を使 用 した 。 12の
るか をみ るために t検 定 を,残 存 歯 を 2群 に分
けた ときに′
陛別 によ り差 が ある か をみ るため に
質 問項 目と 5段 階 の リッカ ー ト尺度
χ
(ま
った く
なかった-5点 ,め ったになか った -4点 ,時 々
あった -3点
,よ くあっ た-2点 ,い つ もそ う
だ っ た -1点 )に よ る選択肢 で構成 され ,得 点
範 囲 は 12∼ 60点 で あ り,得 点 が高 いほ ど回腔 に
2検
(10-32本
)
定 を行 った。
統 計 処 理 に はSPSS ttrsion 13.OJ for Win‐
dowsを 使 用 し,有 意水準 は 5%と した。
Ⅳ。結
果
関 す る 満 足 度 が 高 い こ と を示 して い る 。
GOHAIの 使 用 に あた っ て はNPO健 康 医療 評 価
研究機 構 に使 用登録 を行 った 。
本研究 に協力 が得 られたのは A地 区59名 ,B
地 区60名 ,C地 区103名 の計 222名 で男性 が42.8
GOHAIの 他 に ,日 腔 乾 燥 の 自覚 症 状 に対 す
%,女 性 が57.2%で あった。対象者 の背景 を表
る問診 10項 目と歯磨 き習慣 に関す る内 容 7項 目
を実施 した 。 日腔乾燥 の 自覚症状 に対 す る問診
1に 示 す。平均年齢 は72.9± 5.5歳 ,GOHAI総
合 点 は平 均 が 55,4± 4.8点 ,残 存 歯 数 は 12.5±
票 につ いて は ,作 成者 で ある九州歯科 大学 の 柿
■.0本 ,日 腔内水分量 は33.6± 8.6%で あった。
木保 明教授 の 了承 を得 た 。
2)残 存 歯 数 ・ 口腔水分量測定
国腔乾燥 の 自覚症状 に対す る質問の 中で ,口 腔
代 表研 究 者 に よ る残 存 歯数状況 を確 認 した 。
ここで言 う残存歯数 とは「取り外 しのできない
-2-
乾燥 が「ある」 あるいは「時々」 と答 えた人は
115人 (51.8%)で あった。 しかし,国 腔水分計に
よる測定で30を きった人はわずか26人 (11.7)で
地域在住高齢者 の口腔内健康状態 と心 身健康状態 との関連
表 3残 存歯数の違いによる測定値の平均の比較
あり,最 低値 は27,7で あった。
表
1対 象者 の基本的属性
男性
残存歯数
女性
平均年齢
平均値
72 9
73 0
55 2
55 5
残存面数
標準偏差
107
0194 ns
1ひ 32本
開眼片足立ち時間 l19本
0 556 ns
47
4.8
110
12.5
■1
■0
ll1 32本
2分 問足踏み
握力
0 930 ns
(右 )
ヤ: pく 005
握力
との 相 関 関係 をみ た 。 その結 果 ,GOHAI総 合
点 は残存歯 数 ,モ ラール スケール 総合点 と正 の
相 関 が ,SDS総 合 点 とは負 の相 関 が見 られ た 。
GOHAI総 合 点 は 身体機 能 の どの項 目 と も相 関
0‐
UP&GOテ スト
SDS総 合点
261
82
77
70
24
l19本
ll1 32本
HDS離 合点 l19本
ll1 32本
73
3220''
3203''
85
70
2931'・
2773'!
13
2543'
352
326
272
277
75
2317・
77
31
23
1319
ns
★ : p(0001
★: pく 005 ★キ: p<001 ■
・
はみ られ なか った 。残存歯数 は フ ァ ンクシ ョナ
ル リー チ ,関 眼片足 立 ち時間 ,握 力 ,
331
3784!話
425
32本
併9本
夭
5037キ・
57
9本
32本
1∈ 32本
MMSE総 合点
76
177
09本
10‐
49
230
本 然
開 弼
回 腔 内 の 健 康 状 態 は 特 にGOHAI総 合 点 と残
存函数 に注 目 し,身 体機 能 や心理 。社会 的機 能
(左 )
288
485
t値
1384 ns
標準偏差
1118
246
281
230
32本
10‐
平均値
54 9
558
267
314
1027
l19本
10‐
6
&
6
&
2
み
標準偏差
ファンクショナルリーチ l19本
ぉ
3
3
147
っ
3
3
50
平均値
2
3
3
標準偏差
口睦水分量 平均値
72 9
55 4
◆9本
ll1 32本
222
54
標準偏差
GOHAl総 合点 平均値
p値
全体
9514280/O1127(57.2041
人数
GOHAI総 合点
2分 間足
V.考
踏 r/3,MMSE総 合点 と正 の相 関 が ,UP&GOテ
察
ス ト,SDS総 合 点 とは負 の相 関 が 見 られ た (表
1.口 腔 内の健康状態 につ いて
GOHAI総 合 点 は平 成 17年 度 版 の 国民 標 準値
に よ る と60-69歳 で 52.6± 7.2点 ,70-79歳 で
50.8± 8,8点 で あ り,今 回 の 調 査 結 果 は 55.4±
4.8点 で あっ たので ,回 腔 に 対 す 満 足 度 は 高 い
とい える。 また ,残 存面数 につ いて は厚生労働
2)。
表
2口 腔 内健康状態 と各測定値 との 関連
口腔 内の関連
GOHAI総合点
相関係数
0166
残存歯数
口
モラールスケー
SDS総 合点
握力
握力
0.289
0247
0230
0227
)
(左 )
(右
2分 間足踏み
UP&GOテ
省 が発表 してい る平成 17年 度歯科 疾 患実態調査
0.342
ファンクシ ョナル リーチ
開眼片足立ち時間
結 果 報 告 で ,70-74歳 で 15.2本 ,75-79歳 で
10,7本 とな っ て お り,今 回 の 結 果 で あ る12.5±
11.0本 は平 均的 と考 えて よ い と思 われ る。残存
‐
0215
スト
MM配 総合点
0197
歯 数 は 男女 で差 がみ られ た 。上記報 告 書 には
‐
0191
SDS総 合点
残存歯 数 を 0-9本 と10-32本 の 2群 に分 け
2検
た と き,男 女 間 で は差 が あるか χ
定 を行 っ
たが ,差 は なか った。残存函数 を 2群 に分 け t
(p=0.000),開 眼片足立 ち時間 (p=0.000), 2分
間足踏 み Φ=0.001),右 手握力 (p=0.002),た 手
握力 (p=0.004), UP&GOテ ス ト (p=0.006),
MMSE総 合 点
(p=0.012),SDS総 合点 Φ=0.02動
において有 意 差 が見 られ た 。 HDSR総 合 点 Φ=
には差 がみ られなかった
の 年齢階級 において男 性 の ほ うが ,女 性 よ りも
1人 平 均現在函数 が 多 い とあ り,今 回 の 結果 と
一 致 して いた 。
検 定 を行 っ た 結 果 ,GOIIAI総 合 点 との 有 意 差
は見 られ なか ったが ,フ ァ ンクシ ョナ ル リー チ
0.18の
,
40歳 以上 において男女比較 をす ると,ほ とん ど
(表 3)。
口腔乾燥 の 自覚症 状 につ いて は51.8%の 人 が
多少 な りとも口腔乾燥 を自覚 してい る。柿木 は
,
日腔乾燥 は年齢 が高 くな るに したが っ て 多 くな
り,各 年代 における発生頻度 で65歳 以上 の 高齢
者 499人 の うち280人 (56.10/OJが 回腔 乾燥 感 を自覚
していた0市 木,2002)と 述 べており,同 様の結
果 と言 える。しかし,実 際 に口腔水分計で測定
した結果 は,必 ず しも回腔乾燥状態 は示 してい
なかった。測定前に飲水を制限 した りは してい
-3-
松岡 文子 ・山下 一也
ない ため ,水 分 をとった こ とによ る一 時的 な数
が 高 く,抑 うつ 傾 向 が低 い こ とを示 して い る。
値 の 回復 で あった可能性 は考 え られ る。高齢者
の口腔乾燥 の 原 因 の 多 くは ,内 服薬 の影響 が大
回 腔 の機 能 とは食物 を咀 疇 し,囃 下 す る こと
呼吸 をす る こ と,発 語 。発声す る こと,顔 貌 を
きい といわれて お り,今 後 は回腔 乾燥 の 自覚症
保 つ こと等 が 挙 げ られ る。木谷 らは高 齢者 が残
状 ,国 腔 水分量測定 ,内 服 薬 な ど多角 的 に調査
存 歯 を保持 し,歯 の 審美性 を保 つ ことで ,自 己
を してい く必要 が あ ると考 え る。
の イ メー ジ をよ り肯定 的 に捉 え,積 極 的 に社会
GOHAI総 合 点 と残 存 歯 数 に正 の 相 関 が 見 ら
れ た ことか ら,残 存歯数 が 多 いほ ど口腔 に 関す
と関 わ ることがで き,ひ いて は閉 じこもり予 防
にな る (木 谷 ,2000)と い ってい る。 しか し
る満 足 度 は 高 い こ と が 明 らか に な っ た 。
清 田 らは単 に現 在歯数 よ りも,適 合 の よい義歯
GOHAIは 回腔 内 の機 能面 ,心 理社会面 ,疼 痛 ・
不快 の 3領 域 か ら構成 されてい る質 問紙 で ある。
その ため ,残 存歯数 が 多 い とい う ことは単 に機
能的 に不 自由 で な い とい う ことだ けで な く,心
を使用 して ,よ く噛め る
を考 え る上 で重 要 なの か も しれ な い (清 田
2002)と 述 べ て い る。残存歯数 によ り 2群 に分
理社 会面 に与 え る影 響 が 大 き い と考 え られ る。
け た ときに モ ラ ール ス ケ ール ,SDS総 合点 とは
2.口 腔 内健康状態 と身体機 能 との 関連 につ い
有意差 がなか った ことか らも,残 存歯数 のみ が
,
,
て い る)と
るいは噛める と思 っ
い う こ との方 が ,全 身健康 へ の 影響
(あ
,
社会 的交流 を増 やす要 因 ではない と思われ るが
て
,
残存歯数 は フ ァ ンクシ ョナ ル リー チ ,開 眼片
食事 によ り栄養状態 の 維持 ,増 進 を もた らす だ
2分 間足 踏 み ,UP&GOテ
ス トと相 関 が あ り,残 存歯数 を 2群 に分 けた と
けで な く,楽 し く,お い し く食 べ る ことがで き
れ ば他者 との 交流 の 場 とな り心理 的 に も社会 的
きに フ ァ ンクシ ョナ ル リー チ ,開 眼片足 立 ち時
に もよい状態 が保 って い け ると思 われ る。
足立 ち時間 ,握 力 ,
間 ,握 力 ,UP&GOテ ス トで 有意差 が見 られた。
残存函数 によ り 2群 に分 けた ときに有意差 の
その うち,フ ァ ンクシ ョナ ル リー チ は動 的身体
見 られ たの は MMSE総 合 点 で あ っ た 。 MMSE
バ ランス を,開 眼片足 立 ち時 間 は静 的身体 バ ラ
は簡 易知能評価 ス ケ ール で ある。今 回 の 調査 で
ンス をみ るの に用 い られ る指 標 で あ る。 バ ラン
は 残存歯数 とHDSR総 合 点 には 関連 がみ られ な
ス能 力 と口腔 の 関連 につ いて ,咬 合 の 支持 の得
か っ た 。 MMSE,HDSRは 共 に認知機 能 を評価
られ な い顎 口腔 系 の 状 態 が 平 衡機 能 を障害 し
す る ス ケ ール で あ り,合 計点 の相 関係数 は0.94
姿勢制御機 構 に何 らかの 悪影 響 を及 ぼ す ことが
と非常 に高 い (加 藤 ,1991)こ とも明 らかになっ
推測 され (石 上 ,1990),そ の ため 口腔 健康状
態 を良好 に保 ち ,か つ 咬合 が適合 して い る こと
て い る。 しか しMMSEは 記憶 に直 接 関係 す る
課題 は少 な く,言 語理 解 や書字 ,構 成 な どの課
が高齢者 の転倒 防止 につ なが る可 能性 を示唆 し
題 が 含 まれ て い るの に対 し,HDSRは 記憶 に 関
てい る (安 藤 ,1999)。 今 回 は ,咀 疇 力 や咬合
す る課題 が よ り多 く含 まれて い るとい う特 徴 が
つ いて は調査 してい な いた め ,残 存 歯数 の 多 さ
あ る。村 山 らは ,MMSEと
のみで転倒 防止 につ なが るか ど うか は言 い切れ
知症 の タイプに よって その得点結果 に差異 が あ
な い部分 が あるが ,身 体 のバ ランス能力 に残存
るか を検 討 した結果 ,認 知機 能障害 に差異 が あ
歯教 が 関係 してい ることが明 らか にな っ た 。
る こ とを示 唆 して い る ¢↓山 ,2000。 今 回 の 調
,
HDSRを 使 用 し,認
高齢者 の握 力 は加齢 に伴 う体 力変 化 をみ るの
査 で ,残 存 歯 数 とMMSE総 合 点 に は 相 関 が 見
に最 もよい指標 のひ とつ (田 中 ,2006)で ある
られ ,HDSR総 合 点 とは相 関 が見 られ なか っ た
とされてお り,残 存 歯数 が 多 いほ ど休力 があ り
とい う結果 は ,残 存歯数 は記 憶 に特化 した認知
活動 的 な高齢者 で あ ると考 え られ た 。
で はな く,幅 広 い認知 全般 に関わ る能 力 に関係
3.口 腔 内健康状態 と心理 ,社 会 的機能 との関
してい る とい う こ とか も しれ な い 。長 谷川 は
連 につ いて
GOHAI総 合 点 とモ ラ ール ス ケ ー ル 総 合 点 で
正 の 相 関 が ,SDS総 合 点 とは 負 の相 関 が 見 られ
た。日腔 内 の 満足度 が高 けれ ば ,主 観 的幸福感
-4-
,
健常高齢者 とアル ツハ イ マ ー群 の 残存歯数 を比
較 して ,ア ル ツハ イマ ー群 では有意 に少 ない こ
と,ま たアル ツハ イマ ー群 ではi残 存歯 の 増加
に伴 い ,発 症 の リス クが軽減 した ことか ら,歯
地域在住高齢者 の国隆 内健康状態 と心 身健康状態 との関連
牙喪失 がアル ツハ イマ ーの 危険 因子 とな りうる
可能性 が ある (長 谷川 ,2005)と 述 べ て い るこ
引 用 文 献
とか らも,残 存歯数 は認知機 能 と関連 が あると
い う ことが示唆 され た 。
今 回 の調査結果 か ら,日 腔 内 の健康状態 が身
体機 能 に も心理 ・社会 的機 能 に も影 響 が あ る こ
とが明 らかにな っ た 。 口腔 は あ くまで も体 の一
安藤雄 ― ,花 田信弘 (1999):高 齢者 の国腔健
康状態 と全身健康状態 との関連―「8020デ ー
タバ ンク調査」 の結果 か ら一, 日本歯科医
師会雑誌 ,52(8),19-29.
長谷川雅哉 (2005):ア ル ツハ イマー型痴果 と
器官 で あ り単独 の健康 は あ りえず ,ま た逆 に全
身 の 健康維持 に も健全 な口腔 は 欠 かせ な い (加
歯牙喪失 ,老 年精神医学雑誌 ,16は ),432-
藤 ,2001)。 今 回 は口 腔 内健 康 状態 と心 身健康
腔保健 の状態 。
状態 との関連 をみ て きたが
,日
向上 と全 身 の QOLま た は全 身 の 健康 に 関す るQ
438.
石上恵 一 ,島 田淳 ,宮 田敏則 (199③ :顎 回腔系
の状態 と全 身状態 との 関連 に関す る研究
指 摘 が あ る よ うに ,本 研 究 は全 身 の QOL評 価
有床義歯装着患者 における義函装着 の有無
が姿勢 ,特 に重心 動揺軌跡 に及ぼ す影響
には至 って い な い 。今後 は歯科 医療者 の協 力 も
姿勢研究,10(2),135-142.
OLを 評価 した研 究 が 少 な い (湯 浅 ,2006)と
,
求 め ,高 齢者 のみで はな く,歯 牙喪失 をす る前
柿木保明 ,寺 岡加代 ,鈴 木俊夫 ,迫 田綾子 ,小
の 青壮年期 も対象 に し,よ り詳細 な口腔 内健康
林直樹 ,小 笠原正 ,渡 辺茂 ,内 山茂 ,金 杉
尚道 ,板 東達夫 ,森 田知典 ,上 田敏雄 ,平
状 態 の 把 握 と全 身 の QOLと の 関連 を検 討 して
塚正雄 ,山 本幸代 9002):年 代別 にみた口
腔乾燥症状 の 発生頻度 に関す る調査研究
い く必要 が ある。
塗醐
Ⅶ .結
,
厚生科学研究費補助金長寿科学総合研究事
業 「高齢者 の回腔乾燥症 と唾液 物性 に関す
残存歯数 が 多 い ほ ど回腔 に 関す る満足度 は高
い ことが 明 らか にな っ た 。身体機能 の面 か ら見
ると身体 の バ ランス能 力 に残 存歯数 が 関係 して
い ることが明 らか になった 。心理 ・ 社会 的機 能
の 面 か らは ,回 腔 に 関す る満足 度 が 高 けれ ば
,
主観 的幸福感 は高 く,ま た抑 うつ 度 は低 い 。残
存面数 は ,認 知機 能 に影響 が ある ことが示 唆 さ
る研究」平成 13年 度報告書 ,19‐ 25.
加藤元 ,浜 口伝博 (2001):歯 周炎 の有無 と生
活習慣 および全身 の健康状態 との関連 につ
いて ,産 業衛生雑誌 ,43,174-179.
木谷尚美 ,谷 口好美 ,成 瀬優知 (2000):自 立
高齢者 の残存函数 と社会的交流 との 関連
,
老年看護学 ,5(1),71-77.
村 山憲男 ,井 関栄 三 ,山 本由記子 ,小 高愛子
れ た。
,
木村通宏 ,江 渡江 ,新 井平伊 (2000:痴 果
本論文 の 内容 の一 部 は ,第 65回 日本公衆衛生
学会 (2006,富 山),3h lnttrnational Co erence
AD/PD(2007,SЛ zbu昭 )に お いて 発表 した。
性疾患患者 におけるHDSRと
MMSE得 点の
比較検討 ,精 神医学 ,48② ,165-172.
内藤真理子 ,鈴 鳴 よ しみ ,中 山健夫 ,福 原俊一
(2000:回 腔 関連 QOL尺 度開発 に関す る予
謝
備的検討 ―Gener』 Oral Assessment lnde
x(GOHAD日 本語版 の作成 ―, 日本 国腔衛
辞
本研究 の実施 に多大 な協 力 を項 いた,本 研究
対象地域 の保健師 の皆様 ,医 療法人仁寿会加藤
病院 の皆様 ,本 学 の検診 メ ンバ ーの皆様 に深 く
感謝 いた します。
生学会雑誌 54(2),■ 0‐ 114.
清田義和 ,蔑 原 明弘 (2002):高 齢者 の咀囀能力
と日常生活動作遂行能力 との関連性 につい
て ,平 成 14年 度医療技術評価総合研究事業
「回腔保健 と全 身的な健康状態 の 関係 につ
いての総合研究」報告書 ,172‐ 181.
田中千晶 ,吉 田裕人 ,天 野秀紀 ,熊 谷修 ,藤 原
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松岡 文子 ・山下 一也
佳 典 ,土 屋 由美子 ,新 開省 二 9000:日 本
公―
衆衛生雑誌 ,弱 ③ ,671-679.
湯浅秀道 ,内 藤真理子,野 村義明,花 田信弘 9
000:口 腔の健康 とQOLに ついて,回 腔 と
全 身の健康状態 に関す る文献調査報告書
(正
),2007-09‐ 18,
http://wwwi8020zttdan‐ orれ /pdf/iigyO/k04kuu zensll1 1,pdf
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地域在住高齢者 の国腔内健康状態 と心身健康状態 との関連
Relttionship Between Ord Hedth and Generd
Healh in the Elderly People
Ayako MttsuoKA and Kazuya ttЩ
SHITA
Abstract
Tlle ai“l of his sttdy was to investigate and measure the rel
onship be柿 /een
oral health and general healh in he elderly people.
A total of 222 subieCtt Were examined,GOHAI was cOrrelattd witll number of re―
maining tee血 ,tottI Philadeと phia Geriattic Center A/1orЛ e Scale,Se卜 Rating De―
pression Scale.
SubieCh Were d
teedl, 0‐
ided into two group according to he number of remaining
9 teetll and 10 俺etll and over。 「Γhere were signiicant correlations be‐
いⅣeen he number of remaining teetll and he grip power, he timed to stand on
one foot(opened eyeo,he umed up and go ttst,Mini Mental Sttate Examina‐
tion.
Tllese resutts suttest hat elderly people
血 remaining teetll have good status
of body balance and cognitive funcion,
Key Words and Phrases: elderly people,oral healtll,remaining ttetll,GOHAI,
general healtll
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