国内の未上場企業買収上の留意点~デュー

みずほ総研コンサルティングニュース 2016.2
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国内の未上場企業買収上の留意点
~デューデリジェンスの観点から~
1.近年増加するM&A
2015 年のM&A件数は、対前年比 6.3%増の 2,428
件と、4年連続での増加となった(レコフ調べ)。内
訳は、日本企業同士のM&Aが 1,663 件と最も多く、
その中で未上場企業関連は 1,467 件と約 9 割を占め、
規模の大小にかかわらずM&Aが活発に行われてい
ることがうかがえる。
未上場企業のM&Aは、上場企業と比べて情報が入
手しづらかったり、そもそも情報がなかったりするな
ど、
会計監査を受けていないという点以外にも注意を
要する点が多い。重要な情報を見落とした結果、それ
を買収価格算定の前提となる事業計画に織り込むこ
とができず、高値づかみをしてしまうケースや、確定
契約後の価格調整フェーズで問題が発生してしまう
ケース、
さらには買収後に想定外の多額のキャッシュ
アウトが発生するといったケースも耳にする。
本稿では、M&Aにおいて非常に重要なプロセスで
ある「デューデリジェンス(DD)」について、特に未
上場企業を買収する際の各DDの留意点を述べる。
2.ビジネスDD、財務DDにおける留意点
まず、ビジネスDDだが、未上場企業の場合は、経
営者の支配力が強く、
バックオフィス機能に人員を十
分に割けないことが多いため、大前提となる事業計画
が非常に強気なものになっている、あるいはそもそも
事業計画自体が作られていないことがある。また、事
業別に計画が作成されていないなど、
必要な切り口で
の計画値がない、
あるいはある時点で基準を変えた結
果、
時系列に数字を分析できないといったこともある。
こうした場合は、Q&Aリストやマネジメントインタ
ビューなどのアプローチで、
特に実現可能性を重視し、
数値の作成・検証を行って情報を収集する必要がある。
このほか、ビジネスDDあるいは財務DDにおいて、
確認すべき主な留意点は下記のとおりである。
関連する項目
留意点
長期滞留在庫の可能性
債権の貸倒リスク
会計処理
固定資産の減損
オフバランス項目(退職給付債務、未払残業代、
債務保証、偶発事項など)
受託/委託取引の有無とその処理方法
内部取引の有無とその処理方法
ビジネス
共通費の配賦状況
役員報酬の妥当性
支払保険料の妥当性
キャッシュフロー
入金サイトと支払サイトのバランスなど、資金繰
りの状況
これらについて留意すべき理由としては、
◆会計処理に関する各項目は、会計監査を受けていない
ため放置されていたり、知識や人員の不足といった要
因で見落としがちになる。
◆ビジネスに関する項目は、恣意性が介入する余地が多
いため、適切な評価を行った結果、将来の事業計画に
重要な影響を及ぼす懸念がある。
◆キャッシュフローに関する項目は、仕入先や得意先と
のパワーバランスによって不利な取引条件となってい
るケースが多い。
主に以上の点に留意し、事業計画や純資産の調整を行
うことで、把握した実態を買収価格に反映させることが
重要である。
3.その他DDにおける留意点
上記以外にも、税務や法務、ITや人事、環境など、
さまざまなDDがある。ここでは、税務および法務のD
Dにおいて検討すべき主要な論点について述べていく。
まず税務DDでは、これも多くの未上場企業の特徴で
ある知識や人員の不足などにより、税務計算上のミスや
申請すべき書類の提出漏れで、買収後にキャッシュアウ
トが発生したり、本来享受できていた節税効果を逃して
しまうことがあるので、単純な部分ではあるが注意を要
する。そのほか、一般的な留意点として、繰延税金資産
の回収可能性や関連当事者間取引、さらに組織再編税制
における適格要件などについても留意すべきであろう。
一方、法務DDの留意点として、取引契約書を結んで
いない、結んでいても紛失して実態がよく見えなくなっ
ている、といったことがある。また契約においては、
「チ
ェンジオブコントロール(COC)条項」や「予約解約・
中途解約に関する条項」「競業避止に関する条項」など
に留意が必要である。そのほか、設立における適法性や
許認可、知的財産や訴訟・紛争は、確認すべきである。
4.むすび
DDは単に買収価格の算定やリスクの洗い出しとい
った個別機能だけでなく、そのプロセスで経営上の問題
点や課題の抽出、
さらには買収後のシナジーをいかに生
み出せるかといった、
M&Aを成功に導くうえで不可欠
な、より重要な機能を担っている。
こうした機能を果たすために、各DDを独立して実施
するのではなく、相互に連携しながらプロセスを進め、
定量化が可能なものについては事業計画などに適切に
反映し、定量化が難しいものについては表明保証などに
より何らかの形で情報として残すことが肝要である。
前
述のような留意点を念頭に置き、対象企業の評価に活用
していただければ幸いである。
みずほ総合研究所 コンサルティング部
コンサルタント 飯田俊哉
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