「強み」に目を向け、組織を強化する

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みずほ総研コンサルティングニュース 2016.10
Mizuho Research Institute Consulting News
「強み」に目を向け、組織を強化する
~五輪リレーのバトンパスから学ぶ組織づくり~
1.リオデジャネイロオリンピックで発揮された組織力
8月に開催されたリオデジャネイロオリンピックで
は、数々の名場面が誕生した。なかでも個と組織の力
を最大限発揮し、世界を驚かせた陸上男子 400mリレ
ーに焦点を当てたい。ジャマイカ、アメリカ、カナダ
といった強豪国は、ほぼ 100m9秒台のメンバーが揃
う一方で、日本代表は個人のベストタイムで9秒台を
出しているメンバーは1人もいなかった。このような
状況で日本が銀メダルを勝ち取ることができた理由に
は、日本の強みをとことん強化し、改良を重ねた結果
があった。
2.独自のバトンパスを強化し続けて得られた成果
100m9秒台の選手がいない日本代表が世界で勝つ
ためには、バトンパスの時間を短縮するしかなかった。
日本が 2001 年から採用しているバトンパスは、他国が
取り入れているオーバーハンド・バトンパスとは異な
る「アンダーハンド・バトンパス(下から上にバトン
を手渡す)」である。日本がこだわり続けたこの方法は、
タイミングを合わせる呼吸と高い技術が求められる一
方で、利点として、次の走者との距離がつまらずバト
ンを受ける際にも腕が振りやすくなり、減速すること
なくバトンを渡すことができることが挙げられる。日
本は選手・コーチがこの利点をどのように活かすべき
かの議論を重ね、渡し手も受け手も、これまでより少
し手を伸ばす形に改良し続けたのである。また、走者
の順番においても各選手の強みが活かせる箇所を走る
ということまでとことん考え抜かれていた。
「日本の強みをどのように活かすか?」ということ
にこだわり続け、改良を重ねた結果として生み出され
た銀メダルから企業が学ぶべき点は多いのではないだ
ろうか。
3.強みに主眼を置き、組織の力を高めていくということ
実際、自社の強みを理解し、その強みに焦点を当て、
とことん改良し続けている企業は多いのだろうか。
コンサルティングの現場においては、
「問題を解決す
ることの方が先決」
「強みなんてうちにはない」という
声を耳にすることが多い。その理由として、多くの企
業が経営方針(あるべき姿)を掲げながらも、目の前
にある問題に対して、いかに不具合が出ないようにす
るかといった点に主眼が置かれていることが挙げられ
る。それでは、どのようにすれば、組織の強みを発見
し、その強みを強化していくことができるのか。
「AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)」
といわれる、ポジティブな側面に着目した組織開発手
法がある。日本において注目されるようになってきたの
は最近のことだが、ポジティブ・アプローチといわれる
この手法は、問題に着目するのではなく、これまで組織
の中で起こった成功体験について、メンバー同士で対話
を通じて見つけ出し、成功要因を分析し、「ありたい姿」
を描き実行していく、いわば組織の「強み」に焦点を当
てた課題解決方法である。
例えば、「営業所同士の連携が進まない」「人が定着し
ない」といったテーマに対して、
「各営業所が情報を発信
し連携を高めていくためには?」
「働きやすい職場となり、
人が定着していくためには?」というポジティブなテー
マにまず切り替える。そのうえで、これまでの組織内に
おけるさまざまな成功体験やその要因を分析し、実行に
移していくという流れだ。400mリレーにおけるポジティ
ブ・アプローチを、よくあるアプローチと対比すると、
以下のように考えられる。
<よくあるアプローチ>
《ポジティブ・アプローチ》
目標「北京五輪よりも輝くメ
目標「北京五輪よりも輝くメ
ダルを獲ろう」
ダルを獲ろう」
↓
・4人の合計タイムで比較する
↓
・日本が得意とするバトンパ
と入賞するくらいが限界だ
スをさらに進化させよう
・アンダーハンドパスはバト
・今までよりも 50cm 離れた
ンを落とすリスクが高いの
ところでバトンを渡せば●
で、これ以上、手を伸ばす
秒縮まるね!
のは危険すぎる
・今までのやり方は変えず
に、スピードを上げよう
・1 人 1 人が9秒台を出せるま
で練習するしかない……
⇒問題に主眼が置かれ、後
ろ向きな議論になりがち。
結果、課題解決には至ら
・バトンの受け取り位置はこ
こ!
・スタートが得意な選手はA、
カーブが得意なのはBだ!
⇒前向きな発言に着目し、対
話をすることで、これまで
にない、より良い方法を考
えることができる
ない
400mリレーチームと同じように、ポジティブ・アプ
ローチという手法に、いち早く注目し、強みを最大限
に発揮し成果を上げている企業が出てきている。自社
に置き換えた際、問題や弱みの改善ばかりに着目する
のではなく、強みに目を向け、強化するための取り組
みはできているだろうか。本稿をお読みいただいた皆
さまには、いま一度、振り返っていただきたい。目まぐ
るしく変化する経営環境下において、組織力の強化を模
索している企業には、ぜひ参考にしていただきたい。
みずほ総合研究所 人事コンサルティング部
主任コンサルタント 小笠原 敦
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