会社分割を伴う純粋持株会社体制移行のポイント

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みずほ総研コンサルティングニュース 2016.9
Mizuho Research Institute Consulting News
会社分割を伴う純粋持株会社体制移行のポイント
~組織再編目的を明確にすることの重要性~
1.会社分割を伴う持株会社体制
大企業、なかでもグループ子会社を多数抱えた企業
や複数の事業を保有する企業の持株会社体制への移行
は一巡し、近年は規模が比較的小さく、または事業が
単一もしくは類似している企業の持株会社体制の移行
が増加していると感じている。
このようなタイプの持株会社は同時に事業を分割す
ることが多く、組織再編としては大掛かりなものとな
ることがあるが、実際には持株会社の必要性が低い場
合も多く、持株会社体制への移行後に「持株会社体制
が機能しない」といった問題を抱えることが多い。
2.持株会社体制移行の目的
上記のような会社の持株会社体制移行は、目的によ
って「税務目的」と「事業目的」の2つに大きく分け
られる。税務目的とは、非上場会社のオーナー株式の
相続税評価額を低下させることや、住民税均等割を安
くすることなどに目的がある。ここでは詳細な説明を
割愛するが、「持株会社体制が機能しない」場合の多
くが、税務目的を中心に持株会社を設立した場合だ。
税務メリットにより持株会社設立を検討するに至った
場合は、事業への影響を十分に検討していただきたい。
一方、事業目的とは、目的として具体的には①戦略
機能の強化、②事業の強化、③本社機能の強化の3点
を挙げることができる。本来、持株会社は長期的な視
点をもってグループの経営戦略を立案し、必要な経営
資源の配分をミッションとする組織体である。事業会
社の経営としては、短期的な視点かつ現在の延長線の
発想での経営目標の設定や戦略の立案となりやすいと
いった問題点を補う役割を期待されている。
持株会社設立により、事業部門が事業会社として切
り出されることになるが、単一の会社を切り出すだけ
では、上記の戦略機能の強化の意味合いが極めて弱く
なる。そのため、持株会社体制への移行自体を見直す
必要があると考えられる。
本社部門の視点からは、事業会社の中では脇役的な
存在であった本社スタッフを、持株会社の戦略スタッ
フとして位置づけることができることから、スポット
ライトが当たることになる。求められる仕事の質も大
きく変わることになり、キャリアパスも広がることか
ら本社スタッフにとっては大きなチャンスとなる。特
に本社スタッフの中で閉塞感の強い会社にとっては、
スタッフのモチベーションを高めることができるよう
になるため、有効に活用していただきたい。
3.会社分割による事業の強化
持株会社体制への移行に伴い事業の強化を行うため
には、事業を分割して事業会社を設立すること(会社
分割)が有効になることがある。会社分割には①事業
別分社、②機能別分社、③地域別分社の3つが考えら
れる。事業会社の設立には、それぞれの事業の責任者
を決め、責任と権限を与え、事業運営を任せるという
意味がある。したがって、将来にわたって持株会社の
社長が事業会社の社長を兼務することを想定するので
あれば、事業分割する意味は小さい。
事業別分社は、許認可関係やリスク管理上の問題で会
社を分ける必要がある場合のほか、機器販売事業と飲食
事業など、1つの会社の中で違う業種の事業を展開して
いる場合は、業歴の長い事業や売上の大きな事業に優先
して経営資源が配分され、主要な事業に適した制度の中
で窮屈な経営を強いられている場合が多いため、事業会
社として分割することで成長を加速させることが可能
となる。特に給与・勤務形態、昇給昇格、キャリアパス
などの人事関連の課題に対して効果がある場合が多い。
一方で、関連が強い事業の場合は、分社によりシナジー
が失われてしまうリスクがあるため注意が必要だ。
機能別分社は、営業と製造を分離するなど、機能子会
社を設立することになる。一般的には、1つのビジネス
プロセスを分断することになるため、事業規模が大きく
ないと実施しにくいが、製造部門のプロフィット化によ
る生産性の向上などを目的に実施されることがある。
地域別分社は、全国規模に拠点がある販売業などにお
いて、現場密着の営業や品揃え、人材確保などの理由か
ら地域別に分社することが有効な場合に実施される。
4.最後に
持株会社体制移行については目的を明確にすること、
その目的に応じた内部組織設計や機能設計を行うこと
が必要だ。また従業員への説明を明確に行うことによ
り、従業員の意識を変革し、組織再編を企業の持続的
成長につなげるきっかけとなるような経営からの働き
かけが重要である。
みずほ総合研究所 コンサルティング部
上席主任コンサルタント 宮下大輔
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