中小オーナー企業における円滑な「親族外承継」の

みずほ総研コンサルティングニュース 2016.8
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中小オーナー企業における円滑な「親族外承継」のポイント
~どのような「事業承継の方向性」であろうとも、オーナー社長が共通して準備しておきたいこと~
1.「親族外承継」を選択する社長に共通する思い
中小オーナー企業の事業承継では、自社株や相続とい
った点から、多くの社長が「親族内承継」を選択してき
た。しかし、近年は、少子化などの影響もあり、生え抜
き社員の起用や社外への自社株売却(M&A)など「親族
外承継」(図)を選択するケースも増えている。親族外
承継において、「社内の生え抜きを起用するのか、社外
人材を起用するのか」や「自社株を手放すべきなのか」
などは、非常に悩みが深い問題だが、事業承継がどのよ
うな「方向性」であったとしても、現社長が共通して思
い描くこととは、「親族外の第三者にバトンタッチした
後も経営がしっかりと円滑に回る『良い会社』にしてお
く」ということではないだろうか。
継の方向性において、どのような不具合が生じる恐れが
あるか」を明確にする必要がある。
3.経営幹部などの巻き込みによる「仕組みづくり」
懸念点(リスク)を洗い出した後は、これら懸念点に
対応するための「経営の仕組みづくり」が重要となる。
中でも、現経営幹部や次世代の経営幹部候補(以下、経
営幹部(候補者))に対応してほしいと考える懸念点に
ついては、彼らを巻き込んだ検討が必要だ。これは、承
継後の経営を主体的に推進するのは、経営幹部(候補者)
であり、当事者意識をもって懸念点に対応する「経営の
仕組みづくり」に取り掛かってもらうためである。
ただし、
「組織マネジメント方法」
(組織の牽引方法)
がトップダウン型で行われてきた企業の場合は、経営幹
部でさえ指示待ちであったり、社内の雰囲気が意見や提
案をしづらい状況となっており、
「経営の仕組みづくり」
がうまく進まないケースが見受けられる。このようなケ
ースでは、例えば経営幹部の意識改革や人材育成の意図
も含めて、中長期ビジョンやこれに向けた経営課題・重
点施策の検討などを行い、「経営の仕組みづくり」につ
なげていくこともよいやり方である。
4.円滑な親族外承継に向けた3つのポイント
2.社長退任後の経営上の「懸念点(リスク)の棚卸」
事業承継を節目として、経営が大きく変わることは少
なくない。これによって、業績が不安定となることも
多々ある。こうした事態を避け、「良い会社」として経
営をバトンタッチするためには、まず、オーナー社長が
承継を想定し始めた時点で、承継後も経営が円滑に回る
かどうかの「懸念点(リスク)」を洗い出し、整理する
ことが重要となる。懸念点の棚卸にあたっては、以下の
ような観点で行うことが考えられる。
■懸念点の棚卸の観点(例)
●次世代の組織体制
・具体的なイメージはあるか?
・次世代の組織体制を想定した時に、後継者を含む経営幹部
は育っているか? ……など
●経営の方向性
・中長期的なビジョンや、これに向けた経営課題および施策
は明確になっているか? ……など
●組織マネジメント方法(組織の牽引方法)
・社内ルール(職務分掌や承認ルートなど)や経営課題取り
組みのための会議体(意思決定方法)が適切に設定されて
いるか? ……など
ここで大切なことは、例えば、生え抜きの社員を起用
した場合や社外に自社株を売却(M&A)した場合など、
さまざまなシミュレーションを行い、「考え得る事業承
中小オーナー企業では「社長がいなければ経営が立ち
行かない」というケースが少なくない中で、「親族外の
第三者に経営をバトンタッチした後も経営がしっかり
と円滑に回る『良い会社』」とするためには、以下の3
つのポイントが考えられる。
①社長退任後の「懸念点(リスク)の棚卸」
懸念点(リスク)は、客観的な視点から洗い出すことが
重要である。これが難しい場合は、信頼のおける経営幹部
や顧問税理士の意見を聞いたり、経営の承継を専門とする
外部のコンサルタントなどを活用するのも一つの手だ。
②実行性を踏まえた「経営の仕組みづくり」
どんなに適切な「経営の仕組みづくり」が行えても、
これを実際に行動に移す(運用する)ことのできる経営
幹部(候補者)がいなければ、“絵に描いた餅”となっ
てしまう。承継後の自社の経営を主体的に推進する現経
営幹部や経営幹部(候補者)の意識改革や人材育成も含
めて、「経営の仕組みづくり」を行うことが重要だ。
③承継準備への早期着手
意識改革や人材育成の必要性なども踏まえると、親族外
承継は一朝一夕にできるものではない。長期的視点に立ち、
できるだけ早くから承継の準備に取り掛かることが重要だ。
みずほ総合研究所 コンサルティング部
主任コンサルタント 富永敬之
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