リサーチ TODAY 2015 年 2 月 25 日 世界的緩和の帰結はドル高、そのコストは 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 イスタンブールで今月10日に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議は、連鎖的な金融緩和の引 き金であるECBの量的緩和(QE)を正当化した。各国中銀はマンデートを盾に自国通貨安を誘導するお墨 付きをもらったようなものだ。ここでのG20声明に背中を押されたような格好になったのが、スウェーデン中 銀(Riksbank)である。ECBのQEがもたらす自国通貨高への脅威からスウェーデン中銀はマイナス金利政 策とQEに踏み切っている。みずほ総合研究所は「G20声明の光と影」と題するリポートを発表している1。為 替相場を通じた近隣諸国への影響が大きく、連鎖的な金融緩和の引き金になりうるECBの量的緩和に対し て、G20が「歓迎する」(welcome)という表現を用いることで、金融緩和を支持する姿勢をより鮮明にしたこと は、注目される。そこでは、為替相場を明示的なターゲットにしない限り、各国で相次ぐ金融緩和が望まし いことになる。すなわち、各国中銀が法的使命(マンデート)を果たすために採る金融政策に対し、より支持 する姿勢が鮮明にされたと評価される。 下記の図表は各国中銀のバランスシートの比較である。スウェーデン中銀のバランスシートの規模は海 外の主要中銀と比べて見劣りしていた。 ■図表:各国中銀のバランスシート比較 80 見込み (名目GDP比%) 70 60 BOJ BOE 50 40 ECB FRB 30 20 10 Riksbank 0 2007 2009 2011 2013 2015 (年) (資料)各国中銀よりみずほ総合研究所作成 今回のスウェーデンのQEの規模は現在のバランスシートの2%にとどまっているので、ECBが今後ユー ロ圏のGDPのおよそ10%にのぼるQEを3月以降に始めると、スウェーデンは割負けしてしまう。そうした危 1 リサーチTODAY 2015 年 2 月 25 日 機感から、今後は緊急緩和も辞さないこと、追加利下げ、フォワード・ガイダンス強化、国債購入の増額とい う既存の緩和手段のすべてが選択肢にあること、新たな企業向け貸出プログラムも視野にあることを明らか にし、できることは何でもするとの姿勢を示した。 このような世界的な金融緩和の連鎖にあって、下記の図表にあるような90兆ドルを超えるグローバルな運 用資産は米国に向かいやすい。米国がこの動きを背景としたドル高に耐えられるかが重要なポイントだ。一 方、こうした巨額な運用資産が移動し、急激なドル高が進めば、ドル建て債務を抱えた米国以外の国の金融 機関や企業の返済負担も拡大する。国際決済銀行(BIS)によると、米国外の金融機関や事業会社等が銀行 から借り入れるドル建て債務残高は9.7兆ドル(2014年9月末)とされるが、その債務負担の拡大にも留意が 必要だ。例えば、中国はこのところ急速にドル建て債務を拡大させてきているので、ドル高はその返済負担 の拡大になる。1月のFOMCは、海外中銀による金融緩和をポジティブに受け止めつつ、同時にドル高によ る外需への悪影響と一段のドル高進行に対する警戒感も示している2。今日の世界経済は、多くの国・地域 で成長の足踏み状況が続く中、米国経済がドル高のコストで底上げすることが期待される状況にある。 ■図表:OECD機関投資家の運用資産推移 (兆㌦) 95 90 85 80 75 70 65 60 2007 08 09 10 11 12 13 (年) (資料)OECD よりみずほ総合研究所作成 1 2 小野亮 「G20声明の光と影」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 2 月 17 日) 小野亮 「米金融政策の 3 つの論点」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 2 月 20 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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