みずほ総研コンサルティングニュース 2017.1 Mizuho Research Institute Consulting News みずほ総合研究所株式会社 人事コンサルティング部 03-3591-7211 Copyright©みずほ総合研究所 2017 無断転載を禁ず 精神疾患による若者の職場離脱を防ぐには ~仕事の質が高まっている原因を知ることの重要性~ 1.労働時間削減だけでは、問題は解決しない 若者が過労による精神疾患によって離職を余儀なく されたり、最悪のケースでは命を落とす事象が社会問 題化している。国も残業月 80 時間という過重労働に関 する基準を設定し、社員が過労に陥らないようチェッ クする事を働きかけるなど、長時間労働是正に向けて 具体的に動き出している。定量的な基準の設定は、誰 にでもわかりやすく必要なことだが、過労による職場 離脱の原因ははたして労働時間だけなのだろうか。 1人当たりの平均年間総実労働時間(パートタイム 労働者を除く)は、1994 年の 2,036 時間から、2013 年 は 2,018 時間と微減している(注1)。一方、精神障害 での労災請求件数は右肩上がりに上昇しており、2015 年度は過去最多の 1,515 件となっている(注2)。デー タを見る限り、労働時間の長さだけが原因でないこと は明白である。 2.労働の質の高まりがストレス増加の原因 労働者の精神疾患の原因は、ストレスといわれてい る。ストレスを引き起こす要因はさまざまだが、仕事 に関するストレス要因トップ3は、①人間関係 ②仕 事の質 ③仕事の量――となっている(注3)。高圧的 な上司や嫌いな同僚との仕事を命じられたり、大量の 仕事をこなさなければならない状況に陥れば、業務内 容に関わらずストレスが高まることは想像できる。 こういった話をすると、 「人間関係の問題や大量の仕 事をこなすことは昔からあった。しかし、職場離脱す る社員はいなかった。最近の若者は責任感が足りない のでは」と思う方もいるのではないだろうか。しかし、 その概念は正しいとはいえない。なぜなら精神疾患は、 責任感が強い人ほど罹患しやすいため、責任感がない ならば患者数は減少するはずである。なぜ、精神疾患 による職場離脱が増加しているのか。理由は仕事の質 が向上しているからではないかと考えられる。 3.仕事に求められる質は、日々向上している 近年、仕事に求められる質が向上している要因はさ まざまだが、以下のような例が考えられる。 ・非正規社員が増加、正規社員が減少し、社歴の浅い正 規社員であっても高いパフォーマンスが期待される。 ・技術の進歩により、一昔前なら若手社員がこなしてい た、緊張感をそれほど要さない単純作業が機械化され 減少している。 ・グローバル化によって競争が激化している。 ・IT の進歩により、社員1人が受け持つ業務範囲が拡大 している。 こうした状況で、入社間もない正規社員にも質の高 い仕事が多く与えられることになり、それが労働時間 に大きな変化がないにも関わらずストレスが増加する 原因になっていると考えられる。 4.現場任せの働き方改革では効果が薄い 厚生労働省が働き方改革を提言し、各企業も「ノー 残業デーの実施」「労働時間の平準化」「労働時間適正 化に関する教育や能力開発の実施」など、業務時間削 減に向けた取り組みを実施している。2017 年2月 24 日からは、月末の金曜日は社員が午後3時をめどに退 社できるよう促す「プレミアムフライデー」も実施さ れる。労働時間の削減を社員に意識づけることは必要 だが、経営層や人事部門などは早く帰るための具体的 な取り組みを、現場任せにしていないだろうか。 5.仕事の質に着目した働き方改革が必要 残業の削減を促すだけでは、仕事の質の高まりによ るストレスを軽減することはできない。そもそも、職 種や業務内容によって、仕事の質の高まりが起因して いる背景はざまざまである。前述の要因について、具 体例を挙げれば以下のようなものが考えられる。 ■「IT の進歩」が要因の場合 ・情報がネット上から簡単に入手可能となり、膨大な 情報処理を行い、情報に付加価値を乗せて示す必要 性が出てきたこと。 ・業務の簡易化の進展は、一見すると良いことと思わ れるが、複数人に分担されていた仕事を1人で対応 することとなり、結果として仕事が増加したこと。 ■「グローバル化」が要因の場合 ・他国の文化、法律、商習慣の知識を身につける必要 性が出てきたこと。 ・英語に限らず、多言語を使いこなす必要性が高まっ たこと。 このような要因に対して、適正な策を講じようとす ると、恐らく予算の確保や要員整備の必要性といった 現場の努力だけでは解決できない問題が生じる可能性 がある。そのため、経営層や人事部門が現場の問題点 を理解したうえで、現場が主体となって問題を解決で きるようなサポートを決断・実行していくことが求め られるのではないだろうか。 注1:[出典]厚生労働省労働基準局「働き方改革について」 注2:[出典]厚生労働省「平成 27 年度 過労死等の労災補償状況」 注3:[出典]厚生労働省「平成 24 年 労働者健康状況調査」 みずほ総合研究所 人事コンサルティング部 コンサルタント 古川元政 [email protected]
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