みずほ総合研究所株式会社 コンサルティング部 03-3591-7211 Copyright©みずほ総合研究所 2016 無断転載を禁ず みずほ総研コンサルティングニュース 2016.3 Mizuho Research Institute Consulting News 成長戦略に応じた海外子会社管理の方式 ~地域統括会社による管理体制と企業成長~ 1.海外進出の増加と子会社管理の必要性 日本企業の海外進出は年々増えており、経済産業省 の海外事業活動基本調査によれば、現地法人数は2013 年度末で2万3,900社を数える。同時に海外売上比率も 増大しているが、それに伴って現地子会社の管理に係 る労力も増している。国内に比べて想定すべき変数の 多い海外子会社管理は、日本企業の成長を担保するた めに熟考を要する課題のひとつとなっている。 本稿では、日本を代表する産業の一つである自動車 部品製造業の海外展開を念頭に置き、海外子会社管理 体制をどのように変化させているかを検討する。 2.3つの海外子会社管理方式 海外子会社の管理方式には、海外事業の複雑性に応 。 じて3つの種類がある1(図) 1つ目は、本社「海外事業担当」部門による統括で ある。この場合、親会社に海外子会社管理を行う部門 を設置し、海外の全事業を管轄する。海外展開する規 模が小さかったり、海外拠点には生産等の単一機能の みを持たせるといった場合によく採用される。海外担 当人員の集約や経験の蓄積にも有効である。 2つ目は、本社の各事業部門別に関連子会社を管理 する方式である。海外での売上規模が拡大し、事業ご とに製造、販売などの機能子会社を持つようになって きた場合は、それぞれの本社事業部門が統括すると効率 がよい。各事業ごとに最適な運用を行うことができる。 3つ目は、地域統括方式である。米州、アジア、欧州 などのくくりで地域統括会社を設置し、管理上の権限を 移譲したうえで域内の子会社を統括させる。海外子会社 は、本社事業部門とともに事業戦略を進めつつ、地域統 括会社と間接機能を連携させる。管理部門が重くなって しまうものの、最も複雑な状況に対応できる体制である。 1.海外事業部管理方式 本 社 A 事 業 国 内 子 国会 内社 B 事 業 国 内 子 会 社 海 外 事 業 海 外 子 海 会 外 社 2.事業部門管理方式 A 事 業 本 社 海 外 子 会 社 本 社 以 外 国 内 子 会 社 B 事 業 海 外 子 会 社 国 内 子 会 社 海 外 子 会 社 3.地域統括会社方式 A 事 業 本 社 国 内 子 会 社 国内 国 内 子 会 社 B 事 業 地域統括 地域統括 海 海 外 外 子 子 会 会 社 社 アジア 海 外 子 会 社 米州 海 外 子 会 社 グ実績からすると、製造業の場合、概ね総売上高1,300億円 ~1,500億円程度、海外売上比率35%程度を超えたあた りで、地域統括方式への移行を決める企業が多くなる ようである。これを境に事業の複雑性が増し、コスト 増加を考慮しても管理体制を整備するメリットが出て くるのではないかと考えられる。 海外進出の初期段階においては、スピードを優先し、 海外事業部方式や事業部門管理方式が採用されがちで ある。その後、海外拠点がさまざまな機能を持つよう になると、現地で意思決定したほうがよい場面も増え てくる。その時に地域統括会社があれば、全社戦略と 域内戦略の整合、間接部門の効率化などのガバナンス に係る課題に対処しやすくなる。また、リスクマネジ メントについても、海外拠点が増えるに従って、日本 の本社だけでは目が届きにくくなる部分を補完するこ とができる。 4. 管理方式見直しの課題と成長戦略 管理体制強化を検討するにあたり、どの企業にも共 通する課題は、地域統括会社で活躍する人材の育成だ ろう。それぞれの実務能力と、言葉や文化の差を超え られる適応力を兼ね備えた人材を獲得・維持し続けな くてはならない。 体制を変更するにも、良質な人材を確保し続けるに もコストの増加は避けられないが、体制も人員数も変え ないままでは、従来の延長線上にある成長しか見込めな い。企業を新たな段階へ進めることを望み、海外事業を 成長の原動力と定めるのであれば、一定の管理コスト増 を受け入れてでも、現地のニーズに合わせた価値提供を 支える体制を整備していくことが欠かせない。 新たな地域統括会社を設置したり、従来設置してい た拠点の役割・機能を見直すことは、複雑になった海 外事業を適正に管理する体制の構築につながる。海外 事業により多くを期待する企業にとって、それこそが 現状では目指すことのできなかった段階に達するため の成長戦略となるのではないだろうか。 弊社では海外進出時の事業計画や体制整備、人事制度構 築に豊富な実績を有しており、今後もこれらの困難を乗り越え て成長を目指す企業を支援していきたいと考えている。下記 連絡先へ、お問い合わせいただきたい。 1)杉山雅彦「海外子会社管理の要点① ガバナンス体制」有限責任監査法人トー マツエンタープライズリスクサービス編『海外子会社管理の実践ガイドブック』中央 経済社、2015 年。 3. 地域統括方式への移行タイミング それぞれの企業が置かれている状況によって適切な 形態は異なるが、弊社における過去のコンサルティン みずほ総合研究所 コンサルティング部 コンサルタント 森 裕介 [email protected]
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