基調報告 > < パネリストによるプレゼンテーション

< 基調報告 >
「内外政治経済の現状」
矢野 和彦(みずほ総合研究所
調査本部
理事・主席エコノミスト)
 本日の議論のイントロダクションとして昨今の政治経済の情勢について確認したい。
 今年を振り返ってみると、中国株の急落、サウジアラビアのイランとの国交断絶宣言、Brexit ショッ
クなど、年初から様々なリスクが顕在化した 1 年だった。長い目で見ても、グローバル金融危機から
10 年が経とうとしているが、世界の政治経済の情勢は安定することなく現在に至っている。
 世界のGDP成長率とインフレ率の変遷をみると、現在の世界経済は「大いなる不安定」の時代を彷
徨っている。世界経済のけん引役不在を背景に、世界市場のパイの奪い合いが生じやすい状況になり、
「スロートレード現象」に拍車をかける恐れがある。
 本日は、世界経済の構造変化と日本経済の行方、米国大統領選後の政策展望と日本の対応、日本の戦
略、この 3 つの論点を中心に質疑応答などを取り入れながら議論を展開していきたい。
< パネリストによるプレゼンテーション >
「マクロ経済学の系譜とアベノミクスの評価」
浜田 宏一氏(エール大学経済学部タンテックス名誉教授、内閣官房参与)
 分配国民所得を用いて試算したGDP(日銀調査)、2008 年基準のSNAで 2013 年度の統計を試算し
たGDP(内閣府)を確認すると、現在の公式統計値を上回っている。日本の経済成長は沈滞してい
るとされる一方で、東京ではビルの建て替えラッシュが起きている現実とのギャップはここにある。
一億総活躍社会も既に 6 割達成されているだろう。
 私の政策提言は、①日本の為替が乱高下する局面においては、財務省は介入して投機者に牽制策を講
じるべき、②株式投資や実物投資をする企業に対しては法人税等の減免のようなインセンティブを与
えるべき(過度の流動資産を保有する企業に対しては制裁措置を講じるべき)、③インフレ目標が達
成された後に、消費税を毎年 1%ずつ段階的に引き上げていくべき。
「日本とアメリカの経済政策」
ロビン・ハーディング氏(フィナンシャルタイムズ
東京支局長)
・ 日本では「アベノミクスの第 3 の矢」
(構造改革)に対する批判が多いという印象だが、私は日本の
構造改革の実績を高く評価している。米国より日本の方が構造改革は上手く進んでいる。
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・ 過去 25 年の日本の構造改革の実績を確認すると、労働派遣法の改正や国有企業の民営化などをはじ
め、様々な改革が実施された。一方米国では、90 年代のクリントン大統領時代の福祉改革を最後に、
経済成長を後押しするような大きな構造改革は実施されていない。
・ したがって、第 3 の矢である構造改革を更に推し進めることが今後の日本経済を好転させるカギでは
ない。カギを握るのは「第 2 の矢」の財政政策である。アベノミクスに大規模な財政出動が含まれて
いるため日本の債務問題を心配する声もあるが、私は評価している。
・ 日本経済がまだ脆弱な内に大きな増税を行ったことは、アベノミクスの失敗点だと考える。オバマ大
統領は米国の経済が弱かった 2011 年頃には、引き締め策を極力避け、積極的な財政出動を行った。
野上 義二氏(日本国際問題研究所
理事長、みずほ銀行
常任顧問)
 先進国が抱える政治の難しさという点で共通していることは、政治の両極化とポピュリズムの台頭で
ある。その背景には、経済が低迷する中で各種のディバイド(格差:年齢、地域、所得、学歴水準な
ど)の顕在化、反エリート・反グローバリゼーションの拡大、メッセージの単純化、Nativism(自国
民優先的な考え方)の拡大が挙げられる。
 米国大統領選挙については、報道ではクリントン氏とトランプ氏の一般支持率が拮抗している点に焦
点が当てられる傾向にあるが、選挙人制度などを踏まえればクリントン氏がかなり有利のようであり、
恐ろしい問題とは思っていない。一方で Brexit は簡単な問題ではないと考える。2017 年にかけて欧
州では重要な政治イベントがいくつか控えており、雰囲気が悪いと言える中で Brexit の交渉を進め
ていくことは非常に難しいだろう。
 欧州が自国の問題に忙殺され世界の問題に目が向かなくなった時に、世界の状況がどうなるかという
点にも注視が必要。
能見 公一氏(株式会社ジェイ・ウィル・コーポレーション
顧問)
・ 不安定化する世界の中で、日本の立ち位置については比較的に楽観視している。安倍政権の下、日本
は世界の中でも政治リスクの最も低い国の一つであろう。日本経済においては、構造問題(人口問題、
財政問題など)などの課題もあるが、
「技術」、
「資本蓄積」、
「巨大な国内市場」、
「良質な労働力」と 4
つの強みを持っている。
・ アベノミクスの効果については、日本企業の「六重苦」を緩和し企業業績を押し上げた点、マイナス
金利付き量的・質的緩和により金利低下・円安等によるプラスの経済効果がみられた点、成長戦略と
しての規制緩和等(法人実効税率の引き下げ、TPP交渉の合意など)に一定の進展があった点は評
価している。
・ 今後の日本の対応に求められることは、ジャパンペシミズムからの脱却、短期決戦の戦略思考からの
転換、企業経営者・機関投資家の意識改革である。
(文責:みずほ総合研究所)
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本概要は、パネリストの方々の許可を得て、みずほ総合研究所が取りまとめたものです。すべての文責はみずほ総合研
究所にあります。
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