働き方改革を躓かせる最後の一歩

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みずほ総研コンサルティングニュース 2016.7
Mizuho Research Institute Consulting News
働き方改革を躓かせる最後の一歩
~トップの号令だけでは変わらない~
1.ダイバーシティ推進のネックは働き方改革
3.試行錯誤の裁量と強制的な支援が決め手
ダイバーシティマネジメントの必要性が叫ばれて久
しい。女性や高齢者、外国人のような、これまで社内
でマイノリティであったと言わざるを得ない多様な人
材を活用することを標榜する企業数も増加している。
また、マイノリティ人材の多様性を活かして、創造的
なアイデアを生み、企業の競争力を向上させないとい
けないという思考も浸透しつつある。
ダイバーシティ推進の具体的な施策は2つに大別さ
れる。1つは、育児・介護休業取得など制約条件の緩
和を図る配慮施策。もう1つは、マイノリティ人材に
対して仕事上のチャレンジや登用の機会を与える機会
均等施策、である。配慮施策先行で始まったが、よう
やく機会均等施策も大企業を中心に推進されつつある。
ただ、ここでネックになるのが、労務提供に制約のあ
る社員を、長時間残業が当たり前の部署へ配属させる
ことの難しさである。
実際、コンサルティングの現場では「育児中の女性
社員は残業時間が多い部署に配属できないが、そうい
った部署を経験していないと昇進させにくい」といっ
た声が聞かれる。過去の成功に裏打ちされた働き方の
パターンが改められず、また「残業して成果貢献を行
うことが当たり前」
「遅くまで働いてくれる人を評価す
べき」といった思考を変え、最小限の残業で退社でき
るように業務を効率化できなければ、本当の意味での
機会均等は実現できない。つまり、ダイバーシティ推
進の果実を得るためには、働く社員の意識を変え、現状
の働き方を改革することが真に必要、ということになる。
では、トップの号令以外で働き方改革を成功させる
ためには、どのようなことが必要なのだろうか。
うまく働き方改革に対処している企業では、①ダメ
もとで良いから自ら施策を試行錯誤する裁量を現場に
与える、②まずは強制的にでも実践せざるを得ない手
段を提供している――ことで成功している。
2.働き方改革に足りない最後の一歩
「目の前の仕事で手がいっぱい。今の仕事のやり方
を変えるなんて、その方が大変」
「仕事のやり方を変え
ろとは会社からも言われているが、良いやり方がある
のだったら教えてほしい」――業務効率化に対して思
考停止した現場の声はこんな具合である。経営トップ
の号令の下、
「働き方を変えなければいけない」という
意識は浸透しつつあるが、どうすればよいのかがわか
らない、というのが本音だろう。最前線の現場にすれ
ば、上から変われと危機感を煽られてもプレッシャー
にしか感じられず、対処の術がない。この最後の一歩
を埋められなくて、地団駄を踏んでいる企業が多いの
ではないだろうか。ここは危機感を煽り、必要性を認
識させること以上に、最後の一歩である「できない」
という懸念を払拭することの方が重要である。
トップの号令
最後の一歩
変わらないといけない
という認識(危機感)
⇒
自分にはできない
という懸念の払拭
①現場自ら考え実践する裁量を付与
②実践せざるを得ない手段を提供
IT ベンダーの SCSK の例(注)では、まず「残業半
減運動」と銘打って残業の多い部署を選び、残業時間
を半減させる施策を自ら考えさせ、とにもかくにも実
践させた。それでも残業時間が減らない社員に対して
は、部署内の裁量で仕事自体を減らした。一方で、
「全
社一斉有給休暇取得奨励日」を設け、該当日に休暇を
取ることの理解を取引先から得るため、会長名のレタ
ーを作って役員クラスがお願いに回った。これらの結
果、7割近くの社員が休暇を取得している。いずれの
施策からも感じられるのは、まずは行動に移し、残業
が減ることの効果を肌で感じさせる、ということだ。
施策は試行錯誤せざるを得ないこともあるため、初め
は一部の部署などの小さな単位で始め、効果が見られ
たところで組織全体に展開し、成功体験にめぐり合え
る可能性を向上させていることも改革に寄与している。
みずほ総合研究所では、働き方改革に向けて、意識
変化のきっかけをもたらすコンサルティングを提供し
ている。残業続きの忙しい社員に対し、①業務を一度
離れて議論する機会を持ってもらい、現状の非効率を
洗い出し、自ら対策を試行錯誤しながら実行してもら
う、②そこでの気付きを踏まえ、会社として改革を継
続しうる支援策を導入する――この2点について支援
を行っている。
注:【参考文献】野田稔『当たり前の経営』(ダイヤモンド社、2014)
みずほ総合研究所 コンサルティング部
主任コンサルタント 井手寛暁
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