小売業を強くするビッグデータ

みずほ総合研究所株式会社
経営コンサルティング部
03-3591-7211
Copyright©みずほ総合研究所 2016
無断転載を禁ず
みずほ総研コンサルティングニュース 2016.11
Mizuho Research Institute Consulting News
小売業を強くするビッグデータ
~販売履歴、レシート、GPSデータを活用した商品展開・販売促進の可能性~
1.小売業におけるビッグデータの可能性
小売業では、オペレーションシステムの情報化が進展し
たことや、ネット販売が急速に拡大したことによって、業
務上膨大なデータが発生している。それは消費行動の実態
そのものであり、まさに“宝の山”といえる。
現在、国レベルでそのデータを活用する動きが始まって
いる。経済産業省は、流通業における商品情報・POS・レ
シート等の多様なデータの利活用を進めるため、昨年10
月に「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究
会」を設置、5回の研究会を開催し、今年5月に報告書を
発表した。それによると、流通(小売・卸業)産業が蓄積
しているデータ量は全産業の中で最も多い。流通産業に蓄
積されるビッグデータを活用することにより、小売業・卸
売業の経営はもちろん、物流や広告販促など、流通に関わ
る産業全体が大きく変革する可能性を指摘している。
しかし、実際には膨大なデータを分析するためのコンピ
ューターやソフトの処理量に限界があることや、各社ごと
に形式の異なるデータを関連付けて分析することが困難
であったため、これまでその活用は不十分であった。ただ、
昨今の技術の進展により、活用の基盤が整い始めている。
2.小売業を強くするビッグデータ
小売業で活用が期待されるビッグデータには、以下の3つ
がある。
(1)販売履歴データ
小売業で発生するデータで最もイメージしやすいのは、
POSデータに代表される販売履歴データであろう。POSレジを
通じて精算された購入日時、購入品目、個数、金額、購入店
舗などのデータが記録される。最近はポイントカードシステム
の発達により、消費者の識別が付与されたID-POSデータも整
備が進んでいる。POSデータの分析により、「いつ(季節・曜
日・時間)どこでどんなものが買われているか」「何と何が同時
に買われているか」等がわかる。これまでも、これらのデータ分
析に基づいて、棚割をどう配置するのが有効か、広告や販促
をどう展開したら効果が高いか、DMやチラシ紙面を商品ごと
にどのような配置にすれば効果的か、チラシの構成によって
粗利をどうコントロールするかなど、MDや広告宣伝、CRMなど
への展開が行われてきた。ただ、ビッグデータの活用が進むと、
より幅広く、より深いデータ分析に基づいて精緻なアクションに
展開できる可能性がある。
一方で、POSレジを導入している店舗は消費全体からみる
と必ずしも多くなく、またID-POSについてもポイントカード等に
加入している消費者に限定されることから、消費全体を把握
するには不十分な面も否めない。
(2)レシートデータ
より直接的に消費行動を表すビッグデータとして注目されて
いるのが、消費者が家計簿ソフト等に入力したレシートデータ
である。レシートの画像認識性能が向上して家計簿ソフトへの
組み込みが進んでいることや、電子マネーの普及が進んだこ
とで、消費者モニターや家計簿ソフトデータの転用により、レ
シートデータが消費実態を表すビッグデータとして活用できる
環境が整いつつある。
レシートデータで入力される情報項目は、POSデータと大き
く変わらない。POSデータとレシートデータの大きな違いは、
POSデータが基本的に自社・自店のデータしか入手できない
のに対し、レシートデータは他社・他店のデータ、POSレジを
導入していない店舗のデータも含めて、消費者の消費実態の
すべてがデータ化される点にある。それにより、自店と他店の
スイッチや購入行動の違いを明らかにしたり、ネット販売と自
店の購入を比較するなど、より深い分析が可能となり、的確な
商品展開・販売促進等につながると期待されている。
現状は商品や店舗などのコードが各社ごとに異なるため、
分析に活用するのは難しい面がある。ただ、前述の「流通・物
流分野における情報の利活用に関する研究会」は、レシート
データをはじめとする消費データの標準フォーマットを2016年
度中に構築することを目標に掲げている。フォーマットの共通
化により、小売業にもより活用しやすくなると考えられる。
(3)GPSデータ
POSやレシートデータは購買時点のデータだが、「どこに住
んでいる人が、どのように移動して購入しているか」を明らかに
できる可能性を秘めているのが、GPSデータである。GPS付ス
マートフォンの普及により、個人がいつどこを移動したかをリア
ルなビッグデータとして蓄積できる環境が整ってきた。
例えば、商圏は通常、「徒歩圏の半径400m」などの円形に
設定することが多い。しかし、実際の商圏は、道路や鉄道の配
置の影響を受けるため、いびつな形になっている。これがGPS
データの活用により、リアルな商圏として表せると期待されて
いる。また、「自店舗付近を行き来する時間帯ごと、年齢層ごと
の人の往来動向」や「どこから来て、どこへ行くのかの顧客属
性種別の動向」を明らかにすることで、広告宣伝をどのエリア
に打つか、その内容はどういったものが適切か、といったこと
が明らかになる可能性がある。対象者はまだ限定的だが、一
部サービスは供用が始まっており、今後の充実が期待される。
3.最後に
近年、小売業では、企業間の合従連衡、業態別垣根の低
下が進み、競争が激しくなっている。その中で差別化を図る手
段の1つとして、ビッグデータの活用に基づく業態展開、出退
店、商品展開、販売促進等の取り組みが注目されている。
小売業におけるビッグデータの活用は、まだ発展の端緒に
ついたばかりである。今回取り上げた3つのデータの整備・活
用が進んでいくことによって、大きな効果を得られる可能性が
あるだろう。
ただし、データの活用は、事業や市場に対する正しい理解
と、目的の適切な設定が必須の条件となる。分析が手段でな
く目的となってしまっては本末転倒。データを活用して事業を
活性化させたいとお考えの際は、ぜひご相談いただきたい。
みずほ総合研究所 経営コンサルティング部
主任コンサルタント 舟橋 豊
[email protected]